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三国志の「劉協」になったけど、漢は滅亡寸前でした ~献帝が狂武帝と諡されるまで~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第六章 赤龍が昇る

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83話

活動報告に、たくさんのコメントをいただきました。

本当にありがとうございます。


そこでも告知させていただきましたが、本作品は残り十数話で完結となります。


最後まで盛り上げていきたいと思っていますので、どうぞお付き合いの程、よろしくお願い致します。



 正式に役職も整えられたことで現在、朝廷はバリバリ稼働中である。


 ん? 俺?

 俺は大体、こういう内政系の話し合いには呼ばれませんよ?


 参加するだけで、いつの間にか戦費が膨らむとか、皆に愚痴られてるらしい。

 つまり今は、大人しく引っ込んでいてくれと、遠回しに言われてる状態。


 我、無上将軍ぞ?



「あの、殿下」


「お、戻ったか」


 おだやかな昼下がり。

 今日も今日とて、リハビリがてらに木刀を振るっていた。

 まだ違和感はあるが、痛みはほとんどない。よかったよかった。


 いつの間にか、俺の居室に立っていたのは翠幻である。

 無表情はいつもの事だが、何だか不満げというか、呆れ気味な雰囲気だけは感じ取れた。


「我ら汚鼠の仕事は、主に謀略や工作です。何故、奥方様の様子を見るためになど。ご自身で確認なされば良いじゃないですか」


「怖いもん……」


「戦場で、あれほど嬉々とする殿下でも、怖いものがあるのですね」


 なんだかんだ言いながら、ちゃんと指示通りに動いてくれるから助かるよね。

 俺だって分かってるわ、これくらい自分で何とかしろって。


 分かった上で、翠幻に頭を下げとんじゃ。


「奥方様は、まぁ、まだ怒ってはおられるようですね。ただ、どこか塞ぎ込んでもおられます。起きてる間はずっと、筆を執って一心不乱に竹簡へ文字を綴っておいでです」


「えー……怖い。どうすれば良いと思う?」


「さぁ。我らの仕事は、指示通り動くことのみ。自分の意思は持たないようにしてます」


 翠幻は一礼し、そのまま部屋を出ていった。

 結局、何も現状は変わっていない。


「直接、会いに行くしかないのか」


 木刀を置き、汗を布で拭った。





 溜息を飲み込み、重すぎる扉を開けた。

 充満する墨の臭いが、鼻の奥まで押し寄せる。


「……あら、殿下」


「あぁ、寝ていたのか、すまない」


「ちょっと、うとうとしていただけですよ」


 机に突っ伏して寝ていたらしい。

 顔や腕に、うっすらと墨汁がついている。


 髪ももさもさとしていた。


「すいません、すぐに着替えてきます」


「いや、別に良い。そのままで」


 しばらくの、無言。

 お互いに、何から話せばいいのか分からない、そんな感じ。


 すると蔡文姫はその場から立ち、寝所に腰を下ろした。


 近くに来いと言いたいのだろうか?

 俺も自然と、蔡文姫の隣へ腰を下ろす。


「……怒っているのか?」


「そうですね、そうかもしれません。私は怒っています」


「ぐぬぬ」


 ここまで正面切って言われると、ぐうの音も出ないのが正直なところ。

 蔡文姫の目は、こっちに向いてもいなかった。


 別に人から嫌われるのなんて屁じゃないし、気にしたことも無い。

 ただ、蔡文姫と気まずいままなのは、どうにも具合が悪かった。


 董卓討伐の際や、それ以前から色々と、あまりにも世話になり過ぎた。

 俺が生死の間を彷徨っている間もずっと、涙を流してくれたのだし、共に戦いたいとまで言ってくれた。


 そんな人に嫌われるというのは、辛いものがある。


「あのさ、蔡文姫。その、正直なところ俺は、あんまり他人が何を考えているとか、そういうのがてんで分からない」


 そういうのが分かっていればきっと、賈詡を早くから配下に出来ただろう。

 もしかしたら董卓とか呂布なんかと、手を結ぶなんてことも出来たかもしれない。



「今、お前が怒ってるのも、何となく俺が悪いってのは分かってるんだ。分かってるけど、どうすれば良いか分からない。もしお前が望むなら、側室の話は断るし、俺に出来る事なら何でもしようとは思ってる。だから、その、機嫌を直してはくれないか?」



 恐る恐る、言いたいことを言い終える。


 蔡文姫は一つ大きな溜息を吐いた。

 ヤバい、また何か癇に障る事でも言ってしまったのだろうか。


「別に、側室の事に怒っているわけでも、殿下の察しの悪さに腹を立てているわけでもありません。それくらい、今に始まったことでは無いですし、側室など持って当たり前、十分承知の上です……私が怒っているのは、私自身なのです」


「へ?」


「殿下は言葉や態度より、行動に意思が現れます。李傕が蔡家の屋敷に攻め込んできた際、怪我をおして殿下は駆けつけてくれました。私の為に、怒ってくれました。今更、殿下の何を疑えばいいのでしょう」


「まぁ、そうだな。李傕を討つ、それだけなら別に楊奉に任せた方が良かった。ただ、それだとお前が死ぬかもしれないと、そう思った」


「はい。ですが私は、側室と聞いた時、平気な顔をすればいいのに、殿下を取られたくないと思いました。挙句、殿下を憎いとも、思いました。そう思った自分が、許せないのです」


 蔡文姫は眉尻を上げ、涙を流していた。

 怒りながら、必死に我慢しながら、それでも抑えきれない涙が溢れていた。


 思わず、肩を掴んで、寄せる。


 俺の胸に顔を押し付け、蔡文姫は声を押し殺した。


「調子が狂うな。今日はいつも以上に、お前に怒られると思って、ここに来たのに」


「……すいません」


「落ち着いたら、いつもみたいに俺を怒ってくれ。そうじゃなきゃ、俺はまたお前を泣かせてしまうかもしれん」


「私を、嫌いには、なりませんか?」


「まさか。逆はあっても、それだけはない」


「……逆もありません」



 涙よ、止まれ。

 そう思いながら、その小さな体を強く抱きしめた。




物語もついに佳境です!

最後までどうか、ブクマ、評価など、応援よろしくお願いします!


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