【コミックス1巻発売記念の番外編】観劇デート 中編
「準備はできたか? リア」
「はい、ばっちりですよ」
観劇を見に行く約束をした光の日、ルークがお部屋まで迎えに来てくれた。
お忍びで出掛けるため、少数精鋭の護衛を引き連れて観劇場へと行く予定だ。
「ルーク、念のために幻覚をかけておきます。どのような見た目がよろしいですか?」
顔の知られているルークは、城下ではかなり目立つ。念には念をということで、容姿操作の幻覚魔法をかけようとしたわけだが……
「リア好みの容姿にしてくれ!」
と頼まれ、恥ずかしくなって思わず手に汗をかいた。
「……そのリクエストでは、幻覚をおかけできません」
「何故だ?! 俺はもっと、リアの事を知りたいのだ。その理想に近づくために、努力するぞ!」
あーもう、この馬鹿正直真面目王子は! 少しは察する能力を身に付けてほしいものだ。
「私はそのままの貴方が好みです。だがら、そのリクエストでは、無理なのです!」
言葉の意味を理解したらしい王子は、頬を赤く染めて満面の笑みを浮かべた。
あーもう、出だしからこれじゃ、心臓がいくつあっても足りないよ!
「それなら、誰も近寄ってこれないような強面の男にしてほしい」
「強面……ですか?」
ルークったら、団長サマに憧れてたの?
まぁ、強面なら安全の面からしても有効そうだし、飛びっきりの極悪人顔にしてあげるか!
前世の◯クザ映画を思い出して、ルークに強面になる幻覚魔法をかけた。
「そうすれば、誰も近寄ってこれないから、その……二人で色々楽しめるじゃないか」
「そ、そうですね!」
めちゃくちゃ強面なのに、いじらしくそんなこと言う姿が可愛いと思ってしまった。
やばい、私……かなりルークに拗らせてる。でも、デートなんだもん。少しくらいいよね!
「ほら、ルーク! そろそろ行きますよ!」
赤い顔を見られないように、ルークの手を掴んで歩きだした。
貴族のお忍び風を装い、私達はオーロラ観劇場へとやってきた。平民から貴族まで多くの人々に楽しまれている、王国一人気の場所らしい。
私はすかさず値段表をチェックする。観劇は席によって値段が分けられており、最前列から後方にいくほど値段が安くなっていた。
最前列で2万ペール、後方が1万ペール。VIP席が10万ペールか。貴族階級だと、個室の二階から見れるVIP席に座るのが普通らしい。
王女様にもらったチケットもVIP席で、一回10万ペールのものだ。観劇がおよそ4刻(2時間)くらいだとして、一回で10万ペールが相場と考えるなら、最短が1刻(30分)2万5000ペール、最長4刻(2時間)10万ペールのコースでいいかもしれない。
そのためには、時を正しく刻む時計がいくつか欲しいな。帰りに見ていきたいな。
「何をそんなに熱心に見ているんだ?」
「いや、その……サービスの値段を参考にさせて頂いていたのです」
「リアの魔法サービスなら一回20万ペールでも安いくらいだな」
「……え? それは買い被りすぎでは?」
「そんなことはないぞ。魔法サービスは基本高額だ。治癒魔法など、一回15万ペールは、最低かかるぞ」
ん――!?
「そもそも魔法は1日に何度も使えるものではない。優れた治癒魔法士でも、ヒールを1日2回が限度だろう。それ以上は体が持たない」
ヒールって本当の初期魔法じゃないの?
いやでも確かに、お師匠様に作ってもらったこの魔力を蓄積できるペンダントがなければ、すぐに魔力は枯渇するだろう。
「だからリアの使う魔法の希少価値を考えると、値段なんて本当はつけられないと思う」
団長サマの言ってたこと、あながち間違いではなかったの?!
「1刻(30分)2万5000ペールでと考えていたのですが……」
「安すぎる!」
「じゃあ5万ペールで……」
「違う、20万ペールだ!」
そ、そんなに高額でお客さん来るのだろうか……
「それに、1刻ごとではリアの体に負担がかかる。客は1日1人にした方がいい」
「大丈夫ですよ、ルーク。私、魔力量は蓄えられるので!」
「いいや、だめだ。1日1人だ! そして毎日俺が通う」
「却下!」
「なぜだ?!」
「ルーク、公私混同はダメです」
「だがしかし……」
心配して言ってくれてるのは、よく伝わってきた。それなら……
「分かりました。お客は1日1人までとます。値段も20万ペールで、最上級のおもてなしのみに致します。これならいかがでしょうか?」
「わかった。ただし、体に負担にならない程度にするんだぞ!?」
「はい、それは勿論ですよ。それより、ルーク。演劇が始まってしまうので席に行きましょう」
お仕事の話はここまでだ。折角王女様に貰ったチケットだし、楽しもう!










