27 せっかくラブイベントが起こったのにペアの相手の様子がおかしすぎる。【桜SIDE】
──どうして?
第一声はそれだった。正直、この日に賭けていた。
私はちゃんとレックスルートにいて、レックス様とゲームみたいな素敵な恋を送るんだって思っていた。……いや、思っていたかった。でも、私の試験のペアはリリスで、レックス様のペアは蓮だった。
悲しかった。でもその一方で、私は──「チャンスだ」と思った。
「…………、」
「…………」
試験の内容は「ブタバナ」という薬草を見つけてくること。
試験が始まるなり、私は一歩先を歩くリリスについていくだけ。
──私がこうやってただリリスの後ろを黙ってついていくのには理由がある。レックス様のことで落ち込んでいるのもあるが、蓮との兄妹会議が起こった日からリリスはどうも様子がおかしいのだ。何度話しかけても視線だけこちらにやって、私を無視するようになった。
嫌われたんだと思った。仲良くなれたと思っていたのは私だけだったんだ、と。デュナミスは「きっと何か理由があるんだろう」と言ってくれたけど……サラマも見かけないのでリリスの心の内を確かめるチャンスもない。だからここ一ヶ月はリリスとまるで他人のような関係であったのだ。この状況をどうにかしようと話しかけようにも次第に増えていく取り巻き達にガードされてしまい、遠目からリリスを眺めるだけの日々だった。
……だからこの試験でペアになった時、「チャンスだ」と思ったのはそういうことだ。リリスの真意を確かめる絶好の機会だと思った。
レックス様とペアになれなかったのは心底残念だけど、このままリリスに無視されっぱなしなのも絶対に嫌だし、そもそもこんなに弱気になるのは私らしくない! 私は自分に喝を入れるように両頬を叩き、リリスの腕を掴んだ。
「──リリス様!」
「…………、」
視線は合ったが、返事はない。やはり、嫌われているのだろうか。もう一度話しかけてみる。結果は同じだ。
リリスはここまで露骨に無視するような人じゃない。そりゃ悪役令嬢ではあるけど、それは立派な王妃になるために必死になった上での結果に過ぎない。
となると、他に何が考えられる? 私の言動でリリスを怒らせた? しかしそれならどうして怒っているのかリリスはちゃんと伝えてくれる人間だ。きっとそれは違う。ならば、どうして……。
何度考えても分からない。レックス様とはペアになれず、リリスには嫌われ、ショックで涙が出そうだ。リリスの腕を掴む力が強くなってしまう。
「リリス様……どうして、私を無視するんですか?」
「…………、」
「私はリリス様と……毎日フックの森に妖精を探しに行ったり、ご飯も一緒に食べたり、授業も隣の席で受けました。おこがましいかもしれませんが、仲のいい友人くらいの存在にはなっていると思いました。なのに、なぜ……!」
「…………」
リリスはそれでも尚、口を開かなかった。私はどうしようもなくなって、一ヶ月分の涙がつい溢れてしまう。ポロリ、ポロリ。リリスの瞳がすこしだけ丸くなったのが分かる。
「──リリス様、私を、嫌いになったんですか……?」
「…………っっ!!」
初めて、リリスの息が乱れたような気がする。私はただただリリスの揺れていく瞳を見つめた。そうすると──なんとリリスの手が私に伸びてくる!
一ヶ月ぶりにリリスが私に反応を示したのだ。目を見張る他なかった。しかしその手は好意で動かされたものでは決してなかった。
「──にゲて……」
今にも、風に飛ばされそうな小さな声。しかし私の耳にはしっかり届いた。その刹那。
「!? はっ!?!? ぁっ……っ」
──リリスの両手が、容赦なく私の首を締め始めたのだった──。




