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時空戦艦『大和』  作者: キプロス
第11章 戦時の大和~1947年
144/182

第138話 コマンドルスキー諸島事件(中)

 第138話『コマンドルスキー諸島事件(中)』



 1947年2月6日

 大日本帝国/ベーリング島


 凄まじい爆音を迸らせ、ベーリング島の蒼く澄み切った蒼穹を駆る一機の機影――それは帝国海軍の新鋭機、六式噴進偵察機『閃雲』だった。五式陸上偵察機『景雲』にその端を発する閃雲は、三菱の『ネ-330』ターボジェットエンジンを搭載した大日本帝国軍初のジェット偵察機であった。心臓部たるネ-330はドイツとイギリスのジェット技術を基に開発された新型発動機で、その生産数はまだまだといったところである。故に六式噴進偵察機『閃雲』の生産数・稼働数も少なく、このベーリング島に侵入した機体も、カムチャッカ半島の帝国海軍航空隊で少数配備されているものの一機に過ぎない。しかしそれでも、最高速力950km以上、航続距離3200kmを誇る機体性能は従来のレシプロ戦闘機をも寄せ付けないものであり、新時代の高速偵察機に相応しい仕様となっていた。

 そんな六式噴進偵察機『閃雲』を操る西口望少尉は、ベーリング島の惨状を亜音速の最中で見張っていた。方々の町村、飛行場、レーダー施設、潜水艦基地、駐屯地等が紅蓮の業火に包まれ、上空は火災と対空弾幕の黒煙によって漆黒に染め上げられていた。その様はまるで――地獄である。無数の砲爆撃に晒されたベーリング島の灰色の大地には、地形を変貌させるほどの夥しい量のクレーターが出来上がっており、爆発と火災で熱せられたその大地からは湯気が立ち込めている。ある地域などは爆撃と砲撃によって一面真っ黒に染め上げられ、積み上げられた焼死体の区別も出来ない状態だった。

 そんな地獄の中で、海岸からの上陸に成功した米海兵隊第6師団は、M4『シャーマン』中戦車や航空兵力の支援を受けつつ、同島内陸部へと進撃を開始する。これに帝国陸海軍ベーリング島守備隊は地下塹壕や廃墟を利用してのゲリラ抵抗戦を展開したが、その戦力差は圧倒的過ぎた。凡そ1万名以上の海兵隊員がほぼ無傷の状態で強襲上陸に成功していたのだ。これに勝利するのはおろか、抵抗するのもままならないのは明らかであった。

 「敵襲ッ!!」

 更に敵は地上の海兵隊員だけではない。上空からはF4F『ワイルドキャット』を始めとする艦載機が次々と来襲し、機銃掃射や爆撃を加えていたのだ。また、海上からは米海軍第39任務部隊の重軽巡による砲撃、ロケット弾攻撃が放たれ、地面ごと帝国陸海軍の兵士達を抉り取っていた。

 「爆弾! 爆弾が来るぞぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」

 耳を聾する爆発音が轟いたと同時に、塹壕に隠れていた帝国陸軍の兵士達は鉄兜を深く被り、両手で押さえ込んだ。刹那、熱風と煤が背中を襲い、塹壕を揺るがす。だがそれは、妙な爆発だった。投下された爆弾は1発だった筈なのに、爆発音は2回立て続けに発生していたのだ。土煙が充満する中、顔を上げた帝国陸軍の兵士達が見たのは、地上に機首からめり込んで炎上するF4Fの残骸だった。

