37 元社畜と少年-16
わたしが鑑定書発行許可書と発行印を貰って二週間。特に問題が発生することなく、店をオープンするに至った。
異世界出身がバレたかも、と思ったけれども、特に誰かがやってくるとか、連れ去られるような目にあったとか、そんなことは一切なく。あの日の夜は流石のわたしでも寝られなかった。誰かに襲われるかも、と思ったし、もし何日かして怪しい動きがあれば、オープン前だしギルド長に謝るだけ謝って、ついでに少年への伝言を頼んで、この街を出ようと考えてしまったくらいだ。
が、わたしのその考えは杞憂に終わった。なんならこの二週間、ほとんどギルドにこもっていたけれど、本当に何もなかったのだ。
わたしには感じられない異変でも、ギルド長とかなら気が付くかな、とギルドに入り浸っていたわけだが、「最近暇なのか?」とギルド長に一声かけられただけ。ギルド長がこの反応ってことは、鑑定者さんから情報が流れて、どこかの研究機関に……なんて未来はないのだろう。
ということで、無事安心できたので、本日店から店を始めることになった。あの一件がなければ、正直、翌日からでもオープンできたんだけど。でも、流石にオープンして数日で閉店はちょっとね。無理矢理元の世界へ帰ったとかじゃなければ、あまりにもギルド長に迷惑がかかりすぎる。いくらわたしがいなくなるときにギルド長がこの店を何とかしてくれるという約束をしたとはいえ、ギルド長だってわたしがほんの数日で店を投げ出すとは想像もしていないだろう。
「あら、ここのパン屋さん、つぶれたんじゃなかったの?」
わたしが店先で、開店準備をしていると、どこかの主婦らしきおばさんに声をかけられる。
「こんにちは。パン屋のおばあさんからここを譲りうけまして。今日から、冒険者の納品物を鑑定する店になったんです」
冒険者とは関係がない普通の人だったら、パン屋の後にはパン屋が入って欲しかったかな、と思いつつも説明をする。しかし、わたしの予想に反して、おばさんは、パッと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「あらあらあら、良かったぁ。おばあさんの店、なくならないのね。このまま空き家になって、そのうち取り壊されちゃうかと思ったわ」
どうやら、この店を物理的になくしたくないおばあさんの話は、この辺りでは有名らしかった。近所の人までこうして喜んでくれるところを見ると、あんな引き受け方ではあったけれど、やって良かったのかな、と思う。
……こうなったら、わたしが元の世界に帰れるかどうかの情報、本腰入れて探さないとな。
前までは、そのうち帰りたくなったら探せばいいか、くらいの気持ちだったが、ここまでこの場所が望まれているのならば、わたしが怠けて情報収集をしなかったせいで、ポンと元の世界に戻ってしまって、この店が放置される、とうのはかなり心苦しい。
そのうちでいいか、と考えないようにしていたが、今がそのときか。休みの日にでも、また図書館に行ってみようかな……。それとも剣士さんに相談してみる? 長命のエルフともあれば、長く生きた時間の中で、異世界人が迷い込んだ話の一つや二つくらい知っているかもしれない。
あとはまあ、鑑定者さんとか……。わたしの勝手な憶測ではあるけれど、あのとき、わたしの出身地を知った彼が、この世界で唯一、わたしが異世界人であることを知っているから、相談しやすくはある。
とりあえずは今日、オープン初日を乗り越えてから考えようか……と思っていると。
「おねーさんっ!」
――少年の、わたしを呼ぶ声が耳に届いた。




