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70:せっかく妹の居場所を突き止めたのだから助けにいこう!【蓮SIDE】

 桜の居場所がわかった。

 そうヘクトルから聞かされた時、俺はじっとしていられなかった。


「サクラの場所は……国の辺境にある屋敷です。どこの領土にも属さない、放置された森の奥深くだと……」

「わかった、すぐに向かおう!」


 妖精達が桜の居場所を特定するまでレックスの馬車で待機させてもらっていた俺はすぐにヘクトルの案内で例の屋敷へと向かった。

 国の辺境だけあって、普通はそこへたどり着くのに数日はかかるんだろうけれど……この世界には一瞬で場所を移動できる魔法陣が国のあちこちに設置されているようで助かった。おかげで数時間程度で例の古ぼけた屋敷に辿り着くことができた。


「この森の中にこんな屋敷があるとは……」


 屋敷の前でレックスがポツリと呟く。この中に桜がいる。俺は拳を握り締め、屋敷を睨みつけた。

 待ってろ桜。今、お兄ちゃんが助けてやるからな。

 さっそく屋敷の中に入ろうとすると、レックスが俺の肩を掴む。


「レン、待て。そんなに急ぐんじゃない。中にどんなヤツがいるかも分からないのだ。もうじき父上が騎士団を派遣してくれる。それまで……」

「それじゃあ遅いんですよ!!」


 俺は思わずそう叫んだ。レックスのおかげでここまで短時間でこれた。そんな恩人であるレックスに怒鳴るつもりはなかった。

 でも怒鳴らずにはいられない。俺はいつの間にか自分が冷や汗を掻いていることに気づいた。手も震えている。

 

 ──『お兄ちゃん……』


 脳裏で桜が通り魔に刺されて死んだ光景が浮かぶ。もうあんな思いをするのは御免だ。怖い。また俺は桜を守れないかもしれない。息が、苦しい。

 桜の血の温もり、桜の死に顔、桜の身体が揺れる。桜の華奢な身体が、何度も男に、刺されて──揺れる。俺は頭を抱えた。


「レン……お前、」

「は、はぁ……はぁ……。お、俺……もう二度と、桜を失いたく、ないんです……ッ!! 俺は、俺は……!!」


 俺は気づけば泣いていた。レックスの前でこんな情けない姿見せたくないのに、涙が止まらない。

 あぁ、俺……自分で思った以上に、あの時のこと──。


「レン、落ち着け。大丈夫だ」

「ッ、か、ひゅ……!!」


 俺はレックスに強く抱きしめられていた。歪んだ視界にレックスの綺麗な金髪がうつる。


「余が悪かった。すぐにお前の妹を助けに行こう。大丈夫、お前もお前の妹も余が守ってみせる。言ったではないか、余はお前が大切にしているものを全て含めてお前を守ると」

「レックス、さま……」

「だからそんな辛そうな顔をするな。お前にそんな顔をされると、余も辛い」

「…………!!」


 ああもう、これだからこの王子様は──!!

 ……でも、今は感謝しないとな。おかげで息ができる。落ち着きも取り戻した。

 俺はレックスから離れると、頭を下げる。


「すみません、レックス様。ここまでこれたのも、あなたのおかげなのに……俺、すごく失礼な態度を、」

「気にするな。自分より他人を優先するお前がそんな風に自分の感情を剥き出しにしてくれるのは珍しいからな。もっと余にお前の色んな顔を見せてくれ。全て受け止めてみせる」

「な、なに言っているんですか……」


 やばい、今の俺、顔が赤いんじゃないか? いやいや、今のレックスの台詞にときめいたわけじゃないぞ! ただ、こいつの台詞が恥ずかしいだけだからな。……本当に、それだけだ。

 でもそのレックスの言葉に救われたのは事実だ。この件が終わったらなにか礼をしないとな。


「レン!」


 名前を呼ばれて振り返ってみると、そこにはデュナミスとリリスもいた。

 リリスが真っ青な顔で俺に近寄ってくる。


「リリス? デュナミス? 二人ともどうしてここに……」

「当然サクラを取り戻しにきたに決まっているだろう。君達はもう出発したと聞いたからすぐに私もリリス様と合流して後を追ったんだ。アイレムとサラマの案内で……」

「レン……ごめんなさい、私……」


 リリスが泣きながら俺に頭を下げる。俺は訳が分からず理由を尋ねた。


「私、いつの間にか眠っていて……その間に、サクラとローズが、いなくなって……!! 私、レンに、二人のことを頼まれていたのに……! ごめんなさい……ごめんなさい……!!」


 リリスは何度もそう俺に謝ってくる。

 俺はすぐに頭を下げようとするリリスを止めた。


「やめてくれよ。そんなに謝らなくていい。君は悪くない! むしろ君がずっとサクラとローズの傍にいてくれて感謝してるんだ。大丈夫。二人はすぐに取り戻せばいい」

「レン……」


 「そうだろ?」と尋ねると、リリスは力強く何度も頷いてくれた。

 次に俺はデュナミスを見る。デュナミスは真っ直ぐ強い瞳を向けて、頷いた。どこか吹っ切れたような彼女に俺も頷いた。

 こうして危険を承知で駆けつけてくれた仲間が沢山いる。桜も俺も人に恵まれたもんだよな。


「それで、どうやって屋敷に入ろうか?」

『それなら我ら妖精にお任せください! 女王様の指示により既に屋敷に忍び込んで、扉の鍵は開けておりますゆえ!』


 ヘクトルがそう胸を張ってそう言うと、たしかに屋敷の扉が開いた。そこで二人の妖精がこっちに手を振っている。

 

『煙突から忍び込んで扉は開けましたが……どうやら屋敷には空間魔法がかけられているようです!』

『中はすっごく広いです! だから詳しい道順までは探れませんでした。ただ女王様の気配はこの屋敷の地下から感じます!』


 二人の妖精はそう礼儀正しく教えてくれた。見た目から、一人は氷の精で一人は土の精だと分かった。

 するとその妖精達が俺の顔の目の前にやってくる。


『あなたがレン様ですね? 女王様からあなたの力になるようにと仰せつかっております』

『ぜひ女王様とそのパートナー様を取り戻すため、私達もご同行させてくださいませ!』


 正直、俺には武器も魔法もないから妖精達の言葉はとても心強かった。このままじゃレックス達の足手まといになってしまうしな。もちろん有難く同行してもらうことにした。


 さて。これで屋敷に突破する準備は整った。さっそく俺達は妖精達が開けてくれた扉から屋敷の中へ入る。

 ひとまず屋敷の地下を目指せばいいんだよな……。そう俺は単純に考えていたのだが。


「なんだよ、コレ……!!」

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