5、真夜中に聞こえる断末魔の叫び
その日の晩、美味しいご飯を頂いて豪華な浴場で汗を流した後、フカフカのベッドで快適な睡眠をとっていたら──
「ギャァァアア!!」
王城に居るとは思えない物騒な叫び声が聞こえてきて飛び起きた。何事かと、バルコニーから声のする方角を確かめる。
「ヒィィイイイ! 来るなぁぁああ!」
ヒステリックに叫ぶ少年の声が王城の方から聞こえる。これはもしかしなくとも、不眠王子の叫びだろうか。
明け方近くまで、そのはた迷惑な断末魔の叫びが聞こえ、うるさくて一睡も出来なかった。
破格の好待遇の裏にはこんな落とし穴があったとは。三食宿つきだから贅沢は言えない。とりあえず二度寝をしよう。
お昼過ぎまで寝ていた私は、血相を変えてやってきた強面団長サマによって起こされた。
「大変です! リア様!」
「なにー? どうしたのー?」
寝ぼけて働かない眼と頭だと、団長サマも普通の好青年に見える。そして敬語使うの忘れた。
とりあえず、扉の前で立ち話もなんだし部屋の中に招き入れて話を聞くことに。ゴシゴシと目を擦りながら尋ねると、団長サマからとんでもない言葉が飛び出した。
「リア様以外のお方が……皆さん辞退されました」
「え……どういうことですか?」
なんか一気に目が覚めた。
「昨晩のあの叫びを聞かれたのならご存知だと思いますが、殿下のあまりの狂乱具合に……。なので今晩が、リア様の担当になります」
「今晩って……えぇぇえええ!」
十日は安泰だと思ってたのに!
こんな事ならもう少しリサーチしておくべきだった。仕方ない。こうなれば、今からリサーチするしかない。
「アシュレイ、ルーク王子はいつからあのように?」
「始まりは三年前、王妃殿下が亡くなられてからだったと思います」
「どうして王妃殿下はお亡くなりに?」
「暗殺されたのです。当時、王位継承権を巡って水面下で激しい争いがありました。謀反を企んだ陛下の弟君がルーク殿下を狙って暗殺者を仕向けたのです。王妃殿下はルーク殿下を庇ってそのまま。怒りに身を落とされたルーク殿下はその日から、人が変わってしまわれました。周囲の者を常に威嚇し、警戒し、決して信用なされず、常に気を張っておいでです。それが原因で不眠に……」
想像してたのより、重い。かなり重たい。重度の鬱病状態じゃないか。これなら大学の時、心理学をもっと真面目に受講しておくべきだったなぁ。
嘆いても仕方ない。今はとりあえず王子様の情報が欲しい。
「昔はどんな王子様だったのか。アシュレイはご存知ですか?」
「殿下は本当は、大変お優しい方なのです。国を愛し民を愛し、臣下を労り、勉学や武芸に励まれ、聡明な王になるために、寝る間も惜しんで人一倍努力されてこられました」
アリスちゃんが言ってたこと、本当だったんだ。まぁ、今の狂乱状態の王子しか知らなければ、台本読みになるのも無理はない。
「リア様。どうかルーク殿下をお救い下さい。お願いします」
「分かりました。善処します。お話、聞かせて下さりありがとうございました」
王子の人となりは何となく分かった。さぁ、後は策を練るのみ。とりあえず、糖分補給して頑張るぞ-。










