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40 せっかく双子で恋愛ゲームの主人公に転生したのに──

「ど、どどどどどどどどうなってんのよぉおおお!!!」

「お、落ち着け桜ぁ! 首! 首締まってるから!!」


 あの後、唖然とする生徒達を置いて、俺と桜そしてレックスとリリスたんはひとまず別室に移動した。あのままだったら見世物よろしく周りの視線に耐えられないからな。部屋を変えるなり、桜が俺の首を締めて睨み上げてくる。


「キィイイイイイイッッ! 許せない許せない! 一体どんな手を使って私のレックス様を誘惑したわけ!?!?」

「お、俺にも何がなんだかもう分からん……だけどそう言うならお前だって俺のリリスたんにプロポーズしてるみたいじゃないかよ!!」

「し、してないわよ!! 私はレックス様一筋なんだから!!」


 桜がブンブン首を横に振って拒否する。ふむ、どうやら色々と誤解があるようだ。ひとまず臨時兄妹会議(※小声)をやめ、俺達の話が終わるまで待ってくれているレックスとリリスたんの向かいのソファに座る。


「話は済んだか二人とも。……で、レンよ。お前の返事を聞こう」

「えっ、俺? えっと……」


 いや、いやいやいやいやいやなんで好きな子の前で野郎のプロポーズの返事を言わなきゃいけないんだ!? 一体どういう状況だ!?!? 俺は桜からの非常に強い視線の槍を受けつつ、ゴクリと唾を飲んだ。


「あ、あのぅ、なんといいますか……その、状況がよく分かっていなくて……レックス様は俺のこと好きなんですか? 恋愛対象的に?」

「? 当たり前だろう。プロポーズしたのだからな。余はお前の事を愛しているぞレン」


 ヒィイいいいいいいいッ! 桜の顔が前世のばあちゃん家にあった怖い鬼のお面みたいな顔している! これは俺の命の危機だ!! 俺の妹あの悪魔より怖いぞ!!


「あ、えっと……返事は……その、俺は、男ですし……あの……」

「うむ。お前の戸惑いは分かる。性別のこともあるだろうし、もし余と結婚したらお前はこの国の王妃になるだろうからな。ちなみに余の後継者のことは気にしなくていい。余には優秀な弟もいる故な。弟の子供ならば余の後継者に相応しいだろう」

「え、い、いや……」


 後継者とかそんなの聞いてねぇよ! 俺には国を背負う覚悟もねぇし、男と結婚する趣味もねぇ!! 断ろう。


 そう思った時だった。


「──レン、」

「!」


 切なそうな声だった。レックスが俺の手を握る。レックスの手は震えていた。

 ……そうだ、こんな軽いノリで断れるはずもない。だってこいつは王太子で、周りの評判とか色々と面倒な立ち位置にいる。それなのに、それを押しのけてまで俺に気持ちを伝えてくれた。キメラにも怯まなかったこいつがこんなに手を震わせて俺の返事を待っているんだ。いくら俺が男を恋愛対象として見れなくても、桜がレックスを好きでも、その気持ちに向き合わない理由にはならない。それは絶対にやってはいけないことだろ。

 俺は息を吐いた。……スマン桜。俺、お前を傷つけるだろうな。


「ひとまず今は返事を出せません。俺の心の整理がついていない。しばらく考えさせてください。……ですが、これだけは伝えておかないといけません。俺は……正直、男性を恋愛対象として見れません」

「! 分かった。お前の返事を待とう。……やはり余はお前に気持ちを伝えてよかった」


 レックスが微笑する。なんだよその嬉しそうな顔。調子狂うな。要するに俺がレックスを好きになる可能性は低いって伝えてるのにさ。

 すると今度はリリスが口を開いた。やけに髪を弄って桜をチラチラ見つめるリリスはとっても可愛い。凄い綺麗な真っ赤なドレスが彼女の輝きをさらに際立たせている。でもその愛しい視線は桜に向けられているのだ。


「そ、それで……サクラ。その……私と貴女の、今後のことなんだけど……」


 桜の顔が強張る。ぎぎぎぎぎ、と動きが鈍くなった。「ねぇ、私っていつリリスにプロポーズしたっけ?」って目で俺に聞いてくるな。知るかそんなもん!


