120:騙し絵(トロンプ・ルイユ)
実際は騙し絵とは関係ないですが、「世界の法則は目に見えてることが正しいとは限らない」ってお話なので。
「さて、じゃあ楓ちゃん、行きますか」
「はい!」
「じゃあとりあえず向かうのはあっちの丘の上。ちょっと確かめたいことがあるからね」
「はい!」
元気のいい返事が返ってきた。楓ちゃんは意気揚々とどんどん歩いていく。私は……それを家の前で眺めていた。楓ちゃんが曲がり角を曲がったと思ったら次の瞬間家のドアの前に帰って来ていた。
「え?」
「おかえり楓ちゃん」
「あ、はい、なんだかわかりませんけど戻りました」
やっぱりか。これはお話準拠って事なのね。真っ直ぐ目的地に行こうとすると辿り着けない。なので原作通り反対側に向かって歩いてみる。
「よし、丘の上!」
歩いて一分もしないうちに丘の上の花畑に到着していた。
家のそばの花壇の花達が「あの、出番……」とガッカリしてたみたいですがそんな事は私たちには分かりません。ダジャレ聞かされるよりは良いもの。
「おっ、お前、どこから来た!」
明らかにびっくりしたご様子なのは真紅のドレスに身を包んだ豪奢な持ち物の貴婦人。……腐ってはないと思う、多分。
「わらわは赤の女王。ここら辺りは全てわらわのモノなのじゃ」
「はあ、そうですか」
他に答えようなんかないよ。とりあえず相槌打っとけばいいよね。
やっぱり赤の女王って事はチェスの駒にされちゃうのかね。ポーンですか、私?
「私は白の女王たる妹とチェスの勝負をしておるのじゃ。だが、妹はまだ小さくてな。お主、手伝うのじゃ」
手伝う事は決定事項らしい。チェスのルール……将棋と似てるけど取ったコマは使えない。ポーンが敵陣に入るとプロモーションっていうキング以外の駒になれる。
「とりあえずお主をポーンにしてやるからクイーンに成って妹を手伝ってくれ。わらわに勝てたらなんでも好きなものをくれてやろう」
ん? 今何でもって言ったよね?
という事はハルたちと合流出来るかもしれない。
「分かりました、やります」
「よし、じゃあまず……走れ!」
「えっ?」
あー、楓ちゃんが急に言われて走り出した。確かあれだ。「その場所に留まるのにも走らないと行けない」とか言うやつだ。私は肉体労働苦手なので風の精霊さんに運んでもらってます。楓ちゃんが息を切らせることも無く「ずるーい」って言ってますが、私に言わせりゃニューマンアスレチック並の身体能力持ってそうな楓ちゃんの方がずるいと思うけど。
まあしばらく走るとストップがかかったのでビスケットと紅茶で小休止。
赤の女王は喋り始めていた。
「ポーンは最初に動くときだけは二マス進めるのは知っておるか? だから、三マス目はとっても高速、鉄道を使って通り過ぎよ。そして四マス目はトゥィードルダムとトゥィードルディーのマス。五番目はほとんど水で六番目のはハンプティ・ダンプティのものなのじゃ」
ざらっと聞き流す。うん、原作通りだね。とりあえず言っときますか。
「おい、ウンとかス……」
「まあ、色々教えてくださいましてありがとうございました」
「お、おう」
赤の女王は不意をつかれた様にびっくりしていた。
「で、七マス目は森ばっかりじゃ。でもナイトが道案内してくれるじゃろ、そして八マス目ではクイーンになるのじゃ。さすれば勝負にもなろう」
「重ね重ねありがとうございます」
今度は二人揃って会釈をした。
「じゃあまた八マス目で会おうぞ」
そう言うと赤の女王は消えてしまいました。
「とりあえず、列車に乗って移動だね」
「え? でも駅は?」
「多分こっち。行きましょう」
二人は連れ立って歩くのでした。