 「零戦だ! 海軍航空隊はまだ滅んじゃいねぇぞッ!!」

 1回目の爆音が轟いた後、微かな銃撃音を耳にしていた兵士の一人は、塹壕から首だけを出して、明後日の空に駆け去る一機の機影を見るや否や、快哉を上げた。それに続くように、他の兵士達も拳を振り上げ、歓喜の声を挙げた。それは飛行場で地上撃破を免れた零式艦上戦闘機二二型の生き残りだった。二二型は空母機動部隊や基地の直掩機をコンセプトに開発された機体で、通常の空母艦載型よりも優れた防弾性と火力を備えている。兵装は九九式20mm機銃2挺(翼内)、一式13mm機銃3挺(機首1挺、翼内2挺)の計5挺であり、追加兵装として三式55mm噴進弾計6発の搭載が可能である。一式13mm機銃についてはドイツのラインメタル社が製造するMG131/13mm機関銃のライセンス生産品で、史実における二式十三粍旋回機銃なのだが、『大和会』による国力増強計画が功を奏し、飛躍的発展を遂げた今物語の大日本帝国では機首固定機銃化が実現したのである。

 『シット! ゼロ・ファイターめッ!!』

 「落ち着け。相手は数機だ、勝負は既に決している」

 ベーリング島上空。米海兵隊航空部隊のF4F『ワイルドキャット』を駆る一パイロットの男は無線越しに悪態を吐いた。最後の悪あがきとばかりに行われた零戦二二型の攻撃が、親友だった男の機体を背後から襲い、炎上墜落させたのだ。そしてその行為に憤怒を隠せないパイロットの男に対し、冷静に窘めるその男こそ、米海兵隊航空部隊を指揮するジョン・L・スミス中佐その人だった。

 「飛行場の敵機は既にその殆どを撃破した。残る機に関しては恐らく、カムチャッカに帰投するだろう」スミスは言った。「1万名以上の海兵隊員と少数の敵機を秤に掛けるなら、前者の方が正しいと判断出来る筈だ。だから敵機は放っておけ」

 『し……しかし……』

 スミスは首を振り、無線機を握り締めた。「……いいか、これは戦争なんだ。ボーイスカウトのハイキングとは訳が違う。吹っ掛けられた喧嘩にわざわざ首を突っ込む余裕があるのなら、目の前の救える命を救って見たらどうなんだ?」

 『は……。イエス・サー』

 「宜しい。では任務を続けたまえ」


 ――しかしこの後、スミスはその己の判断を一生涯に渡って悔やむこととなる。



 1947年2月6日午後5時。薄暮の頃合となったその時間、ベーリング島沖30マイル地点に展開していた米海軍第39任務部隊の艦艇は、已然として艦砲射撃を継続していた。第39任務部隊司令官のアーロン・C・メリル少将は、ボルチモア級重巡洋艦『サンフランシスコ』の艦橋において、その陣頭指揮を執っていた。といっても、制空・制海権を完全に掌握した形となる米海軍の仕事といえば、海兵隊を援護すべく強力な艦砲射撃を一心不乱に撃ち続けるのみである。そしてその仕事も、友軍への誤射が増加する傾向にあった現在に至っては、小規模なものとなっていた。それが引き金となってか、第39任務部隊内の士気は衰えつつあった。十分な対空警戒もなされず、見張り員も手を抜く始末。メリルとしては大日本帝国軍が増援を送り込んでこないかと戦々恐々としていたが、その予兆も見受けられない。彼らは――完全に慢心し切っていたのである。

 ――そんな中、事件は起きた。

 「敵機接近ッ! 方位2-1-0、数1!」

 「何だとッ!?」

 そう思わず叫んだのは第35駆逐隊司令官であり、2年前の1945年2月に起こった『ルーベン・ジェームズ号事件』でソ連海軍潜水艦を撃沈、英雄となった男――アーレイ・A・バーク大佐だった。最新鋭の『ギアリング』級駆逐艦4隻で固めた同駆逐隊は、米海軍第3艦隊でも最高水準の練度を誇る部隊であり、海軍演習では度々、表彰されている。そんな第35駆逐隊に対し、無謀にも接近を図る敵機こそ、スミス中佐が見逃したあの零戦二二型だったのだ。

