30:春に溶ける(暑さで)
えー、猫屋敷編(暫定)です。頑張って続けていきます。
五月というのに真夏日の続く今日この頃、我が支店もクーラーをガンガンに効かせて来客を待っていた。……滅多に来ないんだけどね。ちなみにクーラーかけてると内勤の我々としては動かないので寒くなってきます。なので真夏だと言うのにストールが必要になる訳です……普通なら。そんな中、私は体の周りを薄く火の精霊に覆ってもらってある程度の冷気を遮断しているのでいつでも快適だ。ビバ、魔法!
「うー、あちあち」
そんな事を言いながら支店に戻ってきたのは太田君。一応同期という事になっている。
「これとこれ、今日中の入金なのでお願いします」
現金と払込票。公共料金か。引き落としが残高不足だと引き落とせないので入金してもらって夕方にもう一度落とす作業をするのだ。色々面倒なんだよね、忘れると。こういうのは忘れても魔法でなんとか出来ないからなー。お仕事の時間はしっかりやるのだ。
「わかった。やっておくわ」
「ありがとう、助かるよ。これから厄介な所に行かなくちゃいけなくて……」
「厄介な所?」
「うん、この近くで一人暮らししてるじいさんの家なんだけどね。集金行く度に文句言われるんだよ……」
あー、それは厄介そうだ。
「店頭に来てもらえば?」
「あまり家の中から出たがらないらしいんだよ。本当なら放っておきたいところなんだけど大口の定期と年金の受け取りがあるからなあ……」
私らのような弱小金融機関は大口預金者の発言力が強く、少々の無理を聞いてあげるのもよくあることなのだとか。不動産屋の隠居の爺さんとかおやつ食べに支店に来てるもんね……あと、ケツも何度か触られた。先輩に相談したら「反応楽しんでるだけだから平然としてたら触ってこなくなるよ」って達観してた。うん、ベテランって凄い。
「支店長に行ってもらうとか?」
特別な顧客は支店長が直接行くこともある。大口なら可能性もあるんじゃ?
「いや、支店長から引き継いだんだよ……」
「あー……」
つまりは押し付けられた、と。どんな人なんだろうね? ちょっと興味出てきた。
「具体的にはどんな人なん?」
「ああ、家の中はいつも暗くて呼び鈴は壊れてる。庭の方から回ると不法侵入だとか散々文句を言われる。そんで説教が始まるんだよ」
「呼び鈴押して反応無かったら帰ればいいんじゃないの?」
「さすがにそういう訳にもいかないよ。こっちは預金とか引き落としとかの話をしなくちゃいけないし、タンス預金もかなりあるみたいなんだよ」
「そうなの?」
「ボーナス時期に偶にポンと定期作ってくれたりする。洗剤もっと持ってこいとかもっといいものは無いのかとか言われるんだけど」
ああ、販促品目当てね……セコいなー。
「それでも目標未達が回避された事も何度かあるから中々切れないんだよ。本当に厄介」
自分の有用性を分かってて特になるように動いてるならなるほど、大した人物かもしれないなあ。
「それと時々ネコの世話までさせられてさ……」
「猫!?」
ガタッ
「えっ?」
「猫の、世話が、出来るの、仕事で?」
ちょっと内心の興奮を抑えきれず詰め寄ってしまった。
「あ、う、うん、偶にね。猫缶買わされたりとか猫砂の補充とかさせられたよ」
話聞いてるだけでテンション上がってくる。行ってみたいなー。
「そのお屋敷ってどこにあるの?」
「普通は守秘義務だけど支店管轄の客だしね。そのうち行ってもらうかもだから教えてもいいかな」
と言う訳でそのお屋敷の住所を聞き出したのであった。よし、帰りにちょっと覗いてみよっと。