「あ、あのリリス。その前に一ついいかな……」

「は、はい」

「えっとぉ……私っていつ貴女にプロポーズしたのかなぁって……」

「え」


 ばっかお前! もっとこう、気づかれないように聞けよ!! 一気にその場の空気がおかしくなっちまっただろうが!! なにやってんだ我が妹ぉおおおおお!!? リリスの顔がどんどん真っ赤になっていく。ほとんど涙目だ。


「え、だ、だって、桜、お見舞いに来たとき、私に……花束……」

「え? あ、うん。花束あげたけど……」

「その、花束くれた時、私の気持ちって言ってくれたし、花束の花は皆花言葉とか、プロポーズ用の花だったから……え? ま、まさか……私の勘違いでしたの……?」

「…………、」


 リリスの顔から湯気が噴出される。そしてその場で立ち上がり、わなわな震えた。しんと静まり返る現場。非常に気まずい。もの凄く気まずい。そしてリリスは──恥ずかしさで、感情が爆発してしまった!!


「さ、サクラの、ばかぁぁあああああ!! 普通花束を贈るなら花言葉くらい勉強しておきなさいよねっ!! 私、私……貴女となら添い遂げていいって本気で思って……なのに、私の、勘違いだったなんて……っ、私、私ぃ……っ!! う、うわああああんっ!!」


 ポロポロ溢れる大粒の雫。リリスもリリスなりに覚悟してあの場で言ったんだろうな。でも桜はレックスが好きだ。それはどうしようもないことだろう。……どうすんだこの状況。

 俺はとりあえずリリスを慰めようかと席を立ち上がるが、桜がそんな俺を止める。桜の表情は真剣だった。

 ……そうだよな、こいつ、俺の妹だもんな。投げられたもんはしっかり受け取る性格だよな。

 桜は号泣するリリスたんの手を握る。


「リリス。貴女を期待させて、傷つけてしまったのは私の責任だよ。本当にごめん。でも、私は蓮と同様同性を恋愛対象として見れない」

「っ!」

「──でも、故意ではなくても貴女の心を弄んだ責任はとる。リリスが私以外の誰かを好きになるまで、私がリリスの傍にいるよ」

「!!?」


 リリスたんの目が大きく見開かれる。俺が桜に「いいのか?」と聞くと、桜は俺を睨んでそっぽを向いた。……うぅ、しばらく口を聞いてもらえなさそうだ。

 そこでリリスが桜に思いきり抱きついた。


「そんな日絶対に来ないわよ馬鹿!! だから、だから!! 私にとってはその台詞はプロポーズも同然なんだから!! ちゃ、ちゃんと私のこと好きって思ってくれるまで、私、頑張ります!!」

「ちょ! な、なによそれ……」


 桜は困ったように自分の胸に縋り付くリリスに戸惑う。俺は俺で、レックスに肩を掴まれた。


「リリスの言う通りだな。今は好きではないというのなら、レンが余を好きだと言うまで粘るしかなかろう。──覚悟しておけよレン」

「えぇ……」


 どうしてこうなった。俺と桜の心の声が重なる。


 ──と、いうわけで俺達双子のエボルシオン魔法学園第一学年第一学期はリリスの断罪イベントを経て、こんなあべこべなオチで幕を閉じたわけだ。


 この先の運命なんて、知ったこっちゃない。きっとこの世界の神様とやらだって予想できないことなんだろう。でも一つだけ──この世界の破綻した運命(シナリオ)がこの先ずっと俺達を翻弄し続けること、それだけは確かに分かる。


 ──だから、それを覚悟した上で、これだけは叫ばせてくれ。




 ──『せっかく双子で恋愛ゲームの主人公に転生したのに、この世界が混沌(カオス)すぎるっ』!!




《了》

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