表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時空戦艦『大和』  作者: キプロス
第11章 戦時の大和~1947年
154/182

第148話 第一次ハワイ沖海戦(前)

 第148話『第一次ハワイ沖海戦(前)』



 1947年3月1日

 アメリカ合衆国/ハワイ準州


 米海軍第8艦隊司令長官のレイモンド・A・スプルーアンス大将と参謀長のトーマス・C・ウェイン少将は、モンタナ級戦艦『ニューハンプシャー』の突風吹き荒ぶ露天の防空指揮所に並んで立ち、ハワイ沖の海域を双眼鏡で見張っていた。伝声管を通じ、艦橋の航海長との連携も密にしつつスプルーアンスはこの第8艦隊の指揮を執っている。

 彼の率いる第8艦隊は昨日、サンディエゴ海軍基地を出港し、オアフ島真珠湾に向かう筈だった。しかし戦艦『ニューハンプシャー』の機関部に不具合が生じて足止めを食らい、出港を遅らせることとなったのだ。本来ならば第8艦隊はこの日の早朝、真珠湾へと入港して補給を済ませ、2日後には大日本帝国海軍の南方根拠地たるトラック環礁に向け、進撃する予定だった。しかし結果は帝国海軍に先手を取られた形となってしまった。確かに米政府としては、日本側から宣戦布告を表明させたという事実はいわば“大勝利”に等しいものだった。何故なら、EU憲章においては加盟国(オブザーバー国を除く)の一国が他国からの宣戦布告を受けた場合、EU全加盟国でその加盟国に対し、軍事的支援を行わなければならないが、逆に加盟国から他国に宣戦布告を出した場合には、EU加盟国がその国に対して軍事的支援を行うのはあくまで各国の任意となるからだ。つまりは今回、大日本帝国はEU加盟国による全面的支援を得られるかどうか、分かったものではない状況に至ってしまったのだ。

 かくして国家戦略的には大勝利となった訳なのだが、真珠湾壊滅というのは米海軍の戦略上、大敗北と言わざるを得ないことでもあった。南太平洋攻略を担う第8艦隊や、現在アラスカに展開中の第3艦隊もその重要補給拠点となるのは真珠湾だったからである。今現在、真珠湾においては燃料施設、海軍工廠、飛行場、駐留艦艇に甚大な被害を被っており、指揮系統も完全に麻痺していた。ホノルルを始めとする居住地域では比較的混乱は生じなかったものの、『日本軍の上陸』や『都市部への空襲』といった噂が倍々的に増殖し、大きなパニックを引き起こしていた。このままでは暴動に発展してしまうかもしれないし、真珠湾において助けを求める負傷兵の救助活動にも支障が生じてしまうだろう。

 「パイ長官は敵艦隊の殲滅で、この混乱に終止符を打ちたいと考えている」

 スプルーアンスは鉄兜を被り直し、隣のウェインに告げた。「第8艦隊は総力を挙げて敵艦隊を攻撃、殲滅しなければならない。そのためにも、早急に敵の位置を見極めねば……」

 「現在、偵察機が捜索中です。オアフ島のレーダーにより、敵艦隊の大まかな位置は把握しておりますので、発見は時間の問題だと思われます」

 「だといいが……」

 スプルーアンスは深い溜息を吐き、ウェインは頷いた。

 「しかし敵にこれだけの戦力の余裕があったのは驚きだな」スプルーアンスは言った。「聯合艦隊主力はカムチャッカ半島に集結し、残る海軍戦力は台湾に向かっているとの報告をONI(海軍情報局)から聞いていたのだが。まさかトラック環礁の駐留艦隊か?」

 そのスプルーアンスの考えに対し、ウェインは首を振った。

 「もしトラック環礁の帝国海軍艦隊だとすれば、方角的に南西から航空部隊を発艦させる筈です。しかし、情報によると最初に襲撃を受けたのはホイラー飛行場。レーダーも北に大編隊の存在を確認しています」ウェインは言った。「それにトラック環礁からハワイまでは、我が海軍の潜水艦による哨戒網が何重にも張り巡らされています。その哨戒網に引っ掛からず、これだけの規模の航空攻撃を行える大艦隊をハワイまで進出させるというのは不可能に近いでしょう」

