【コミックス1巻発売記念の番外編】観劇デート 前編
時間軸は、エンディング後です。
こちらは昔、続編として書きかけていたお話を、キリがよいところで前・中・後編にわけたものです。
よかったら少しだけお付き合いくださると嬉しいです。
露店街に私のお店『ユートピア』が完成した。流石は陛下、希望していた感じの十倍は立派なお店を作って下さった。露店馬車が多い中、なんとも存在感があって目立つ。
中に入ると受け付けのカウンターがあって、左右に二つの個室が用意されている。そこがお客様に幻覚をかけてゆっくりしてもらう部屋だ。
ゲンさんに依頼した最高級の寝具やソファー、人を駄目にするクッションなどを取り揃えた最高の癒やし空間となっている。
カウンターの奥には私の待機部屋がある。お客様に幻覚魔法をかけている間はそこで待機して待つ。
様子をいつでも確認できるように、部屋の間には窓を設置している。
ただ向こうからはこちらが見えないように、マジックミラー仕様に幻覚をかける予定だ。窓のままだと部屋の景観を損なうし、見られてるって思うのも嫌だろうしね。
奥には飲み物を提供するための簡易キッチンも完備。勿論、ポーラさんから請け負っている仕事をやるため、裁縫道具一式も取りそろえている。
悩むのは料金設定だ。ある程度の基本料金を決めておいて、プラス要素の煩わしさがある場合は追加徴収をしようと考えている。
はたしていくらが相場なのだろう。誰もやってない商売だから、値段の付け方が難しい。
借金返済のためには高く設定しておきたい所だけど、あんまり高すぎるとお客さんが来ないかもしれない。
かといえ、プライドの高そうな貴族の方々を相手にするのだ。安すぎると、不信感を抱かせる可能性もある。
ここは高貴な身分の方々に聞き取り調査を行ってみよう。
「ということなんだけど、アシュレイ。いくらぐらいが相場だと思う?」
よく考えたら貴族の知り合いなんて、アシュレイぐらいしか居ない。団長サマならきっと良い感じの意見を言ってくれるに違いない。
羨望の眼差しを向けつつ返事を待った。
「そうですね……リア様の幻覚魔術は本当に素晴らしい。私なら、いくら支払っても問題ありません」
「本当にいくらでも?」
「はい、問題ありません」
却下! 全然参考にならない意見をありがとう。次だ、次行こう。
女性意見が聞きたいという事で、王女様を訪ねてみた。
部屋が宮廷に移ってから、近くなったのもあってよく私の部屋に突撃して来られるけど、たまには仕返してもいいよね?
「という事なのですが、シャーロッテ様。いくらぐらいが相場だと思いますか?」
「そうね……観劇の値段を参考にしたらいかがかしら? ということでリア、運良くここに手配していたチケットがあるの。ルークと一緒に行ってらっしゃい。市場調査よ」
何故か二枚のチケットを渡された。それは最近城下で話題のミュージカルのチケットだった。
「え……でもこれって、団長サマを誘って行こうとしたものじゃ……」
待っているだけではダメだと自覚したらしい王女様は、前より積極的になられた。
その第一歩が、城下で話題のミュージカルを一緒に見に行くこと。元ミュージカル団員の母の影響で、アシュレイはよくミュージカル鑑賞に行くらしい。その情報をルークから聞き取ったシャーロッテ様は、行動を起こされたというわけだ。
「……誘えなかったのよ。紅蓮の騎士団はルークの管理下にある騎士団だから、普段はあまり接点がないの。その上、私の管理下にある白蓮の騎士団長がことごとく邪魔してくれてね。ほんと頭にくるわ」
白蓮の騎士団……そう言えば、王女様の護衛をしている騎士達は何か全体的に白いな。そしてアシュレイ率いる紅蓮の騎士団員達は全体的に赤い。
「何があったのですか?」
「非番の日を狙って誘おうとしたの。そうしたら、あのアホが私より先に誘っているのよ! 早食い勝負だの、大食い勝負だの言って、非番の度に私のアシュレイを連れまわしているのよ! ほんと頭にくるわ」
「白蓮の騎士団長って、どんな方なんですか?」
「やたらとアシュレイをライバル視して挑む……身の程を知らない、アホよ」
「アホですか」
「そう、脳みそまで筋肉で出来ているアホよ。それ以外に表す言葉がないわ」
何となく、想像出来た気がする。
「ということで、このチケットはリアにあげるわ」
結局、ミュージカルのチケットをもらってしまった。ルークと行ってきなさいと言われても、彼も暇ではない。そんな都合よく行けるはずはないだろう。
そう思いつつも、一応声をかけてみた。すると――
「行く! 絶対に行く! 何があっても行く!」
予想外にもルークは乗り気だった。
「公務は大丈夫なのですか?」
「調整する。一日くらい何とかするから心配するな。それで、いつなんだ?」
「次の光の日です」
私の言葉に、ルークの顔色が一瞬悪くなった。
「あの、大丈夫ですか?」
「案ずるな。絶対に時間を作る!」
そこまで凄まれると、やっぱりやめときましょうなんて言えるはずがなかった。
でもルークと城下にお出掛けなんて初めてだし、楽しみだな。
番外編、お読みくださりありがとうございました!
【宣伝】
本日コミカライズの特装版1巻が、Renta様で独占先行配信始まりました!
単話1~6+Renta限定おまけ漫画が収録されております。
稲荷山こん太先生が手がけてくださった単行本、本当に素敵な一冊が完成しておりますので、ぜひお手にとってくださると嬉しいです。
下記にリンクを作っておりますので、よろしくお願いいたします!