 「……対空戦闘用意!」

 何を考えているかは分からんが、勝負を仕掛けてきたことを後悔させてやる。そう胸の中に呟き、意気込んだバークだが、その自信は次第に崩れていく。距離1万5千メートルから始まった対空迎撃戦で、駆逐艦4隻から放たれた重厚な対空弾幕を零戦二二型が切り裂き、迫ってきたのだ。その姿たるや脇目も振らず、一点突破をただ目指す猪の如く……。銃撃も加えず、逆に対空砲火でその機体を徐々に擦り減らしながらも、零戦二二型とそのパイロット――寺岡少尉はエンジンを止めることは無かった。

 「ま……まさか……」零戦二二型が第35駆逐隊との距離を1千メートルまで詰めた所で、バークはある恐ろしい推測を思い付いてしまった。「……体当たりする気なのか?」

 「そんな馬鹿な!」

 思わず一人の参謀が悲鳴を上げたが、バークは何も言わなかった。

 彼の推測通り、寺岡少尉は第35駆逐隊の旗艦『ギアリング』に対し、決死の体当たり攻撃――即ち『特攻』を決めようとしていたのだ。それは零戦の燃料が元々少なく、カムチャッカまで飛べるだけの量が無かったとかそういう問題ではなく、友を、部下を、そして上司を次々と失った寺岡が心に決めた一世一代の決定であった。その信念に揺るぎは無く、不安や恐怖もあまり感じられなかった。

 「回避行動を取れッ! 敵機は我が艦に体当たりを仕掛ける気だぞッ!」

 咄嗟にバークは指示を下したが、もう遅かった。

 「駄目です、避け切れません! 直撃コース!!」

 狂ったように舵は回れど、バークの眼前に迫る零戦の姿が遠のくことは有り得なかった。次の瞬間、旗艦『ギアリング』は豪然と揺さぶられ、爆風と金属片が艦橋内を襲い掛かった。バークは右腕を掲げてガラス片を受け止めたものの、そのとてつもない衝撃によって後頭部を床に打ち付けて倒れ込んだ。

 「く……くそッ……これは……」

 数十分後、彼の視界に飛び込んできたのは、真っ二つに割れて沈み行くかつての旗艦『ギアリング』の姿だった。あの特攻の後、生き残った幕僚達によって『ギアリング』艦橋から救出されたバークは、一艙の救助ボートで横たわっていたのだ。

 「とんでもないことをしてくれたな……ゼロファイター……」

 そう呟くと、バークは静かに意識を失った。



 1947年2月8日

 アメリカ合衆国/ワシントンD.C.


 「で、戦況は如何ほどかね?」

 そう言って、米合衆国第33代大統領ハリー・S・トルーマンは同じく朝食を摂っている閣僚達に軽く合図を交わしながらプライベート・ダイニングルームから退室させると、マグカップに注がれた湯気の立つブラックコーヒーに口を付けた。卓上には、食べ掛けのサンドイッチやベーコンエッグ、ミックスサラダ等が残されていた。他の閣僚達の分も多く残された形となっている。これらは全て、トルーマンが開いた朝食会用のものであり、ニューヨークで有名なレストランのシェフを招いて作らせたものだ。

 「ベーリング島は既に我が軍の制圧下にあります」第16代米陸軍参謀総長のドワイト・D・アイゼンハワー大将はトルーマンの前に立ち、整然と言った。「第6海兵師団は大日本帝国軍守備隊の拠点である町、ニコリスニを占領。その他、島内の主要な軍事拠点や村々を制圧中です。その作戦行動の結果、第6海兵師団には現時点で1100名程度の死傷者が確認されてはいますが、それでも上々の出来ではないかと私は思います……」

