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29 せっかく妖精に助けてもらったのだから肩の力を抜こう。【蓮SIDE】


「ふぁあ……たすかっ……た……」


 俺はその場で横になり、ようやく休むことができた。頭が酷く痛い。

 あの後、絶体絶命な危機にも関わらず俺の頭を突いてきたヤツがいた。それは──。


「ありがとな……」

『うん! レンは友達! 怖いヤツから助ける~』


 ──この森の妖精達だったのだ。

 妖精達は嫌な予感を察して、この木の根元で出来た洞窟でキメラから隠れているのだという。また、見つからないように光魔法をかけているので、迷彩効果で周りから俺達のことは見えない。しかしキメラは混成獣。その中には蛇の部分もあり、熱や匂いで俺達を見つける可能性もあるのではと危惧したが、その際はこの洞窟の木が自動的に追い払ってくれるらしい。まさか樹人(動く木)に守ってもらうことになるとはな。確かにこんな根が逞しい大木に殴られちゃキメラもひとたまりもないだろう。まぁ要するにこれでひとまずは安心ということだ。


「足、痛むか?」


 レックスが俺の足を掴み、傷を覗きこんでくる。その横顔は深刻だった。俺はにっと笑う。


「なにいってるんですかれっくすさま。このくらい、かすりきずです」

「たわけ。そんなわけなかろう。お前はもっと自分を大事にしろ。……すまない、余のせいだ」


 毒のせいか呂律が上手く回らない。そんな俺にレックスが俺の足を撫で、俯いた。


「余が、お前から離れていなければ守れたものを」

「ち、ちがいます……おれがたいおうできなかっただけですから……れっくすさまはきにしないで……」

「だが、」


 するとそこで、妖精達まで俺の傷を覗きこんでくる。血だらけの足を見て、悲しそうな表情を浮かべた。


『レン、怪我してる! 毒も回ってるよ!』

『えぇ!? 大変大変! 皆! こっちきて~!!』

「!」


 木の洞窟にいた妖精達が次から次に俺の足に集合する。俺はくすぐったくて足を動かそうとしたが、レックスが強く足を抑えていたためそれはできなかった。しばらくくすぐったさを我慢していれば、切り傷の痛みは徐々に薄れていく。またどうしようもなかった頭痛と吐き気がいくらかは治まった。


「わりぃなお前ら。助かった……」


 寄ってくる妖精を撫でてやると次は自分だと妖精達の列が出来る。こいつらの能天気さはこういう状況下では非常に救われるものがあるな。しかしおそらくだが既に身体にまわってしまった毒を完全に解毒することは出来ないのだろう。発熱したように身体がきついのは変わらなかった。

 レックスが俺の頬に手を宛がう。その手がひんやりと冷たくて、少し気持ちいいと思ってしまった。


「きついか」

「い、いえ。大丈夫です」

「本当のことを言え」

「……ちょっと」


 頬の次は額に触れられ、レックスの眉間の皺がきつくなる。熱があるらしい。やっぱりか。


「……余はお前を守れなかったばかりか、先ほど怒りの捌け口として八つ当たりしてしまった。……情けない話だ。本当に、悪かった」


 俺は「そんなことないですよ」と掠れた声で呟く。

 そうだよ、情けなくともなんともない。お前はよく頑張ってるよ。この二ヶ月、俺が一番お前のこと見てたんだから。お前に寄ってくる貴族達は知らないお前の努力を、俺は知ってるさ。ああやって鬱憤が溜まるのは人間として当然のことなんだ。

 レックスはそっと上着のポケットからくしゃくしゃになった封筒を取り出す。その封筒のデザインからしておそらく送ってきたのはレックスの父親だろう。なるほど、と俺は思った。


「昨晩、また父上から手紙がきてな。余なら試験で一番になれるだろう、期待していると何度も書かれていた。……父上はいつもそうだ。幼い頃からいつもいつも余に『期待している』と言ってくる。余がどんな想いでその言葉を受け取っているのかも知らずに。……そう言われる度に、重い鎧を身体に身に纏ったような感覚になるというのに」

「…………、」

「親というものは勝手だ。勝手に産んでおきながら、子供を自分のいいように縛る。余は、人形などではない。人間だ。父上はたまにそれを忘れているのではないかさえ思う」


 レックスの瞳から綺麗な雫が零れる。昨晩届いた父親からの手紙が原因で、レックスは先ほどあんなに気が立っていたのだろう。俺はそんなヤツに口を開こうかどうか迷った。


 ──いいのか? ()()は、桜の役割かもしれないぞ?


 自分自身に問う。しかし、返ってくる答えは最初から分かっていた。

 ……ごめん、桜。きっとこれは俺に与えられた役割だと思う。だから、レックスのヒロインの役割を担ってしまうことを許してくれよな。

 俺も自分のポケットから折りたたんだ封筒を出す。それはレックスが持っていたものと同じ封筒。つまりその手紙を書いたのは──


「!? 何故お前もこれを持っているんだ!?」

「アレス様から俺宛てにも手紙がきてたんですよ。レックス様には言うなって言われてたんですけどね。……レックス様、ひとまずこの手紙を読んでくれませんか?」

「!」


 レックスが震える手で俺から手紙を受け取る。そうして黙ってそれを読み始めた。

 次第に、レックスの頬が涙で濡れ始める。妖精の光で輝くレックスの感情がつまったその雫は素直に綺麗だと思った。

 アレス国王から俺への手紙に綴られたのは国王のレックスへの想いだった。「我が子の傍にいてくれてありがとう。あの子はいつも独りだったので君がいてくれて本当に安心した。私は父親として大変未熟であり、いつもいつも訳の分からないまま我があの子を怒らせてしまう。だからあの子の苦しみを理解してあげることができるのはきっと君だけなんだろう。これからもあの子を傍で見守ってはくれないだろうか」。……要約するとこんな感じの内容だ。

 この手紙からアレス国王はただ息子に対してすごく不器用な人間だということが分かった。対してレックスは国王に何も言い返さない。幼い頃から「期待している」と「立派な国王となれ」と言われ続ければ、そりゃ抵抗する気もなくなるもんだ。だからアレス国王はレックスが自分のどんな言葉がレックスを傷つけているかも分からない。故にまた同じことを言ってレックスに負担をかける。……すれ違いの負の連鎖だな。


「……っ、ふ、……ちち、うえは……どうして、こんな……っ」

「分かりましたかレックス様。あの国王はきっとただ不器用なだけなんですよ。レックス様に父親としてどんな言葉をかけるのが正解なのか分かっていないだけなんです。一度、親子でお互いの想いを話し合ってはいかがですか?」

「だが、今更では……。……そ、それに、父上に言い返したりするのは……」


 怖い。

 そう小声で言うレックスに俺は思わず笑ってしまった。レックスにはこういう子供っぽいところがあることも国王に教えてあげないとな。俺は小さい頃に桜が何かをしでかして前世の親父に怒られた時のことを思い出した。そうだ、あの時の桜も親父に謝りにいくのは怖いとごねてたっけ。そんな時、俺は……。


「怖いなら俺が一緒にいってあげますよ」


 桜をあやす様に、俺はレックスの頭を撫でてやる。この時点で俺は熱のだるさでレックスを桜と重ねてしまっていたのかもしれない。

 霞む視界のせいで、レックスが今どんな表情を浮かべているのか見えなかった。

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