 「では、君の考えは?」スプルーアンスは訊いた。

 「恐らく……北太平洋を回航してきたのでしょう。その航路ならば、我が海軍の哨戒網も薄いですし、捕捉される可能性はトラック=ハワイ間の比ではありませんから――」

 「報告します。偵察機が敵艦隊を発見しました!!」

 ウェインの言葉を遮り、発せられたその伝令兵の報告。それはオアフ島を2度に渡って攻撃し、真珠湾を壊滅に至らしめた敵発見の報であった。

 「よし、敵艦隊を殲滅するぞ」

 スプルーアンスは頷き、力強く吼えた。



 米海軍第8艦隊が北西に針路を取ったその頃、帝国海軍第八艦隊はオアフ島北方約100海里まで進出し、真珠湾を襲撃した第2次攻撃隊の収容作業を行っていた。そしてそれに並行して、甲板上では第3次攻撃隊の出撃準備作業が行われていた。艦攻、艦戦の腹には対艦用爆弾や航空魚雷が搭載されている。第3次攻撃では、真珠湾内に取り残された残存艦艇と、湾内から脱出したとされるエセックス級空母『レプライザル』撃破が主目標だったからである。特に空母『レプライザル』撃破は重要だった。

 第8艦隊発見の報が哨戒活動を続けていた三式艦上偵察機『彩雲』から届けられたのも、そんな最中のことだった。

 『――我、敵艦隊見ユ。数戦艦3、空母3、重巡5、軽巡10、駆逐艦多数』

 その電信が空母『幻龍』艦橋に伝えれられた時、第八艦隊司令長官の藤伊一大将は思わず顔を顰め、拳を握り締めた。その隣には、第八艦隊参謀長の伊藤整一中将の姿があった。

 「第3次攻撃を中止し、敵艦隊攻撃に向かわせる。ただちにだ!」

 藤伊は叫ぶ。敵艦隊の来襲は予想していたが、あまりにも早過ぎた。

 「お待ち下さい、長官。一部の艦攻には陸用爆弾が搭載されています。陸用爆弾では敵戦艦の装甲は貫けません。換装の必要があるかと」

 そう参謀の1人が告げると、藤伊は首を振った。

 「陸用爆弾でも空母の甲板に穴ぐらいは開けられる。このまま出撃させろ」

 それはあの悲劇的海戦――『ミッドウェー海戦』から得た教訓だった。

 5分後、甲板上に並んでいた第3次攻撃隊は、その主目標を真珠湾から敵艦隊へと切り換え、空母から飛び立ち始めた。その第3次攻撃隊は第1次・第2次に参加しなかった予備兵力と、第1次攻撃隊を編成した機体で構成された航空部隊だ。前述の通り、その機体には対艦用爆弾や航空魚雷が装備され、一部は陸用爆弾のままだった。それでも、その破壊力は藤伊の言う通り、空母の甲板に穴を開けるぐらいはできるものだったので、心配は無用であった。

 しかし機先を制する米海軍第8艦隊の航空部隊は、既に第八艦隊の懐に忍び込んでいた。100機を超す大編隊を第八艦隊の護衛艦艇の対空電探が捉えるのは時間の問題だったが、同時にそれは厄介な問題でもあった。第3次攻撃隊は未だ全機が発艦を成しておらず、戦力が分散してしたからだ。この迎撃態勢の整っていない状況下で大規模な攻撃を受ければ壊滅は免れないだろう。



 ハワイ時間1947年2月28日午後1時12分。ハワイ沖北西80海里にて、帝国海軍第八艦隊と米海軍第8艦隊は対峙、激突した。双方ともに空母を主体とする機動艦隊であり、その将は違う時代を生きながらも深い繋がりを持つ2人――藤伊一大将とレイモンド・A・スプルーアンス大将だった。彼らが指揮を執るその2つの艦隊は互いに航空部隊を出撃させ、世紀の航空戦を行わんとしていたのだ。


 ■大日本帝国海軍第八艦隊(司令長官:藤伊一大将)


 戦艦:(4隻)

    『アーカンソー』『ニューヨーク』

    『ネバダ』『ペンシルベニア』

 航空母艦:(4隻)

    『サラトガ』『インディペンデンス』

    『蜃龍』『幻龍』

 重巡洋艦:(4隻)

    『ペンサコーラ』『ソルトレイク』

    『最上』『熊野』

 軽巡洋艦:(2隻)

