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時空戦艦『大和』  作者: キプロス
第12章 戦時の大和~1947年
175/182

第168話 反撃の巨人(前)

 第168話『反撃の巨人(前)』

 

 

 1947年10月16日

 大日本帝国/カムチャッカ半島

 

 あの『パラナ攻防戦』より約5ヶ月。ジョージ・S・パットン陸軍大将率いる米陸軍北方方面軍はカムチャッカ半島の各拠点を順調に攻略し、南下を続けていた。独伊軍による東海岸攻略作戦の頓挫、シベリア国防軍との戦線膠着化により、米軍はこの5ヶ月間を立て直しと増強に費やす余裕が出来ていたのだ。特にパットンは、全力を挙げて米軍組織の再編を行った。対日戦を経験した熟練兵、P-80やB-29といった航空機の大量生産による空軍力の底上げ、そしてM4中戦車やM26重戦車の大量配備による機械化の推進は、米軍の進軍速度を速める結果へと繋がったのである。よく訓練され、よく機械化された米軍機械化部隊は、兵器性能において勝る大日本帝国軍を圧倒した。物量による勝利ではあったが、その物量を支えられるだけの補給網を構築出来たのは、制海・制空権で劣勢に立つ米軍側としては血の滲む努力の賜物であった。

 またパラナ攻略により、帝国海軍の通商破壊戦拠点だったヤムスク、マガダンを攻撃圏内に収められたことも大きかった。この2つの町は、米軍による陸海からの急襲により陥落、占領され、新たに米海軍の潜水艦基地が設置される。そして7月、米海軍はヤムスク・マガダン・パラナの3拠点を軸とした潜水艦による通商破壊作戦を展開する。

 米海軍による通商破壊作戦は、ウラジオストクや北海道、カムチャッカ半島の近海域にて行われた。標的は勿論、帝国海軍の輸送船団等であった。海上護衛総隊はこれらの船団に、海防艦や『松』型のような戦時量産型駆逐艦、そして護衛空母を配備。米潜水艦に備えたが、“日間潜水艦”と言わしめられた米海軍の『ガトー』級を始めとする潜水艦の驚異的な量産速度は、海上護衛総隊の手に負えない存在となり得ていた。そもそも国力増強を推し進めたとはいえ、日米の国力差は次元が異なる。米国のGDP値だけでいえば、日独伊3国全てを合わせても勝てないし、その他の軍需品生産量も他の国々を凌駕していた。

 結果、米海軍による通商破壊作戦は、史実のような入れ食い状態――というわけにもいかなかったが、それでも大多数の輸送艦を沈め、カムチャッカ半島との補給網を遮断した。そこで切羽詰まった大日本帝国軍は、ありったけの輸送機・爆撃機を用い、空輸での補給に切り替えていった。

 しかしその空輸もまた、米軍の妨害を受けないわけではなかった。現状、帝国陸海軍は制海権・制空権において優位に立っていた。それは多数のジェット戦闘機や、三式戦闘機『紫電』といった生産性・性能面で万能だった汎用戦闘機を有し、制空権の確保を優位に進めていたからである。しかしそれも米軍の物量を前にしては形無しであった。米軍もまたP-80などのジェット戦闘機を量産してぶつけてきたし、生産性に優れたP-40などの機体も物量を武器に活躍していた。米国は月平均として約5000機の航空機を生産していたが、対する大日本帝国はその半分以下となる2000機が限界であった。

 

 

 大日本帝国陸軍カムチャッカ方面軍総司令官を務める栗林忠道大将は、そんな現状を一人、方面軍司令部地下壕の中で憂いていた。7月の時点で米軍は、B-29『スーパーフォートレス』による首都ペトロパブロフスク・カムチャツキーへの空襲を継続していた。地上にあった司令部施設は焼かれ、現在は地下壕にて作戦指揮を執っている状態だ。補給は米海軍による通商破壊作戦で滞っており、ペトロパブロフスク・カムチャツキー防衛を担う帝国陸軍第三十八軍でも、深刻な物資不足が続いていた。

 栗林大将は、自分の指揮能力に一抹の不安を覚えていた。逐次、統制された連絡網・監視猛を駆使して戦況を把握し、適切な処置を淡々と下す。それはそれで良かったのかも知れない――目先の問題を解決するには、だが。その点を栗林は反省し、後悔していた。縦深防御戦術と遅延工作、そして空海からの立体的支援攻勢によって進めてきたカムチャッカ半島防衛戦だが、今やその戦略は米軍の圧倒的な物量と、補給線の破綻という危機を前に、崩れようとしていたのだ。

 1947年3月1日の開戦から早7ヶ月、かつて帝国陸海軍相手に敗北を喫し続けてきた米軍は、怒涛の追い上げを見せつつあった。量産型駆逐艦による通商防衛と、量産型潜水艦による通商破壊。その水面下で続く日米海軍の殴り合いは、“数”に分がある米海軍が勝利し、その恩恵として補給線の盤石化・敵補給線の遮断を実現した。また“諜報”――という別の水面下の戦いにおいても、米軍は優位に立ちつつあった。OSS(戦略諜報局)やONI(米海軍情報局)が、今まで使用してきた暗号を全て一新し、『帝機関』に対抗したのだ。そして逆に帝国陸海軍が使用する暗号の解読を成功させていた。これは対ドイツや対イタリア、そして中立国である英仏に対しても同じことだった。トルーマンは軍事技術の開発に多大な予算を投じており、暗号解読を目的としたアナログコンピュータの開発もまたその一つであった。

