3、見た目で判断してすみません
「それではこちらへ」
「はい」
「……」
「……」
き、気まずい。無言で強面の団長サマの後をついてひたすら歩く。無駄に広い廊下とか庭を抜けて行った先にある離宮。そこが、合格者が住まう場所のようだった。
「足下、段差があるのでお気をつけ下さい」
そう注意を促してくれたにも関わらず、豪快に足を引っ掛けた。咄嗟に掴んだのは、前を歩いていた団長サマのマントだった。
掴んだことにより私は転ばずに済んだものの、団長サマから「ぐえっ」とカエルが潰れたような声が。
「ご、ごめんなさい!」
す、すみません。悪気はないんです。敵意もありません。わざと首しめたわけじゃないんです。
首をさすりながら涙目でこちらを睨む団長サマ……やばい、切られる!
恐すぎて思わず目をつむった私に、信じられない言葉がかけられた。
「お怪我は、ありませんか?」
あくまでも、騎士としての仕事を全うする団長サマ。この人……なんて出来た人なんだ! こういう人を上司に持ちたかった!
散々心の中でディスってごめんなさい。怖がってごめんなさい。もう見た目で判断しません。
「私がもう少しはやくお伝えしていれば……申し訳ありませんでした」
「滅相もありません。顔を上げて下さい、団長サマ。私の方こそ、不注意ですみませんでした。治すことは出来ませんが、せめて痛みを緩和するぐらいなら出来ますから」
顔を上げた団長サマの首元に、怪我をする前の状態の幻覚魔法を憑依させる。これで痛みはなくなるはずだ。
「すごい……痛みが消えました……」
「あくまでこれは、幻覚で痛みを感じないようにしているだけです。怪我が治っているわけではないので、無理はしないで下さいね」
「ありがとうございます。貴女なら……本当に殿下を治して差し上げることが出来るかもしれませんね」
「だといいのですが……」
いつの間にか、最初に感じていた気まずさは無くなっていた。
「こちらがリア様のお部屋になります。部屋ではご自由に過ごされて構いません。ただ部屋から外へ出る際は、必ず護衛をお連れ下さい。何か不自由があれば、その呼び鈴を鳴らして侍女をお呼び下さいね」
「はい。ありがとうございます、団長サマ」
「アシュレイ。私のことはそう呼び捨て下さい」
「え、いや……流石にそれは……」
恐れ多すぎる! 一介の市民である私が様付けで呼ばれているだけでむずかゆいのに。
「私は今、リア様に仕えています。なのでどうか……」
お願いだから、その目力で凄むのは止めて下さい。ヤクザの頭を呼び捨てしろと言われているような気分です。明日の命があるかどうか、マジで心配になります。
だが、呼ぶまで折れない団長サマ……意を決して私は呼んだ。呼んでやったぞ。
「……あ、アシュレイ」
「はい、ありがとうございます」
言葉だけ聞くとすごく優しげな騎士様を想像出来るものの、ビジュアルの効果は半端ない。団長サマの笑った顔は、悪いことを企む極悪人のようでした。










