47 せっかく朝起きたのに相部屋の王太子が無防備すぎる。【蓮SIDE】
「……うぅ。……? ……っ、はぁ!?!?」
俺は睡眠から勢いよく覚醒した。しかしその原因は寝室の窓から漏れる朝日や起床時間になると寮中に響く鐘の音でもなく──今、俺の腹に足を乗せてすぅすぅ気持ちよさそうに眠っているこの俺様王子である!!
なんで!? 第二学期になって俺とレックスの部屋の寝室は他の部屋と同じようにツインベッドになったはずだ。それだというのにどうしてこいつは俺のベッドにいる!! ひぃいいっ! 俺は鳥肌を抑えつつ、恐る恐る自分のベッドを抜け出す。レックスはそれでも起きなかった。枕を抱きしめて、ぐりぐりと自分の頭を押し付けている。たまに寝言も聞こえてきた。……この王太子サマのこんな無防備な姿なんて、きっと俺ぐらいしか知らないんだろうな。
俺は唇をきゅっと結んで、そのままレックスの顔を見つめていた。膝をつき、ベッドに腕と顎を乗せる。
……今、俺が少し前の桜だったらこいつの今の姿にメロメロになってしまうんだろう。しかし全然胸がときめかない。野郎が寝ている、くらいにしか思えない。こいつは俺にプロポーズしてくれた。俺のことが恋愛対象的に好きだと言ってくれる。好意を示してくれるのはすっげぇ嬉しい。でも、俺は……やっぱり男を好きになれない。未来の王の伴侶なんてなれる気もしない。プロポーズの返事を断るべきだ、とも思っている。断るなら早くするべきだろう。ズルズル返事を長引かせるなんて、最低なことだとわかっている。……だが第一学期からこいつの傍にいる身としては、こいつには悲しい思いはしてほしくないってのも本音だ。俺は自分が思っているより、レックスのことを気に入っているらしい。
「……なんで、俺なんか好きになったんだよ」
そう呟かずにはいられない。俺は立ち上がり、寝室を出た。部屋のドアのすぐ外にメイドさんが綺麗にしてくれた制服が並べてあるので、ちゃんと二人分あるのを確認してドアを閉める。
清潔な制服に着替えながら、俺はため息を吐いた。こうしてぐだぐだ気持ちが迷ってしまうのはどうも俺らしくない。俺は両頬を叩いて、気持ちを切り替える。寝室に入り、レックスの温もりが宿る掛布団を取り上げた。
「ほら、レックス様! そろそろ起きてください! 起床時間の鐘がもうすぐ鳴りますよ!」
「……んむ……」
「んむ……じゃないですよ! どうして俺のベッドで寝てるんですか貴方! こういうことやめてください!」
「……ん。悪かった。人肌が恋しくてな」
レックスはボリボリ頭を掻きながらゆっくり起き上がる。俺は腕を組んだ。
「人肌が欲しかったって、一学期はずっと一人で寝てたじゃないですか」
「それはそうだが……悪夢を見てな」
「悪夢?」
レックスは朧げな瞳で俺を見上げ、ゆっくり俺の腕を掴み、そのまま手を揉んでくる。拒否はできたはずだ。野郎に触られる趣味はねぇ。でも……。
「──なんで、そんな泣きそうな顔してるんですか。まさか、またアレス国王となにか……」
「いや。余が恐れているのはそんなことではない。父上とは上手くやっている。……お前だよレン。最近余は……レンの体が、どんどん冷たくなる夢を見る」
「!」
俺は一瞬、フックの森で悪魔に魂を奪われた時のことが過った。そういえばレックスの前で(少しの間だったが)俺は死んだんだったな。そりゃ、自分が惚れた相手が目の前でそうなったらトラウマになるのかもしれない。特にレックスは繊細なところがあるからな。……俺のせいか。
「それは──すみません。俺がトラウマを生み出してしまったんですね」
「謝るな。あれは余がお前を守れなかったにすぎん。……だからついな、お前の体温を確かめてしまう。許せ」
レックスはそのまま俺の手を揉み続ける。なんだかその手がいけないことをしているようで、慌てて離した。そしてレックスの制服を押し付ける。
「こ、これ!! 今日の制服です!! 早く着替えてください! 今日も一限目から授業があるんですから!」
「あぁ……」
「それに……俺はもう突然死んだりしません。約束しますから! また悪夢を見たら俺を起こしてください。話し相手にはなりますよ。悪夢の原因になった責任はとるつもりです」
「! うむ。そうか。……今夜が楽しみだな?」
「いやなんで起こす前提なんですか!? 悪夢をみたら、ですよ。まったく……」
そうこうしている間にも起床時間の鐘が鳴った。俺は慌ててレックスに着替えを促すと寝室を出る。そうして準備を終えたレックスの髪をすぐに整えると朝食を食べるために食堂へ向かったのだった……。




