71:風の辿り着く場所
病人の治療も魔法だったらちょちょいのちょい!
ってなったらいいですよね。
優子ちゃんとはなちゃんと連れ立って病院に向かった。病室は個室で花瓶には綺麗な花が挿してあった。だが、それを病室の主は見ることが出来なかった。
「おかーたん!」
病室に入るなりベッドに駆け寄るはなちゃん。その人、良子さんは飛びついてきた娘を受け止めて頭を撫でてあげた。
「どうしたの? 今日は来る日じゃなかったじゃない?」
「うん、ちょっとお母さんにお話があって……」
「優子? 他にどなたかいらっしゃるの?」
気配で分かったのだろうか。私は素直に名乗り出た。
「はじめまして。私は霜月ひとみと申します。優子さんやはなさんのちょっとした知り合いです」
「あらご丁寧にどうも。それで御用というのは?」
「はい、あなたの足と目を治療しに来ました」
交通事故によって足と視神経がやられて上手く動かない。それが医者の診断だそうだ。今現在色んな治療法を試しているが一向に回復の兆しはなかったとのこと。
だがその症状なら私がなんとか出来るかもしれないと思ったのだ。
「あの、変な冗談はやめてください……お医者さんも元のようには動かないと」
私は構わず続ける。
「いえ、治るかどうかの保証はありませんがやってみる価値はあると思いますよ?」
ダメ元だとは優子ちゃんには言ってる。それでも可能性があるならと縋られた。それに失敗したらはなちゃんが悲しむ。成功させたい。
「お母さん、お願い、一度だけでいいからやってみて」
「おかーたん!」
しばらく良子さんは考えていた様だったが少し微笑むと口を開いた。
「わかりました。娘たちがあなたを信頼してるようですし、お任せします。それで私は何をしたらいいのですか?」
了承が貰えたので私は準備に入った。と言っても大した準備はない。
「特に何もする必要はありません。じっとしててください。少しビリッとするかもしれませんが」
そう言って私は電気の精霊を呼び出す。そして良子さんの手を取った。柔らかい手だ。そこから体内に向けて精霊を送り込んだ。
「んんっ」
良子さんがくぐもった声をあげた。電流でビリッと来たようだ。
視神経と運動神経の上手く繋がってない部分を探して繋ぎ合わせる。正確には精霊の力で無理矢理電気を流すと言うべきか。精霊を半永久的につかせてる様になるので私しか出来ない。でもまあそのうち身体の方が自然に回復する様な気もする。
予め私の身体を使って正しい配列を覚えさせていたのが良かったようだ。準備完了と電気の精霊が言ってきた。
「とりあえずこれで大丈夫と思います。まずはゆっくり目を開けてください」
良子さんが恐る恐る瞼を開こうとしていた。私を含めてみんなが良子さんの動きに注目していた。
「えっ、眩しい……見えるわ」
良子さんの目から大粒の真珠が幾つも零れた。
「見えるのよ、優子もはなも病室に置いてる花瓶の花も全部……」
「うわーん、お母さん、お母さん、お母さん!」
優子ちゃんが堰を切ったように泣き出した。心細かった所から解放された反動だろう。やはりかなり無理をしていたのだ。
「おかーたん、はなもみえりゅ?」
「ええ、よく見えるわ」
「やったー!」
はなちゃんははしゃいでるだけである。それくらいが丁度いいと思うの。
「まだですよ。さあ、立ってみてください」
私の言葉に良子さんは素直に従った。何より足が動くのだ。これまでピクリとも動かなかった足が。
良子さんはベッドから降りて歩こうとした。直ぐにふらつく。ああ、そう言えば筋肉は回復できてないんだよね……
「身体は動くと思いますのでそのままリハビリで歩く練習してください」
「ああ、本当にありがとうございます」
深深と頭を下げられた。優子ちゃんとはなちゃんもそれぞれ「ありがとうございます」「あーがと!」とお言葉をもらった。
こういう使い方なら魔法も悪くないよね。




