24、ご馳走でつるとは、卑怯です!
暇な時間があれば、私は図書館に入り浸るようになっていた。
豊富な種類の本が揃ったこの図書館は、サロンの次に私のお気に入りの場所だ。勿論空調設備も整っており、中はとても快適に過ごせる。
眺めの良い十五階の読書スペースで、リラクゼーション効果の高いフカフカのソファーに座って時間が経つのも忘れて活字を追いかける。
幻覚魔法を使うためのイメージトレーニングに、読書はとても相性がいい。様々な世界観の物語に触れ、楽しみながら脳に刺激を与えられる。娯楽と訓練を併用できるこの場所は、一石二鳥の素晴らしい場所なのだ。
しかし、静寂に包まれたこの癒やし空間に、最近は侵入者がやって来るようになった。
今日もいつものようにサロンで美味しいご飯を食べた後、図書館の十五階の隅に位置する読書スペースで本を読んでいると──
「リア、今日は何を読んでいる?」
「ウーゴの冒険記ですね」
「ああ、この前薦めた奴だな。どうだ? 面白いだろう?」
「まぁ、序盤は斬新な切り口で楽しめましたが、本筋は王道ですね。もう少し、葛藤が欲しい所です」
何故かこっちでは王子がよく現れるようになっていた。また勝手に抜け出してきたのだろうと、最初のうちは追い返していたけど、最近は二メートル以内にきちんと護衛の騎士を伴ってくるようになった。どうやら公務の時間を調整して時間を作っているらしい。
あれからきちんと食事を取ってくれているようで、頬のやつれた感じもとれ、くすんでいた金髪にも艶が出ている。
良い兆候だとは思うけど、あくまで今は勤務時間外だ。私は静かに本を読みたい。それなのに、こうやって毎日隣を陣取られ話しかけられては続きも読めないじゃないか!
「王子、続きを読みたいのですが……」
「ああ。俺のことは気にしなくていい」
そう言われて再び視線を本に移すも、こちらを窺うような視線を感じて落ち着かない。
気にしなくていいと言われても、それならこっちを見てないで本を読め。その手元に持っている本を読め。
「何か話があるのでしょう? 先に用件を聞きます」
パタンと本を閉じて話しかけると、慌てた様子で王子は視線をそらす。
「な、何のことだ? 今は勤務時間外だろ?」
「そうですが、そんなに視線を送られると気が散って読めません。ですので先に用件を聞きます」
この二ヶ月、王子の不眠治療係として接するうちに、彼の行動パターンが分かってきた。こうやってチラチラ人の顔を窺っている時は、何か話したいけど話せない時だ。
「実はだな、来月……公務でミーティア神殿を巡拝することになった。距離的に日帰りでは行けぬ。それで、一緒に付いてきて欲しいのだが……」
「どれくらいかかります?」
「往復で一週間ほど……」
「一週間もお城から離れるのですか……」
パターン化した生活のリズムを崩したくない。それに一週間もサロンのご飯をお預けとは、辛すぎる。
「ほら、たまには城の外に出て気分転換にもなるぞ?」
「現状に満足しているので興味ありません」
「道中、とても綺麗な花の名所を通る」
「綺麗な景色を見て心が癒やされても、腹は満たされません」
何とか説得しようとする王子の魂胆が透けて見える。
人生やっぱり花より団子。両方あったらなおいいけどね。一週間も拘束されるのだ。それ相応の魅力が無ければ行きたくない。
「ミーティア神殿のある港町キルシュには、豊富な海の幸がある。付いてくれば新鮮な魚貝料理をたらふくご馳走しよう」
海の幸?!
「紅薔薇ロブスターの刺身とグラタンは外せません」
「必ず用意させよう。さらに蒼月貝のあぶり焼きに、黒宝ウニの丼もどうだ?」
こやつ、中々分かっておる。
「……分かりました。お供します」
「交渉成立だ! 詳しい日程は改めて知らせるからな」
くっ、屈してしまった! 食べ物でつるとは何とも卑怯な。
しかもあやつ、最近グルメ志向になっているようで、各街の絶品グルメに詳しく食事に取り入れているらしい。何とも羨ましい!
サロンでも新メニュー、おいてくれないかな……










