【コミックス1巻発売記念の番外編】観劇デート 後編
演目は『王国の太陽と聖なる少女』か。光の精霊に加護を貰った少女と王子様のラブロマンスらしいけど……これはもしや……
「気付いたか? これは、父上と母上がモチーフになっているんだ」
やっぱりですかー!
というか、自分の両親のラブロマンスを見るって、息子的にはどうなんだろうか。
始まりのナレーションが終わった後、演劇よりルークの様子が気になった私は、気づかれないようにそっと彼の方を見る。
ルークは、実に真剣に見ていた。邪魔をしても悪いし、私も演劇に集中しよう。
◇
確かに、壮絶なラブストーリーだった。前世で海外ものの映画を観ていたかのような、怒濤の展開だった。これが実話だと言うから、事実は小説よりも奇なり。
王様が大恋愛の末に結婚したっていうのは本当だったんだね。苦難を乗り越えた後の二人の結婚シーンで、ミュージカルは幕を下ろした。思わず拍手をしてしまったのは、その場の雰囲気にのまれてしまったせいだろうか。くっそ、感動した!
そっとハンカチを差し出された。私もハンカチくらい持ってるはず……くっ。ありがたく使わせてもらおう。
「ルーク……っ」
「どうした?」
「幸せにならないと、ダメですよっ……ぐすっ」
ミュージカルは幸せの絶頂で幕を閉じた。その後のことは語られていない。けれど、王様と王妃様がどれだけ王女様とルークを大切に育ててきたかはよくわかる。あんなに運命的に出会って、いくつの苦難も乗り越えて、愛し合った子宝なんだ、可愛くないはずがない!
「リアが、してくれるんだろう?」
「……はい、勿論です」
王妃様の分まで、王女様にもルークにも、幸せになってほしい。お城に帰ったら、王女様にもお礼を言おう。
「すみません、もう大丈夫です。ハンカチ、ありがとうございました」
さぁ行こうと立ち上がると、何故か響き渡る開演のブザー。そして始まる第2幕……あれ、おわりじゃないの?
「第2幕は、『若き太陽と精霊に愛されし少女』王国の若き太陽ルーク王太子殿下と、素晴らしき才能をもった幻覚魔術士リア殿の物語です! 皆様、引き続きお楽しみ下さい」
え……?!
ちょっとこれは、どういうこと?!
思わずルークの方を見ると、「そんなに驚いた顔してどうしたのだ?」とえらく落ち着いた様子だ。
「だ、第2幕って、なんですか?」
「あーそうか、リアは知らなかったか。カレドニア王国では、王太子と妃の話はミュージカルになるのだ」
「なんですとー! そんなの初耳です!」
というか、今までのルークとの出来事がミュージカルになるの?! は、恥ずかしすぎる!
「ハハハ、楽しみだな」
「ルーク、意地悪です……」
楽しそうにミュージカルを眺めるルークの隣で、私は羞恥のあまり茹で蛸になった気分だった。
◇
や、やっとおわった。
スタンディグオベーションが鳴り止まない中、私はほっと胸を撫で下ろす。
いやだって、ルークとの黒歴史がどう語られてしまうのか気が気じゃなかったよ!
「ここで、お知らせがございます! 王城の露店街にて、まもなくリア様の魔法店『ユートピア』がオープンいたします。普段味わえないような幻覚体験をお楽しみ頂けるとのことなので、興味があられる方は是非、足をお運び下さい」
私の店の宣伝をしてくれてる。これは……
「馴れ初めを取材された時に、お願いしておいたんだ。はやく、リアと結婚できるように……その、迷惑だったか?」
「いえ、すごく助かります。ルーク、本当にありがとうございます」
正直、お店を開いてもお客さんが全く来なかったらどうしようって、心配だった。ルークなりに考えてやってくれたんだと思うと、その心遣いが素直に嬉しかった。
私も胸を張ってルークの隣に並べるように、頑張ろう!