 トルーマンはナプキンを手に取り、頷いた。

 「拘束されていたジャーナリスト達はどうした?」

 「現在、第6海兵師団の保護下にあります。今後、海軍の駆逐艦でアラスカのアンカレッジまで帰投した後、陸軍の輸送機で本土に帰国する予定です」

 「それで良い」トルーマンは言った。「ラジオ演説の用意をせねばな」

 ジャーナリスト達――とは、ベーリング島に不法上陸を行い、ニコリスニ郊外の刑務所に収監されていたというあのジャーナリスト達である。当初はベーリング島への不法上陸に国民の間で一部、疑惑の考えも浸透してはいたが大日本帝国による拘束、反日運動の過激化によって今や対日英雄として祭り上げられ、多くの支持者を有していた。

 「――大統領閣下。目的は達成された以上、第6海兵師団の撤収を上申したいのですが」

 そんなアイゼンハワーの言葉にトルーマンの表情は険しくなった。

 「何故かね? あの島は我が合衆国固有の領土だぞ」

 「歴史的に見ても、ヘルシンキ講和条約を見ても、我々の行為が誤っているからです」アイゼンハワーは言った。「あそこは戦略上、それほどに必要とされる領土ではありません。天然資源も無く、居住人口はたかだか600名余。そんな所ですが、日本軍にとっては裏庭のような場所です。今は不意を突いた奇襲作戦で混乱しているからよいものの、体制を立て直した日本軍を相手取るのは危険ではないでしょうか? それに補給――」

 「アイゼンハワー大将」トルーマンは言った。「それは私も承知のことだ。だがしかし、これはそういった問題ではないのだよ。自由を、権利を蔑ろにし、あまつさえ国際的協調性を欠く蛮国に対する制裁措置なのだよ。そういった点から見ても、あの島の戦略的価値は高い」

 アイゼンハワーは首を振った。「しかし安全保障の観点から言わせて貰えば、今回の一件はEUを刺激し過ぎではないでしょうか? これでもし、戦争などになれば……」

 「――戦争になればいい」

 「……それはどういうことです?」

 訝しげな視線を向けつつ、アイゼンハワーは訊いた。

 「いいかね。現在、大日本帝国は邦人や日系人の保護・支援という名目の下、アルゼンチンとパラグアイの戦争に加担している。それは君も知っている筈だ」トルーマンは言った。「だからこそ日本は現在、ドイツと同様にEU内での評判が悪い。まぁ元々、極東の大部分の占領地域を自国領としてしまった頃から、欧州各国が疎ましく思っていたのは事実だろう。だが今回の一件で日本は、火に油を注いでしまう結果となってしまったのだ。今やあの国を助けようとするのは、EUでもドイツやイタリアのような限られた国々だけだろう。つまりは――」

 「――つまりは孤立したと?」

 トルーマンは静かに頷いた。「もし日本が今回の一件で宣戦布告か、若しくはそれに近い行為に及んでくれたならば、我々としても戦争を行う大義名分が生まれる。だがそれは同時に、信用を落とした日本が更にEU内で信用を落とし、失墜させてしまうことに繋がる。となれば、我が国に対する宥和政策を取っている英仏は望まないだろう。上手く行けばEUから追い出され、英仏といった国々からの支援を受けられなくなる。つまりは、我々は存分に戦うことが出来るようになる――ということなのだよ」

 アイゼンハワーは首を振った。「それは理想論であって、確定した事実ではありません。万が一、英仏が宣戦布告を仕掛けてきた場合はどうなさるおつもりですか?」

 「その場合は戦う」トルーマンは言った。「アメリカは建国以来、外敵から祖国を守ってきた。そしてその戦いの殆どに勝ってきたのだ。だから例えそうなっても、歴史を繰り返せばいい」

 「……了解しました」アイゼンハワーは頷いた。

 「で、他に何か報告は?」

 トルーマンは訊いた。

 「海軍側の損失ですが、駆逐艦1隻が撃沈されたそうです」

 アイゼンハワーは答えた。

 「ジャップも中々骨があるという訳か……」

 「詳しい報告は海軍からお聞き下さい」


 そう言うとアイゼンハワーは静かに会釈をし、ダイニングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

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