 また米海軍はそんな“水面下”の勝利だけでなく、水上での勝利もまた捥ぎ取ろうと努力していた。米海軍は3月の開戦とともに喪われた戦艦・航空母艦といった主力艦の建造に着手しており、これを最長でも2年以内に全艦再建造するという。一方、同じく多大な損害を被った帝国海軍では、そのような建造計画は夢のまた夢であった。ここが日米の差と言うべきだろう。『HI作戦』――ハワイ攻略作戦を来年度に目論む帝国海軍としては、恐ろしい話でもある。

 陸・海、そして空もまた、米国の比類無き国力によって制圧されつつある。月産5000機の航空機が米本土で生産され、各戦線へと送り出される。それに搭乗する兵員もまた、『ベーリング島領土問題』と『真珠湾奇襲』を背景とした、愛国心溢れる志願者達によって事欠くことは無かった。また技術開発の面でも、P-80『シューティングスター』ジェット戦闘機の量産化が軌道に乗ったり、長距離戦略爆撃機B-36『ピースメーカー』の試作機が実用レベルまで到達する等、大きな前進を見せている。大日本帝国との『ジェット・ギャップ』、『ボマー・ギャップ』は徐々に解消されつつあった。

 ふと、栗林は大日本帝国勢力圏を示す地図に目を留めた。5月の『パラナ攻防戦』以降、カムチャッカ半島は米軍によって着々と侵略され、今やこのペトロパブロフスク・カムチャツキー以北の半島地域は赤く塗り潰されていた。

 それを見た栗林は、“ここが正念場である”と一人呟く。実は今月初めとなる10月2日、帝国陸軍南方方面軍が台湾の米極東方面軍を打ち破り、台湾から叩き出していたのだ。今年3月から約6ヶ月間継続された『台湾の戦い』だが、パットンの北方方面軍とは異なり、制海権・制空権を完全に掌握され、補給網も遮断されてしまったダグラス・マッカーサー陸軍元帥指揮下の極東方面軍・フィリピン軍に勝ち目は無かった。は台湾における帝国陸軍と台湾国民軍のゲリラ戦術に対し。死傷者55万名、極東艦隊壊滅、フィリピン空軍壊滅という途方も無い被害を出したマッカーサーは、当然の如く更迭されている。

 栗林はこの『台湾の戦い』の終結を喜ぶとともに、台湾防衛に充てられていた南方方面軍の人員・兵器・物資がカムチャッカ半島に充てられることを望んでいた。陸軍はその件に関し、概ね合意しているが、しかし海軍は違っていた。海軍は来年に迫る『HI作戦』の憂いを取り除く為、そして兵力の立て直しで手一杯の状態にある今、フィリピンを攻略するべきであると主張していたのだ。栗林は一刻も早く、増援が送られることを望み、大本営との連絡を毎日取り続けていた。その結果、2日前に大本営からの暗号電が届けられ、栗林の要求が受け入れられた旨の内容がそれには書かれてあった。

 とはいえ、海上護衛総隊による通商防衛が成立されなければ、折角送られた補給も無駄になる。彼自身、帝国海軍――海上護衛総隊の能力を過小評価している訳ではないが、それでも多数の物資が陸揚げされずに海の藻屑となることは看過出来なかった。

 と、彼は同時に、米国という国家の恐ろしさを改めて思い知った。かつて駐在武官として、米国に滞在したことのある彼は、その点を良く理解していた。街中を埋め尽くす自動車の数は東京の比ではない。それも戦前――1920年代の話であった。米国とはそういう国であり、その国力の全てが戦争遂行に注がれれば、途方も無い化け物になるのは無理もない話だ。史実の第二次世界大戦中、米国は約1600万名以上の兵員を極東・欧州戦線に派遣し、尚且つ27万5000機の航空機、8万8000輌の戦車、3億1500万発の砲弾、そして12万7000隻の船舶を生産している。これはアメリカの工業力を結集させた結果であり、枢軸諸国には手も届かない程の物量であった。

 そして今物語の米国もまた、その圧倒的な国力は揺るがない。これは駐米経験のある栗林や、かつて米国との戦争を経験した『大和会』にとって、最も重要な戦訓の一つである。力で押してくるとあらば、技でそれを撥ね返す――。栗林はそう考え、既に市内の要塞化に取り組んでいた。この司令部を始めとする地下要塞網を構築し、地上にもコンクリート等を用いた頑強な防御陣地を構築した。飛行場には『統合戦略航空団』の墳進邀撃戦闘機が列を成し、米陸軍航空軍の戦略爆撃部隊を待ち構えていた。


 

 しかしそれでもこの街が長く持つか、彼はとても心配であった。米国の物量もあるが、それよりも懸念すべき厄介な“憶測”があったのだ。世界各国での諜報活動を続ける『帝機関』の報告によるとこの頃、米国――ニューメキシコ州のとある田舎町にて、何やら不穏な動きがあるのだという……。米軍のトラックがひっきりなしに出入りを続けており、周辺の町々には州兵が配備され、その周辺空域における民間機の飛行が全面禁止となっている状態である……と。





 ――その田舎町の名は、“ロスアラモス”という。


 

 

 

 

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