    『川内』『神通』

 駆逐艦:(28隻)

 油槽艦:(7隻)


 ■米合衆国海軍第8艦隊(司令長官:レイモンド・A・スプルーアンス大将)


 戦艦:(2隻)

    『ニューハンプシャー』『マサチューセッツ』

 航空母艦:(3隻)

    『ハンコック』『レキシントンⅡ』

    『ホーネット』

 重巡洋艦:(6隻)

    『ヴィンセント』『タスカルーサ』

    『ウィチタ』『ブレマートン』

    『ボルチモア』『セントポール』

 軽巡洋艦:(10隻)

    『ブルックリン』『ナッシュビル』『フェニックス』

    『セントルイス』『サンディエゴ』『サンフアン』

    『リノ』『ツーソン』『フリント』『スケポーン』

 駆逐艦:(32隻)



 午後1時28分、帝国海軍第八艦隊直上に無数の機影が現れた。米海軍第8艦隊第86任務部隊の正規空母3隻から出撃した艦載機だ。その数は100機以上に及び、第八艦隊となるのは明白であった。一方で第八艦隊は計62機の直掩戦闘機を出撃させ、艦隊直上にて待機させていた。また輪形陣を組み、対空砲の準備も万事整っていたため、空の守りは非常に硬かった。

 「各機、グラマンが来るぞッ!!」

 制空隊飛行長の藤田怡与蔵少佐は操縦桿を握り締め、風防越しに迫り来る敵機の大編隊を睨み付けた。相手は米海軍のF6F『ヘルキャット』艦上戦闘機。護衛任務に就いていると思われるその戦闘機群は、第8艦隊の矛たる艦爆、艦攻機を伴い、第八艦隊の空母『サラトガ』に向かって驀進していた。 無論、藤田や帝国海軍の戦闘機パイロット達がそれを見逃す筈は無かった。三式艦上戦闘機『紫電』はその翼を羽ばたかせ、F6Fへと突っ込んでいく。刹那、無数の閃光と火花がハワイの蒼い空に煌めき、両者は互いに回避行動を取りながら交差する。

 「回れッ! 回れッ! 奴らを通すなぁァァァァアアアッッ!!」

 藤田は猛烈なGに四肢を引き裂かれんばかりの激痛を覚えつつも、華麗な右旋回を繰り出し、米海軍機編隊の背後へと回り込んだ。それに気付いたF6Fの数機が翼を翻して、真っ直ぐに藤田機へと突っ込む。両者の対立はまさに一分一秒を巡り、それを制さんとする戦いだった。そんな戦いの中において機体を立て直し、機銃の切っ先を相手に向けたのは――帝国海軍の方だった。

 『少佐ッ! おあつらえの敵さんがおりますぜ』

 「よし。右30度、敵機捕捉ッ! 射ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 藤田は僚機たる中崎悟少尉とロッテ編隊を組み、2機1個編隊でこの空戦に臨んでいた。この『ロッテ戦法』は帝国海軍特別第零航空隊――通称『特零空』時代に学び、磨き上げた技だ。長機(リーダー)が敵機と対峙して攻撃・追撃を担い、もう1機の僚機(ウイングマン)が上空ないし後方に陣取り、直掩としての役割を担う。この戦法の利点は、1機の敵に対しては常に優位に立つことが出来ることと、僚機が機能している限り、攻撃を担う長機が後方や上空からの不意打ちから晒されないということである。

 現在、藤田は長機、中崎は僚機を担い、2機1個編隊として機能している。藤田は操縦桿の機銃スイッチを力強く押し込み、20mm機関砲4門を吼え立たせた。その照準器にはF6F『ヘルキャット』の青々としたボディが映り込んでいた。そして、そこに20mm弾による鋼鉄のシャワーが叩き込まれる。刹那、F6Fの胴体にボコボコと複数の孔が穿かれた。紅い閃光が迸り、黒煙を噴き出したかと思うと、F6Fは前のめりとなって降下を開始した。その姿に生気は感じられなかった。

 「味方の対空砲火に注意しろッ!」

 『了解しました!』

 藤田は注意を促し、眼下に広がる紺碧の絨毯とそこに腰を据える戦艦『ネバダ』の姿を見張った。近代改装を受け、1946年当時の米海軍の技術の結晶を蓄えていたその戦艦は、現在でも健在だった。ボフォース40mm機関砲を始めとする対空砲で埋め尽くされ、針鼠と化した『ネバダ』とその随伴艦艇の対空弾幕は凄まじく、敵味方に少なからず被害を与えていたのだ。

