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異世界転生して幻覚魔術師となった私のお仕事は、王子の不眠治療係です【電子書籍+コミックス1巻発売中!】  作者: 花宵
本編

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43、美味しいお菓子を世に出すために一肌脱いだら……

「本当に美味しそうにお菓子をお召し上がりになっていらっしゃるので、思わず声をかけてしまいました。お邪魔してすみません」

「いえいえ」


 見られてたのか。改めて指摘されるとなんか恥ずかしい。


「あの、よろしければ少しだけ……お話を伺いたいのですが」


 お姉さんの話を聞くと、カレドニア王国で毎年開催されているこの春のお茶会は、流行の最先端をいく最新の絶品お菓子が並ぶ事で有名らしい。

 そのため、カフェや食事処、スイーツ販売を生業にしているその道の人達からしたら、喉から手が出るほど参加したいイベントなのだそうだ。

 お姉さんは運良く抽選で当たり参加できたものの、あの豊富な種類のスイーツを全て味見していく事が出来なかったらしい。それで、食べられなかったお菓子の感想を聞きたくて声をかけてきたそうだ。


 まぁ、そうだろうね。普通の人には全制覇は無理だろう。私は魔力回復のために、宝玉の方にエネルギーを貯えてるから食べれるけど。


「お話は分かりました。私で良ければ力になりますよ」


 美味しいお菓子を世に出すためだ、是非とも力になろうではないか!


「本当ですか?! ありがとうございます! では、こちらのフィナンシェは……」


 それからしばらくお菓子の感想を教えてあげた。美味しいだけじゃ伝わらないだろうから、辛口評価で良い点と悪い点を述べた。そんな私の辛口評価コメントを、丁寧にお姉さんはメモ帳に書き記していた。


「ありがとうございます、リア様。とても参考になりました!」

「いえいえ、これで更なる美味しいお菓子が世に出るならば、私も嬉しい限りですので」

「あの、リア様……よろしければもう少しだけお時間お借り出来ませんか?」

「ええ、構いませんよ」


 王子もアシュレイもまだ戻ってきそうにないし。


「実は、最近売り出した新作の洋菓子の売れ行きが芳しくなくて、よければ味見をして頂きたいのです。リア様なら、どこが悪いのかはっきりご指摘頂けるんじゃないかと思いまして……」


 本当に悩んでる感じの顔だ。まぁ、ここに来て一流パティシエの作った色んなお菓子を食べているから、それなりに舌は肥えてきた。辛口評価も出来るだろうけど……


「特別功労者様であらせられるのに、突然不躾なお願いをして申し訳ありません。やはり、お忙しいですよね。お時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした」


 見ていて気の毒になるほどペコペコと頭を下げてお姉さんは謝ってくる。


 あんなに熱心にお菓子のコメントを書き記して勉強していたし、きっと悪い人では無いだろう。何より! 美味しいお菓子を世に出すためだ。ここは一肌脱ごうじゃないか。


「待って下さい!」


 去っていくお姉さんを呼び止めた。


「私で良ければご協力しますよ」

「本当ですか?! ありがとうございます! では、こちらに……」


 お姉さんに付いて歩いて行く。入口にあった花のアーチを抜け人気の無い場所へ向かうにつれ、一抹の不安がこみ上げてくる。


「あの、どちらに?」

「お茶会の会場に自前のお菓子を持ち込む事は禁止されていますので。すみません、あちらに設置された休憩所でもよろしいですか?」


 促された視線の先には、テーブルと椅子が用意された休憩所らしきスペースが見える。


「分かりました」


 歩き出そうとしたら、お姉さんに呼び止められた。


「待って下さい、リア様。髪の毛に花びらが……」


 お姉さんが手を伸ばしてきた瞬間、歪な魔力の波動が身体全体を包みこむような変な感じがした。

 慌てて確認するも、自身の身体にこれといって変化はみられない。気のせい、だったのだろうか?

 お姉さんは取った花びらを笑顔で見せてくれたし、そこから悪意のようなものは感じない。


「どうかなさいました?」

「いえ……ありがとうございます」


 休憩所につくと寛いで談笑している人や、この場を警備している騎士さん達も数人居る。王城の敷地内だし、少しくらいなら大丈夫だろう。


「預けていた荷物を取ってまいりますので、少しお待ち頂いてもよろしいですか?」

「分かりました」


 しばらくして、小さな紙箱を持ってお姉さんが戻ってきた。紙箱の側面には、『パメラ』の文字があった。王子が最近取り寄せていた話題の洋菓子店の名前だ。


「お姉さん、パメラの方だったんですか?!」

「はい。といっても私はまだ見習いなんです。この間初めて私の作ったお菓子をお店に並べてもらえたのですが、中々売れ行きが芳しくなくて……リア様。こちらが食べて頂きたいスティックショコラです。率直な感想を、お願いします」


 差し出されたのは細長い棒状のチョコレートケーキみたいだった。包み紙を破りながら食べたら手を汚さずに食べることが出来る。お土産としても手軽そうだしいいと思うけど、問題は味か。


「では、いただきます」


 包み紙を取って、スティックショコラを口に含むと、かなり甘ったるいチョコレートの味が広がる。異様に甘いそのお菓子に違和感を感じていると、手足に力が入らなくなってきた。


 これは、ヤバい。何か盛られたかもしれない。頭がぼんやりしてきて、私はそのまま意識を手放した。

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