86:だから辞めろと言ったのよクズが!
(言ってません)
あとちょっと後日談というか後片付けまでお付き合いください。
「鬼走会の総長ってのはあなた?」
男はニヤリと笑った。
「ああ、そうだ。俺も有名になったもんだな」
ん? なんか余裕ありそうな感じだ。なんで?
「そこまで知ってんなら俺が黒曜蝶のモンって事も分かってんだろ? ウチとやり合う気かよ」
答えは決まっている。イエスだ。
「隣の県からこっちの半分まで手中に治めてるんだぞ? 関西のヤツらとやったって負けねえ。この辺りなら地元だから尚更だ。どうだ、ビビったか!」
「いや、全く」
「は?」
予想と違う答えだった為だろうか、男は間抜けな声を出した。
「俺たちが怖くねえのか? それともこれだけのことしてバレないとでも思ってんのか? 俺は黒曜蝶でも幹部だったからな。全軍が動くぞ」
まあ正直真正面から来てもらった方がそのまま叩き潰せて有難いし面倒もないんだけど……
「うーん、とりあえずは売春させてたのはあなたよね?」
「ああ、とりあえずの資金稼ぎにちょうどいいんでな。
医者の卵とか言うと女は直ぐに引っかかるしな」
「……今までの事を謝罪して、そこから手を引いてくれたら私は何も言わないわ」
「何言ってんだ? なんならお前もヒィヒィ言わせてやろうか? なかなかの美人だから客も簡単につくだろう」
「サンダー」
「ぐぎゃ!」
こいつは自分の立場が分かってるんだろうか? 医学部生って言ってもピンキリなんだね。そう言えばここの大学、入試に英語いらないよね。
「今までの事を謝罪して、そこから手を引いてくれたら私は何も言わないわ」
同じフレーズを繰り返した。
「そんなことしたって無駄だぜ。俺たちは執念深いからな。報復は必ずする」
「サンダー」
「ぐぎゃ!」
「今までの事を謝罪して、そこから手を引いてくれたら私は何も言わないわ」
少しずつサンダーの威力を強めていくと八回目で折れた。結構しぶとかったな。
「わ、わかった。いや、分かりました。手を引きますのでどうか許してください」
「分かりました。では私からは以上です。さてと……」
私はドライアドにお願いしてぐるぐる巻きにしてもらった。隣には先程捕まえた女の人もいる。
「あなたがドラッグを?」
「そうよ。でも、もうあなたは何も言わないんでしょう?」
女はニヤリと笑った。
「ええ、勿論」
私もニヤリと笑ってやろう。
「私は何も言わないわ」
スマホを取り出して電話を掛ける。
「あ、もしもし? うん、今捕まえました。どうします? はい医学部の近くです。裏門出た所から少し行ったとこにあるタワーマンションです。あ、五分くらいでこっちに来ます。だったら待ってますよ」
「だ、誰に電話したんだ?」
私はニッコリとした顔を崩さずそのまますましていた。
確かに五分も掛からなかった。
黒服の男たちが部屋に入って来て左右に整列した。その中を堂々と通ってくる黒木さん。
「なんか、その登場趣味悪くないですか?」
「これも形式だ。仕方ねえよ」
黒木さんはタバコに火をつけて縛られてる男を見た。
「だ、誰だよアンタ……」
さっきと違って声が震えている。
面倒くさそうに黒木さんは懐から太文字ゴシック体の名刺を出して見せつけた。
震えがいっそう酷くなったようだ。
「随分と色々やってくれたみたいじゃねえか。なあ、おい」
悪党ヅラで笑う黒木さん。
「オトシマエの話はうちの事務所でゆっくりしようや。そっちのお嬢さんもな」
恐怖に二人の顔が引きつった。
「じゃあ後始末よろしく。もし薬が流れたら……」
「分かってるよ。うちの組のメンツもあるしあんたとやり合いたくねえ。ちゃんとするさ」
黒木さんが少し震えたような気がした。
そして二人の犯人を乗せた車が走り去っていった。




