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42 せっかくの舞踏会なのにきつすぎる。【蓮SIDE】


 エボルシオン城で行われる舞踏会の日になった。俺はレックスから贈られてきた正装(怖いくらいにサイズのあった燕尾服と蝶ネクタイ)とやらを身につけ、オールバックという慣れない髪型を強要されてしまった。セットしてくれたのはマドレーヌばあさんだけど。


「ひっひっ、これで少しは男前に見えるだろうね」

「そうかぁ? ありがとよばあさん」


 まぁ、どうせ俺の顔には俺自身期待していないさ。前世の彼女にも「イケメンじゃないけど癖になる顔してるよね」って言われたことあるし。男は顔じゃないのだ! しかしその時、お決まりの家の外から馬の嘶きが聞こえてくる。

 慌てて家を出れば、やはりレックスのヤツが俺を迎えに来ていた。はぁ、男は顔じゃないって言ったばかりだってのに、こんな顔よし家よし身長よしの完璧王子が目の前に現れたら言葉が薄れていく……。レックスは俺を見るなり、玩具を見つけた犬みたいに目を輝かせた。


「レン! 迎えに来たぞ!」

「わざわざありがとうございます。でも本当にいいんですか? 舞踏会って言ったって俺はソーラ○節しか踊れませんよ」

「あぁ、あの奇妙で愉快な踊りか。大丈夫だ。お前は余が踊らせん」


 それならありがたいけど。俺はレックスと天馬に乗って空を駆ける。ちなみに桜とローズ、リリスは舞踏会には参加しないらしい。今朝から桜とローズが色々準備していたけどあれは……まぁ、桜のことだ。リリスはあいつに任せて大丈夫か。

 ……つか、予想はしていたけど天馬って結構揺れるんだな。桜と違って俺は絶叫系アトラクションはあんまり得意ではなかったので、少々きついものがある。


「れ、れれれれれレックス様ぁ……!! これ、落ちませんか!? 落ちませんよね!?」

「!」


 何故かレックスの笑い声が降ってきた。何笑ってんだよ。


「──怖いのなら余に思いきり抱きつけばよい」

「え、」


 な、なにが嬉しくて野郎の背中にしがみつかなきゃいけないんだ! そう心の中で抗議していたら──突然天馬がスピードを上げやがった!!


「ははは! 飛ばせセバス!!」

「うわぁああああああああああああああああああああああああ」


 俺はもう必死にレックスにしがみついた。だって仕方ないだろ、命の方が大切だ! 

 そうしてやっと城に着いたときには俺はすっかり疲労していた……。レックスがご機嫌で「大丈夫か?」と俺に手を差し伸べてくるが、俺は顔を背ける。ふん! もうこいつの天馬には乗るかっ! そういう意思を込めた態度だったのだが……。

 

「うむ。拗ねているレンもいいものだな!」

「…………、」


 何故かこの変人王子を喜ばせてしまった。ちょっと……いや、かなりドン引きしてしまった……やっぱプロポーズ断ろうかな……。しかしそんな俺を舞踏会は待ってくれない。会場に入るなりレックスと共に現れた俺は周囲の視線を嫌でも集めてしまったのだ。なんだか香水臭い貴族共が一斉にこちらに向かってきているような……。

 レックスがそっと俺の耳に囁く。


「すまないレン。頃合いを見て会場から逃がす故、しばらく耐えてくれ。余から絶対に離れるな」

「え? それって──」

「これはこれはこれはレックス殿下! お久しゅうございますぅ!」


 貴族達が一斉にレックスの周りを囲んだ。俺は唖然とする。色んな香水の香りが混ざって、鼻がおかしくなりそうだった。貴族達はこの舞踏会でも同様、分かりやすい媚びでレックスの機嫌をとろうとする。そういうのが嫌われるんだって分からないのだろうか。貴族達は早口でレックスと会話をした後、やっと本題だと言いたげに俺を意地の悪い目で見てきた。実に悪意のある視線だ。レックスは幼い頃からこういう悪意に耐えてきたというのだから、それだけは素直に尊敬する。


「──と、こ、ろ、でぇ。レックス様が侍っておられるそちらの青年は……」

「!」

「この者は余の想い人だ。いずれ余の伴侶になる」

「っ!!」


 い、言いやがったこいつ! なんの躊躇いもなく、はっきりと! 貴族達もここまではっきり宣言されるとは思っていなかったのか、自分から話題を振っておいて戸惑っている。そうだよな、王太子が突然男を、しかも貴族でもなんでもない下民を好きだなんて言ってるんだから戸惑うのも無理はないよなぁ……。

 すると一人の目が細い貴族がすすす……とレックスに近づき、わざとらしい大きな声を出す。


「いやはや、殿下。少々話が変わるのですが──どうして純金が非常に価値があるのかお分かりですか?」

「……、」

「それは皆もご存じの通り、粗悪なものが何も混じっていないからです。粗悪が混じれば混じるほど、金の質は落ちていく。……殿下、この上級社会は、まさに金そのものではありませんか?」


 ……なるほど。要は俺みたいな下民がいては自分達貴族の価値も下がってしまうといいたいわけか。自分達の自尊心を保つには自分達と下民は違うのだという線引きが非常に重要なものになってくるだろうしな。そんな回りくどいこと言うよりもハッキリ「こいつが気に食わないから追い出せ」って言ってくれたほうが俺としても納得できるんだけど。

 するとレックスが俺の腰に手を伸ばし、自分の方へ引き寄せる。そして、俺の瞳を一心に見つめた。


「──確かにそうだな。金の価値を保つには、粗悪なものは排除しなくてはならない……」

「!」

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