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異世界転生して幻覚魔術師となった私のお仕事は、王子の不眠治療係です【電子書籍+コミックス1巻発売中!】  作者: 花宵
番外編

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【電子書籍配信記念の番外編】夏の星夜の舞踏会 後編

 陛下の開幕の挨拶の後、中央のダンスホールが解放された。


「踊る順番は自由じゃ。一定人数に達したら一回目を始めるぞ」


 我先にホールに上がるペアも入れば、様子見をしているペアもいる。なるほど、自分達のペースで参加したい時に踊ったらいいんだね。


「リア」


 私の名前を呼んだルークは、流れるような所作でお辞儀をしてこちらへ手を差し出した。


「私と一緒に踊って頂けますか?」


 どうやらルークはトップバッターで参加したいらしい。


「はい、喜んで」


 差し出されたルークの手に自身の手を乗せると、軽く持ち上げて手の甲にキスを落とされた。し、心臓に悪い。

 そのままエスコートされてダンスホールに上がった瞬間、すごい違和感を覚えた。

 私は何故、普通に踊れると勘違いしていたのだろう。お師匠様が関わった時点で、普通なんてありえないという事を忘れていた。何たる失態だ!


「ひぃぃ!」

「ど、どうなっているの!?」

「お、落ちるー!」


 ダンスホールに上がったペア達が、床を見て恐怖で悲鳴を上げる。

 高所恐怖症の人は、足がすくんでまず踊れないだろう。だって今このダンスフロアは、お師匠様の幻覚で高い空中で雲の上に立っている感覚にさせられている。

 しかも動く雲もあって、足を踏み外すと落下体験付きの怖いやつ。現実をゲームフィールドにしないでくれよ。


「ルーク。怖い思いしたくなかったら、決して下は見ないでください」

「ああ。リアの顔しか見ていない」


 それもそれでどうかと思いますけど!?


「床に何かあるのか? 特に変わった事はなさそうだが……何故皆あんなに怯えておるのだ?」


 ああ、なるほど。この悪意満々の幻覚は、ルークには効いてないのか。お師匠様避けにはすごく便利だな、光魔法!


「やぁ、皆さんごきげんよう。僕は夢を司る大精霊ドリーマーさ。僕が祝福を与える条件はただ一つ。一曲を最後まで立派に踊りきること。達成出来たペア全員に祝福をあげる。ただし一度でも床に手をついたり、フロアの外に出たりしたらそこで終わりだよ。それじゃあ、頑張ってね~」


 言いたいことだけ言うと、お師匠様は消えてしまった。どっかその辺に浮かんで見ているんだろうなー。


「そういうことだったのか。俺には普通のダンスホールにしか見えないが……」

「私には雲の上に立っているように見えます。足場もふわふわで不安定だし、踏み外せば下に落ちます……って、何でそんなに残念そうな顔しているんですか?」

「折角のリアルゲーム、何故俺だけ体験出来ないんだ!」


 そんな残念がらなくても良いでしょうに。私のせいでルークが生粋のゲーマー気質になってしまった。


「ルークにはいつでも私が幻覚をかけてあげられます。だから良いじゃないですか……」

「それもそうだな」


 右手を握られて、背中にルークの手が回される。楽団の音楽に合わせて、ダンスが始まった。

 ヒールで不安定な雲の上を歩くだけで精一杯なのに、はたして踊れるんだろうか……私の体が震えている事に気付いたのか、不安を拭うようにルークが優しく耳打ちしてきた。


「もし足を踏み外しそうな時は、抱えてやるから心配しなくていい。俺に身を委ねてくれ」

「分かりました」


 出会った当初はモヤシ体型だったルークも、今は私を支えられるくらいには立派になったんだね。


「今、モヤシの癖に大丈夫か? とか思ったりしてないよな?」

「そ、そんな事思っているわけないじゃないですか!」


 そのモヤシセンサーの鋭さだけは相変わらずだね……何て思っていたら、足場の雲がなくて身体が大きく後ろに傾いた。


 やばい、転ぶ!


 反射的に目を閉じると、ルークが咄嗟に背中に深く手を回して支えてくれた。これ傍から見たら完全にイナバウワーじゃなかろうか。


「大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます。あの、何かさっきより近い気が……」


 体勢を立て直して密着した身体が恥ずかしくて抗議したら、「この方が支えやすい。転びたくないだろ?」とルークは悪びれもなく言った。口元には笑みを浮かべている。

 くっ、私の反応を見て完全に楽しんでいるな。

 確かに足場がなくて転びそうになっても、深く手が回してあるから安定はする。立て直しもすぐ出来る。理にはかなっているけども!


 落ち着け、今はダンスに集中だ。

 一度脱落判定受けたペアは幻覚も解けたようで、残念そうにホールを降りていく。

 お師匠様の嫌がらせか、足場の雲がどんどん小さくなっていくし。おまけに動きまで速くなる。難易度高過ぎでしょ!


