51 せっかくの休日なのでデートしてみる。【桜SIDE】
「日曜日! ですわよ!」
「…………うん?」
休日なので朝食のパンを齧りながらのんびりしていると、リリスが突然そう言って私の両肩を掴んだ。
私は瞬きをぱちぱち繰り返す。ちなみにデュナミスはいつものように休日は実家で剣の稽古があるとかなんとかで、ローズは散歩中だ。
するとリリスは少し照れくさそうに俯いて、両手の人差し指をツンツンした。
「だから、その、今日はお互い何もにゃ、ない日ですし、その……婚約者(仮)らしく私とで、っででっでデートしてみてはどうかしら?」
「デート? いいけど。リリスはどこかに行きたいとかあるの? 私はリリスの好きな場所でいいよ」
「っ! あ、ちょっと待ってくださいまし! 実は候補は沢山あって、その、リストを作ってきたので今決めます!」
リリスはそう言うとポケットから折りたたんだ紙を取り出して、目を泳がせていた。私は後ろからそれを覗く。紙の一番上には『サクラと一緒に行きたい場所リスト♡』と書かれていた。ちょっと照れくさい。
「うーん、どれも捨てがたいですわね……この恋が叶うと言われているラーツァの洞窟も捨てがたいですが……無難にフックの森で日向ぼっこというのも……ううむ」
「ちょっと見せてよ」
「あっ」
私はリリスの行きたい場所リストを奪い取って、全ての項目に目を通す。気になった場所は一つだけ。ぐちゃぐちゃとペンで上から掻き消されたものだ。しかしかろうじてそこがどこなのか読むことが出来た。私は少し考えて、それを指差す。
「リリス。ここに行こう」
「! え、あ、そ、そこは……」
「……駄目?」
少しリリスを見上げる形でお願いすれば、リリスはうっと口を閉じた。そうして眉を下げる。
「……、本当にいいんですの?」
「うん。興味があるんだ。リリスがどんな場所で今まで育ってきたのか」
「!」
リリスの頬がぽぽぽと段々真っ赤になる。意味のない声を漏らしつつ、両手で顔を隠していた。私はそっとそんなリリスの手を握り、リリスの瞳を覗き込む。隠していた顔を見られたリリスはさらに混乱した。
「……っ、~~~っ!! ず、ずるいですわよ、そんなこと言われてしまったら……」
「そうは言っても事実だし」
「っ! だから、貴女はそういうことを恥ずかし気もなく言ってのける所が──まぁいいですわ。言っても無駄ですわね……」
リリスが目頭を押さえる。サラマが何故か「人タラシって怖いなー」と意味が分からないことを呟いてため息を吐いていた。
***
結局、私はリリスの天馬に乗せてもらって、リリスの実家──ミルファイア家の屋敷に足を下ろした。領主も従者も今はここにはいないので、屋敷は随分と寂しそうに見える。リリスは「お疲れ様」と天馬を撫でると、さっそく私の手を握った。リリスの手から、熱が伝わる。きっと勇気を出して私の手を繋いだのだろう、手が震えていた。私はそんなリリスの意図を受け止め、リリスの手を優しく握り返す。リリスの手は細くて、いつも少し心配になる。
「あの、まずサクラに会わせたい人がいますの。いいかしら?」
「?」
リリスがそう言って私を連れてきた先は屋敷の裏庭だった。花壇が綺麗に並ぶ場所。しかし世話をする人間がいないからか、花壇に植えられた花々は枯れており、雑草も生え放題だった。所々過酷な環境を必死に生き抜いてきた弱弱しい花には紫色の羽を持つ蝶々達が容赦なくその養分を吸っている。
──そんな花壇に囲まれてポツンと墓標が立っていた。
リリスはその苔で緑に映えている墓標にそっと触れる。墓標には「オアジス・イム・ミルファイア。ここで眠る」と書いてあった。つまり……
「──私のお母様ですわ。サクラには真っ先に会ってほしかったんですの」
「……そっか」
私はリリスの隣にしゃがみこんで、その墓標を撫でる。「こんにちは、サクラと申します」とお辞儀をするとリリスが嬉しそうに微笑した。
「お母様。今まで色々あったけれど、私は今とても幸せです。このサクラが前にも話した通り、私を悪魔から救ってくれたのよ。そうしてなんと、サクラは私の婚約者になりましたの!」
「ちょっと、私はリリスにいい人が見つかるまでの仮の婚約者でしょ」
「あら? 私は間違った紹介はしていませんわ。だって私がサクラより好きになる人なんて、この先一生現れないって確信しているもの!」
「! …………、あっそ」
嘘偽りないリリスの言葉に私は顔を逸らしてしまう。サラマが「ひゅ~ひゅ~っ」と茶々を入れてくるので手を振り回した。勿論それは避けられたけど!




