154:母に捧げるハリケーン
近藤氏の妻捕獲編です。呼び名とかどうしようかと悩んだ結果呼び捨てに(笑)
忙しいと渋る奥さんを「大事な用なんだ」と何とか説き伏せて呼び出す。いきなり廃工場にってのもどうかと思うんで場所はホテルの一室だ。あ、勿論名義は近藤氏で取ってあるので払いも近藤氏だ。割とお高い部屋をこの際だから取っといた。
ホテルの外から見張る。誰か連れてこられると厄介だからね。んー、なんか高そうなスポーツカーだ。出てきたのは近藤の奥さんと若い男。よく引き締まった色黒でイケメンのナイスガイだ。あれだね、テニススクールのコーチかなんかでしょ。おーおー、イチャついてるね。近藤氏が若干可哀想ではあるが、近藤氏も同じようなことしてんだからお互い様か。
え? 近藤氏なら引き続き監禁中だよ。坂本さんがやっちゃわないか心配だったけど大丈夫でした。用意したスタンガンが弱めのものだったのが幸いしたと言いますか……
「あなた、それで一体なんの用なの?」
部屋に入るなり彼女はそう言った。当然一人だ。旦那の呼び出しに不倫相手らしき人物を連れてこれる訳が無い。だが、部屋の中には誰も居ない。彼女は寝室へと続くドアを開けて中を伺った。椅子に座っているのは一人の女性。坂本さんだ。
「あなた、誰?」
「……忘れたんですか。そうですよね、あなたがたにとってはなんでもない事だったのかもしれませんね。でも、その為に母は……」
唇を噛み締め坂本さんは告げる。
「は? 何を言ってるのかしらあなたは。うちの主人は何処にいるんですか? ふざけてないで早く出しなさい」
「…………山内乙女という名に聞き覚えは?」
「あー、昔そんな女が居たわね。いい子ちゃんぶって偉くムカつくやつ。幸せそうにしてるの見ると腹が立って仕方なかったわね。そう言われてみればあなた似てるわね。まさかあなたがあの時の娘なの?」
その言葉を聞いて坂本さんは激昴した。
「お前らさえ、お前らさえ居なければ、お母さんは!」
それを見ても近藤の態度は揺るがない。
「は? 何を言ってるの? あの女が私の前に居たのが悪いんじゃない。害虫排除しただけよ。それとも訴えてみる? 多分無理だけどねえ」
下品に顔を歪める。んー、そろそろ良いかな。さて、問題です。一体私は今どこにいるのでしょうか? はい、答えは「透明になってずっと近藤のそばに居る」でした!つまり私はすぐ横で見ているのだ。近藤の足を払って転す。
「えっ? きゃあ!」
「え?」
突然何も無いところで転倒した近藤に本人も坂本さんもびっくりする。そのまま動けなくして私は一旦部屋から出て今入って来たように部屋に入り直す。
「あ、坂本さん。終わりました?」
「あ、いえ、これからなんですけど……」
「ちょっと、なんで動けないのよ、どうなってんのよ、あ、あんたこないだのバス旅行の時の……一体どういうつもりよ! 私はあんたの所のお客様なのよ。お客様の意味わかってんの? 神様よ、神様。その神様にこんな事してタダで済むと思ってるの? 身の程を知りなさい。あんたらと私じゃ住む世界が違うのよ!」
もうキーキーとがなりたててくれる。とりあえず黙らせよう。私は背中に足を置いて押さえつけるように「グラビトン」と軽く荷重をかける。
「グギギギギ……」
おーおー、苦しそうに呻いてるね。
「正直今すぐ殺してやりたいです。でも、全員揃ってからって計画ですから、暫くは大人しくしてもらいますね」
坂本さんが笑顔で言った。
「はあ? 何考えてんのよ、放せ、放しなさいよ! この……」
パァン
乾いた音が響いた。
「ごちゃごちゃうるさい」
完全に目が据わってる。その一発で近藤も黙ったようだ。うん、一応眠らせとくか。口にハンカチを持っていって「サンドマン」はい、おやすみなさい。




