15:アフター5奇襲作戦
「なんだ、この店は!」
烈火のごとく怒り出す水島。店員を呼びつけて文句を言うが……
「お客様、変な事言ってもらっちゃ困りますね。そこの七味の瓶が空になってるじゃないですか。そんなに入れたらそりゃ辛いに決まってますよ」
「……」
非常に不満そうな顔してたが、物証がある以上は言い返せない。
「鍋はもういい。次は刺身を持ってきてくれ」
料理をチェンジ。運ばれてきたのは舟盛り。ここは港町だから刺身も鮮度が違う。思い思いのネタを口に運ぶと舌鼓を打つ面々。どれ、私も食べよう。ひょいぱくっとはしたないけどつまんで食べる。んー、美味しい! 鮭もハマチもトロも新鮮そのものだ。夢中で食べてたらトロが無くなってた。
「あれ? トロが無いぞ? 僕はまだ食べてなかったんだが……」
「結構沢山あったと思うんですが、いつの間に……」
「私も食べてませんよ」
「私もです」
「さすがに一人で全部食べるのは配慮に欠けはしないかね、係長」
「い、いえ、私もそんなには……」
「じゃあ誰が食べたと言うんだね。この部屋に幽霊でもいるのか?」
幽霊はいませんがエルフならいます。口論の最中に残った刺身の裏にワサビ塗り込んでおこう。
「ま、まあまあ、他のも沢山あるんだし、食べればいいじゃないですか」
「それもそうか」
そう言って水島がパクリ。
「かっ、辛いー!」
本日2回目ののたうち回り。さすがに他の人たちも気味悪くなった様で早々に食事を切り上げて河岸を変える事にした模様。まだまだこれからだよ! 残ったお刺身はワサビ削ぎ落とせば食べれるから持って帰りたかったな。
二次会の定番、お姉ちゃんの居るお店。中に入った事はなかったんだけどこうなってるんだ。薄暗い店内には高そうな調度品、並べられた高そうな酒、ちやほやしてくれる綺麗なお姉さんたち、それからカラオケ。綺麗なお姉さんが自分の為にお酒を注いでくれて話を聞いてくれて褒めてくれてカラオケ歌えば一緒に歌ってくれて褒めてくれる。高い金払ってでも過ごしたい人が絶えないのはわかる気がする。
「僕みたいなエリートとお酒が飲めるのはとても運がいいと思うよ、キミたち」
水島が得意気に言う。いや、エリートはウチみたいな弱小銀行には来ないでしょ……
「わー、すごいんですねー」
彼女たちも慣れたもので適当におだててる様子。伊達に高給取り(推測)では無いね。タバコを吸おうとすると即座にライター用意するのはすごいよね。一息すって満足そうにしてる顔がムカついたので精霊に頼んで火を消す。更に吸おうとして吸えないのに気づいてイライラし出す水島。すかさず火を点けるホステス。一息吸ったのを見てまた消す。カチッ、ぷかー、ぷしゅ。カチッ、ぷかー、ぷしゅ。段々イライラしてるのがよく分かる。
「もういい! カラオケだ。カラオケをやるぞ」
水島がそう言うとマイクを持ってくるホステス。最新機種が入ってるのでカラオケBOXと遜色ない。いや、私は行ってもそんなに歌わないから本当に最新機種なのかは分からないんだけど。
「お前たちに僕の歌声を聞かせてやる!」
選曲して歌い出す。まあまあ上手いんじゃないかな。
でも知ってるかな? 音って空気の振動で伝わり方が変わるんだよね。お連れ様の耳にだけ黒板の引っ掻き音みたいに聞こえるように精霊に言って歪めてもらう。ホステスさんにそんなの聞かせるわけにいかないからね!
「わー、すごいですー」
ニコニコしながら拍手するホステスと、拍手をしながらも何やら青い顔をしたお連れ様。反応の薄さに水島は怒りをあらわにした。
「おい、そんなに僕の歌が気に入らんか?」
「い、いえ、決してそのような……」
「お前も歌ってみろよ」
水島が係長にマイクを手渡した。おずおずとしながら選曲。音楽が流れる。今度は水島の耳にだけ発泡スチロールで黒板を擦った音を流す。あ、係長、割と上手いな。ムカつく。
「ぐわーっ!」
本日3回目ののたうち回り。
「ふざけんなよ、お前!」
水島が係長の胸ぐらをつかみ険悪な雰囲気が広がる。奥からママと思しき人が出てきた。
「あのー、お客様。そういう事は店内ではやめていただけませんでしょうか」
やんわりとした物言いに冷静さを取り戻したのか
「帰るぞ」
と言って彼らは店を後にした。それからはどこに行くと言うことも無く解散したので個人攻撃に移ることにした。まだまだ終わらないんだよ!