 「敵機接近ッ! 弾幕を張れぇぇぇぇぇぇッ!!」

 戦艦『ネバダ』対空砲班長の絶叫が谺すると同時に、周囲に海面に複数の航跡が刻まれた。次の瞬間、計6本の航空魚雷がネバダの右舷部に直撃、前部火薬庫に誘爆し、その艦体は真っ二つに分断された。前後に引き裂かれ、海上で燃え上がる戦艦『ネバダ』。その上空を米海軍の主力雷撃機TBF『アベンジャー』の編隊が通過する。この事態を引き起こした犯人だ。このTBF編隊が放った航空魚雷が戦艦『ネバダ』を葬ったのだ。

 「……他愛無いな」

 空母『ホーネット』CV-7飛行長のジョージ・ガイ少佐はTBF『アベンジャー』雷撃機を操りつつ、眼下で燃え盛り、沈んでいく戦艦『ネバダ』の最期を見て呟いた。ネバダを中核として機能していた空母『サラトガ』の輪形陣は、この撃沈によって対空砲火の威力が弱まっていた。

 「ここがチャンスか……」

 スロットル全開で疾駆するTBF編隊の標的は空母『サラトガ』だった。ガイは握り締めていた操縦桿を精一杯押し倒し、スロットル全開で敵空母輪形陣直上を駆け抜ける。そこに紫電が駆けつけるも、TBD雷撃機は輪形陣の四方八方から空母『サラトガ』を狙い、迫っており、それを退けることは困難を極めた。

 軽巡洋艦『川内』の対空機銃群から放たれる銃弾が、海面すれすれを飛行するTBD雷撃機編隊を追い駆ける。無数の曳光弾がTBDの脇腹や背中を掠るようにすり抜けていく。上空からは紫電が急降下による一撃離脱戦法で屠るも、その数は圧倒的だ。更に空母『サラトガ』直上には、紫電制空隊と対空砲火による壁を突破したSB2C『ヘルダイバー』艦上爆撃機が舞う。翼を翻し、高度2000mからの急降下ダイブ。駆逐艦や巡洋艦、そして空母『サラトガ』の対空砲が咆哮し、重厚な対空弾幕を形成するも、SB2C艦上爆撃機はそれをもろともせず、突撃を敢行する。

 「敵機、直上ッ! ば……爆弾投下ッッ!?」

 空母『サラトガ』の見張り員が伝声管越しに絶叫し、爆風に巻き込まれる。黒煙に包まれる飛行甲板は、900kg爆弾の直撃を受けて深く陥没していた。これでは離着艦はできまい。空母『サラトガ』攻撃に参加したSB2C搭乗員達がそう思ったその最中、上空から追撃を続けていた紫電編隊が殺到、背後から一突きによって多くのSB2Cが火を噴き、撃墜された。

 「敵空母は慢心創痍だ。このまま押し切るぞ!」

 TBF『アベンジャー』雷撃機を駆るガイは後ろを振り向き、後部の無線手と機銃手に告げる。

 「了解です」

 「やってやりましょう!」

 勝負はまさに一瞬の内に着いた。ガイ率いるTBF雷撃機編隊は飛行甲板を使用不能にされ、機関も破壊されて慢心創痍の空母『サラトガ』に対し、Mk.13航空魚雷を計8本も撃ち込んだ。鮮やかな扇状の航跡を曳き、海面を押し上げながら突っ込んでくる8本のMk.13航空魚雷に空母『サラトガ』は手も足もでない。逃げることさえ爆撃による機関部の故障でままならず、その速力は12ノットまで低下していた。そんな虫の息の空母『サラトガ』に向けて、計5本のMk.13魚雷が直撃、真紅の火柱が海上に聳立した。

 その後も米海軍の航空攻撃は第八艦隊に多大なる被害をもたらした。空母『インディペンデンス』、戦艦『ニューヨーク』、駆逐艦2隻が撃沈された。これにより、第八艦隊は2隻の米空母と、同じく2隻の米戦艦を喪失。この被害は第八艦隊にとって、航空兵力の実に4割近くを失ったといっても過言ではなかった。





ご意見・ご感想等お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