オーロラ観劇場を出て、慣れないエスコートを受けながら馬車に乗り込む。
「リア、どこか寄りたい所はあるか?」
「お店で使うのに、時計をみたいです」
お客さんを1日1人に絞るなら、砂時計も1つあれば十分だな。
「分かった、魔道具屋に寄ろう」
「普通の砂時計で大丈夫です、そんな魔道具屋だなんて!」
借金生活なのに、高価な魔石時計を買えるほどの余裕はない。砂が全部落ちたらサービス時間終了ってわかるし、これで十分だ。
「お店の開店祝いに、贈らせてくれないか?」
ルークの上目使いのうるうる攻撃がクリティカルヒット。抗えなかった私は、イエスというしかなかった。
それからルークと共に、魔道具の店に向かった。
「よし、ついたぞ」
魔道具のお店なんて、高価すぎて庶民の私は足を踏み入れた事すらない。店内に漂う高級感は、貴族専用のお店といっても過言ではない。どれもいいお値段のものばかりだ。
ルークの部屋にあった魔法石を使った冷蔵庫も、ここで買ったのかな?
時計コーナーに案内されると、前世で見慣れた壁掛けの時計や置時計など、様々な時計があった。
ただこちらの時計は一周が12時間ではなく、24時間だ。日本みたいに細かく秒針などは刻まれておらず、約3時間ごとに刻まれた大まかな目盛りがあるだけだ。改めて思うけど、時間にはけっこうアバウトだよな、この世界。
朝の刻(早朝6時)から始まり、1刻が約30分後を示す。だから、朝の4刻集合って言われたら、前世で言う8時ぐらいだと思えばいい。朝の6刻=明の刻(前世で言う9時)となる。この世界の人が1秒毎に時を刻む時計を見たら、きっとあわてるだろうな。なーんて考えてると、ルークに声をかけられた。
「リア、これなんかどうだ?」
ルークが薦めてくれたのは、置き型のからくり時計だった。女神様に抱えられた時計盤の隣には、天使が上の方からサラサラと砂をこぼす、6段階式の砂時計までついている。
「天使の落とした砂の位置を見れば、おおよその時間も分かる。インテリアとしても使えるし、どうだろうか?」
受付のカウンターに置いとくとお洒落でいいかもしれない。しかもこれ、自分で砂をひっくり返す仕様じゃなくて、魔力で寸分の狂いなく時を刻む完全自動型だ。
「とても素敵ですね! でもお値段が……」
デザインもよくて高機能な時計だ。とんでもなく高価に違いない。
「店主、この時計をくれ」
「る、ルーク?! こんなに高価なものでなくても大丈夫ですよ!」
「気にすることはない。それにリア、これはお前の身を守るためでもあるのだ」
「私の身を守る……ですか?」
「ああ、そうだ。リアの提供する魔法は、とても優れている。一度それを味わってしまえば、もっとサービスを受けたいと思うはずだ。そんな時、まだ時間は過ぎてないと不当に延長してくる客が現れぬとも限らない。そんな時はこれの出番だ」
ルークは握りこぶしを作ってさらに熱く語りだす。
「無礼な奴等にこう言ってやるのだ。『おかしいですね。ルーク王太子殿下に頂いた魔石時計が、狂うはずがないと思いますが?』と」
王太子殿下にもらった時計に難癖をつけるのは、王家を侮辱するのも同然。ハハハ、それは確かに最強の時計だわ。
「ルークが私の身を心配してくれているのは、よく分かりました。とても嬉しいです。大事に使わせて頂きますね」
「ああ! 喜んでもらえて何よりだ」
ここは素直に甘えておこう。
何をいってもこんな時、ルークは折れないだろうしね。
それなら、困らせるより笑顔を見ていたい。
開店編も書きかけている原稿があるのですが、最後まで完成してないので今回はここまで!
お付き合いくださり、ありがとうございました。
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稲荷山先生が、とても面白いコミカライズに仕上げてくださってますので、よろしくお願いします!










