39:澪、心の向こうに
ということで次の敵、というか被害者です。まあ自業自得なんですけどね。
「話になりませんわ!」
そんな澪ちゃんの声が聞こえて来た。続いてドスドスという足音。バタンとドアが開いてニコリと笑っている澪ちゃん。額の辺りに青筋を浮かべてるように見えるのは気のせいだろうか?
「はしたないものをお聞かせしまして申し訳ありません。ちょっと急用が出来たので今日はお開きにさせてください」
「帰った方がいいの?」
「はい、ちょっと厄介な事になりそうなので……」
「それで私が引き下がると思った?」
「いえ、でも、これはウチの身内での話ですので」
「私が困った時に澪ちゃんは助けてくれた。ならあなたが困った時には私が助けたいよ」
私とて犬畜生ではない。やれる事があるなら恩は返すしなんといっても澪ちゃんは私を慕ってくれている。……まあ慕い方に少し問題はあるような気もしないでもないんだけど。
「お姉様……ありがとうございます」
「じゃあ、話してくれるわね」
「実は……」
澪ちゃんの話はこうだった。
高宮さんちの地上げの裏には澪ちゃんの兄が絡んでいたらしい。不動産屋が兄に泣きついたそうだ。兄弟の中では澪ちゃんの立場は弱い。直ぐに高宮さんの件から手を引けと言われたらしいのだ。手を引く条件は……澪の周りの人間に手を出さないこと、だそうだ。つまり、脅しだ。
「さすがに看過できない話なんだけど、それってハッタリとかじゃないの?」
「……恥ずかしながら、この話を持ってきた人はスマートなやり方が苦手で直ぐに暴力に訴える人ですので……私も随分殴られましたわ」
「あー、なんか人を殴って支配したがるクズね。そういうの居たわ」
ハルと澪ちゃんの会話のやり取りに怒りを覚える。えーと、つまり……
「それってさ、実力行使でボコボコにすればいいんじゃない?」
「お姉様?」
「ひとみん?」
「いや、だって、人を暴力で支配したがるなら暴力で支配し返してあげればいいだけでしょ」
「と、とは言っても本人も身体鍛えてるし、手下もそういう奴らだし……」
「えーとさ、そいつらって私を倒せそう?」
「あっ!」
自分で言うのもなんだけど多分負けないよねえ。魔法って本当にチートだわ。
「そうねー、ひとみんなら多分負けないよね。私はトドメ担当でいいよん」
「お姉様、ハルさん……ありがとうございます」
少し涙目になってる。これはまた懐かれちゃうかもだけどもう今更だよね。多分好感度メーター振り切れてるだろうし。
「おい、いつまで待たせるつもりだ!」
荒々しく物音を立てながら男が入ってきた。体格はがっしりしてて身長もかなり高い。顔立ちはまあ整ってる方だけど好みじゃない。品性が顔に出てるタイプで野獣みたいなやつだ。野獣先輩とでも呼ぶか?
「接客中ですので遠慮してもらえますか?」
震えながらも澪ちゃんが言う。
「ほえ、俺に逆らうのか、澪。あの頃みたいにしてやろうか?」
その言葉を聞くとビクリと震える。暴力による支配は身体的なダメージ以上に精神に刻み込まれる。そしてそれは消えないのだ。
「大丈夫よ。あなたは私が守るから」
澪ちゃんの肩に手を置いてささやいた。私の手を小さく握る澪ちゃん。
「何を言ってもダメです。今日は帰ってください」
しっかりと言った。
「そうか。後悔しても知らんからな」
そう言うと男はそのままきびすを返して去っていった。
「あっさり帰ったねー」
のんきなハルの声。
「……きっとここだとおじい様の子飼いの人たちが居るから不利だと思ったのでしょう。今度は人数を揃えてくると思います。今までは……脅されたら怖くてうなずいてましたから」
少し涙目で私を見上げる澪ちゃん。
「ありがとうございます。とても心強かったです」
「さてさて、それでは対策会議と行きますか」
その日はそのまま会議という名のお茶会になって残りの時間を楽しんだのだった。