「うわっ!」

「きゃっ!」


 次々と脱落していくペアの悲鳴を聞きながらも、ルークが支えてくれるおかげで何とか最後まで踊りきれた。その結果、気がつけば回りには踊っているペアが居なくなっていた。


「幻覚効かない王子様には簡単すぎたよね。でも約束だし、仕方ないから祝福あげるね~」


 キラキラとした光が降り注ぐ。そうしてお師匠様に祝福を受けて、拍手に包まれてダンスホールを後にした。

 何の祝福をもらったのか、正直よく分からない。でも「やったぞ、リア!」ってルークは喜んでいるからまぁいいや。


「おめでとう。ルーク、リア」

「流石です! 殿下、リア様」

「ありがとう。姉上達も頑張ってくれ」

「ありがとうございます。応援していますね」


 私達と入れ替わりで、今度はシャーロッテ様とアシュレイがダンスホールに上がる。

 私とルークは王族専用の観戦席から、二人のダンスを見守った。高さがあるからダンスフロア全体がよく見渡せる。


「よくやったのう。ルーク、リア。これでカレドニア王国は安泰じゃな。早く其方達の結婚式を挙げたいのう」

「へ、陛下。まだお店も完成していないのに少し気が早いですよ」


 間もなく完成予定ではあるけども。


「精霊様の祝福を受けたのです。きっとすぐにでもやれますよ」


 あのお金にがめついお師匠様が、人の金運が上がる祝福をくれるわけがない……とは言わないでおこう。むしろ何の祝福(のろい)を受けたのか……そっちの方が気になるなぁ。


「そうだと良いのう。そろそろ二回目が始まるようじゃな」


 ホールに上がったペア達は少なからず状況が分かっているからか、皆慎重に足を踏み入れている。


「ははは、二回目も同じフロアなわけないよね~」


 ですよね、お師匠様がそんな優しいわけがない。

 空中フィールドだったダンスフロアが、大きなスイーツに囲まれたファンシーな空間になった。床には赤、青、黄色、緑のタイルがバラバラに配置されている。

 これ中に居る人は大きなスイーツのせいで多分気付かないだろうけど、全体が見渡せるこの席からならよく分かる。

 エリアの外には、ナプキンをつけた大きなクマのぬいぐるみがスプーンとフォークを持って鎮座している。まるでダンスフロア全体が、クマの食卓だと言わんばかりに。

 失敗すると食われるやつだ。そしてそれを一切説明無く始めるのがお師匠様の意地悪な所だよな。


「それは褒めているのかな?」

「お、お師匠様……」

「王様、僕もここに座っていいかい?」

「どうぞこちらへお座り下さい。精霊様用の特等席ですじゃ」


 一つ豪華で特別な席があるなとは思っていたら、精霊様用の席だったのか。


「今年の舞踏会は、とても演出に凝っておりますのう」

「はっはっはっ! ファントム座は僕がモチーフの星だからね。たまには祝福の大盤振る舞いをしてあげるよ」


 クリア出来る人が少なすぎて、はたして大盤振る舞いと言えるのだろうか。


「じゃあそろそろ、フェーズ1行ってみようか」


 お師匠様がパチンと指を鳴らすと、緑色の床が赤黒く光り出した。そしてそれを踏んでしまったペアに悪夢が襲いかかる。


「僕のケーキにバジルソースをかけたのは誰だ!」


 大きなクマが怒り出して、緑の床を踏んでしまったペアをフォークですくうとダンスホールの外にポイッと捨ててしまった。ちなみに周囲はトランポリン仕様のようで、捨てられたペアはポヨンポヨンと飛んでいる。


「おぉ、楽しそうだな!」


 ルーク、今度は見えるんだね。どうやら自分に害がない幻覚は見えるらしい。

 見ている分には楽しいけど、実際中に閉じ込められる方は恐怖しかないからね。制限される足場の色は定期的に変わるし、容赦なく飛んでくるフォークとスプーンを避けないといけないし。

 ただこれ、踏んでもクマの攻撃を避けさえすれば生き残れる。

 そう考えると、運動能力高くて反射神経良いペアはごり押しで生き残れる可能性もある。案の定、団長サマ達は安定したダンスを披露されているし。

 シャーロッテ様はアシュレイに夢中で、制限された床をたまに踏んでいる。それでも迫ってくるフォークやスプーンを、アシュレイが武人の感で回避しながらリードして、精巧なるロボットダンスを披露している。


「くっ、ははは! なにあれ、おもしろー!」


 爆笑しているお師匠様の声が聞こえる。やはりツボにはまったらしい。


「ふふふ、足場をもっと減らしてあげる~」


 鬼か! 悪魔か!

 制限する床を増やして意地悪しているし。

 悪夢を司る精霊って言った方がしっくりくるんじゃないかな、お師匠様の場合。


「中々やるな~」


 団長サマ達を見てお師匠様が呟いた。何あの容赦ないフォークとスプーンの攻撃攻め。クマの数は増えているし、友達を召喚するのやめてあげて!


「これならどうだ!」


 もうフロアに残っているのは団長サマ達のペアしかいない。演奏される楽曲も終盤を迎えた時、四面楚歌の状態でクマが一斉にフォークを突き出した。あれじゃどこにも逃げ場がない。

 機転を利かせた団長サマは、シャーロッテ様を抱えて飛んだ。流石は獅子王の生まれ変わり。跳躍力も半端ないな。

 そのまま見事に着地をしてフィナーレを迎えた。周囲からは拍手喝采が鳴り響く。


「くそー、悔しいけど面白かったよ! 君達に祝福を与えよう!」


 温かい拍手に包まれて、アシュレイとシャーロッテ様もお師匠様に祝福をもらってダンスホールを後にした。

 結局その後にお師匠様の試練をクリア出来たペアは居なくて、夏の星夜の舞踏会はこうして幕を閉じた。

ラスト一話、【祝福の効果】を明日更新します!

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