54 せっかく魔族狩りを見つけたのに側近候補の様子がおかしい。【蓮SIDE】
オグルの大森林。それは魔族の住む魔界と人間の国々の境界線とされている。オディオ曰く、オグルの大森林の近くにもオディオ達が保護している魔族が少人数住んでいるのだとか。オディオ領が一番魔界に近い地域なのだからこそ可能なのだろう。
また、魔族狩りっていうのは魔族を攫って貴族達に奴隷・愛玩用、又は鑑賞用に売り払う悪党のことなのだとか。今回はその魔族狩りとやらに大森林の傍で暮らしている魔族達が狙われたというわけだ。
「何も貴方まで来なくてもよかったんですがね」
天馬に乗って大森林まで直行している途中、オディオがそう言った。俺はオディオの背中にしがみつきながら、追い風に吹き飛ばされないように必死である。
「そんな怖い顔しているオディオ先輩を放っておけるわけないですよ!」
「……ふん、」
俺がそう言うと、オディオ先輩はそれ以降何も言ってこなくなった。
オグルの大森林はそれから数十分ほどで到着した。空から様子を見ると、不自然な人影を見つける。俺がその人影を指すとオディオがぎりっと音がするくらい歯を食いしばり、天馬に指示をした。
──あの人影を襲え、と。
「な、なんだぁっ!!?」
急降下したペガサスの蹄が人影──男達を襲う。そしてそのまま俺はオディオと天馬から飛び降りた。まぁ、無様に着地失敗して俺は転げたけど。掠った頬を抑えてすぐに立ち上がる。オディオを見上げると、ヤツは鬼のような目をしていた。
「お前ら、その荷車には何が入ってるんだ……?」
「ひ、ひぃっ!? な、なんだてめぇは!」
間一髪で膝を曲げ、蹄から逃れることが出来た男達が短剣を取り出す。俺は刃物の輝きに萎縮してしまった。しかしオディオは刃物など見えないとでも言うかのように、男達を睨んだままだ。荷車に積まれた袋がゴソゴソと動いている。やはりあれに魔族達が入っているのだろう。
「レン、僕の後ろにいてください。邪魔ですから」
「わ、分かりました」
俺は言われるままに一歩後ずさる。同時にオディオが男達に人数分の水の槍を放った。槍は男達の肩や腹を切り裂く。オディオが魔法使いだと分かった途端、男達は怯みだした。
「な、なんで俺達を襲う!? 俺達はただ、魔族を見つけたから攫っただけだ! 身なりからしてお前さんは親魔族派の貴族か!? だ、だが魔族の売買は大森林又は魔界以外にいた魔物であるならば違法ではないはずだ!」
「……襲う理由? そんなの決まっていますよ。貴方達は我がヘイトリッド家の宝石を盗んだ盗人です。よってしかるべき処置を覚悟してもらいます」
「ほ、宝石? そ、そんなの……あっ!」
男達の顔が真っ青になった。オディオが足早に荷車に近づく。俺は先程の水の槍で破れた袋からキラキラ輝く宝石が地面に転がっていることに気づいた。オディオはその宝石をそっと手に取ると、「やはりヘイトリッド家の宝石のようですね。うっかり我が領の兵士が落としたものを魔族達が拾っていたのでしょう」と冷めた目を男達に向ける。
いやいやそんな宝石の山なんて落とすはずない……って、もしかしてオディオのやつ、こういう時の為に魔族達に宝石を持たせておいたってことか? それで魔族狩りのおっさん達は魔族が宝石持ってるぜラッキー、ついでにもらっておくか~のノリで宝石も荷物に積んでしまった、と。
男達はすぐさまオディオに土下座する。
「た、大変失礼しましたっ!! 宝石は全部お返しいたします! だ、だからど、どうか、この場をお見逃しください! もうここには近寄りません! お、お金がなくて、家族も飢えて、どうしようもなかったんです!」
どうやら男達から話を聞いてみると、彼らは遠くの村の農民で、生きるために仕手っ取り早く儲かるという魔族狩りに手を伸ばしてしまったのだという。なるほど、だから逆上して襲ってきたりせずにすぐに降参したのか。本来は戦いなんて性に合ってなさそうだし、そんな錆びた短剣じゃあ魔法が使えるオディオに敵うはずもないしな。
「オディオ先輩。この人達も反省しているみたいですよ。今回は……」
「反省? そんなもの、するはずがないでしょう。どうせまた金に困ったら同じ事を繰り返しますよ。人間とは、残酷な生き物なんですから」
「え?」
オディオの顔は怖いままだった。そしてゆっくりリーダー格であろう男に近づくと──あろうことか、右手で首を絞める。その右手は水を纏い、男の頭部をそれで覆った。男が苦しそうに藻掻く。それを見ていた他の魔族狩りの顔がさらに怯えたものになっていた……。




