119:魔獣(ジャバウォック)
という訳で本の中の世界がしばらく続きます。お付き合いくださいませ。
目が覚めるとそこは小さな小屋の中だった。辺りを見回して状況判断。楓ちゃん、よし、私、よし、チェスの兵隊さん、よ……くない!
「やや、なにか現れたであります」
「一体何者でありますかな?」
「もしかしてジャバウォックでありますか?」
「ジャバウォックならば退治せねばなりません」
「さあ、やれゆかん勇猛果敢な騎士達よ!」
「俺たち兵士だけどね」
「ナイトは後ろ後ろ」
「俺たちがのかなきゃナイトは動けんもんな」
ガヤガヤなんかいいながら私たちを包囲していくポーンたち。いや、ポーンでも強いやつはいると思うんだけどこのポーンたちはグランドクルスとか使ってこないはず。
「待って待って落ち着いて。私はジャバウォックじゃないわよ」
ジャバウォック。鏡の国のアリスに出てくる怪物。ちなみに出てくると言っても本当に出てくる訳では無い。単なる詩の一部分に出てくるだけだからそんなに警戒しなくていい。
「本当でありますか?」
「嘘をついてもすぐ分かるであります」
「正体を現すであります」
こほんと咳払いをして私は言った。
「私は霜月ひとみ。この世界に迷い込んだものよ。同じ様に迷ってる仲間を探してるの」
「お客様でありますか」
「ここは危ないであります」
「すぐ逃げるであります」
「やつの羽音が聞こえるであります」
「「「「「ジャバウォック!」」」」」
ズシンと音がした。小屋の扉を開けて外に出てみると、そこには怪物がいた。
体長はかなり大きい。魚のような頭に食らいつくその顎、細長い首に鱗、腕と足にはかきむしるその爪、らんらんたる眼燃やしたる……そしてこうもりの様なその翼。これこそがジャバウォック。まさに怪物である。
ジャバウォックはゆっくりとこちらを見た。
「ひっ」
思わず楓ちゃんが息を呑むのが聞こえた。
「大丈夫よ、楓ちゃん。私が居るんだから」
よっぽどのことがない限りは勝てるはず。そう思いながら対峙する。のはいいんだけど、この世界でも魔法使えるのかな?
とりあえず打ってみよう。
「エアハンマー」
空気圧の一撃がジャバウォックを襲うが効いた様子はない。でもまあ魔法が発動した感覚はあったので大丈夫だろう。
しかしジャバウォックか。硬そうだな。とりあえずあの爪とか牙とか食らうとかなりやばいから早めに片付けたいよね。
「グラビトン」
重力でジャバウォックを拘束しながら近づく。えーと、確かジャバウォックの詩では「ヴォーパルソード」とか……おっと、こいつこの重力で動けるの? これはやばいかも。何か手は……あ、そう言えばジャバウォックって「訳の分からん議論をふっかけてくる奴」がモチーフなんだっけ。なら、これならどうだ。
「サイレント」
辺りを静寂が包み込んだと思うとジャバウォックの身体がボロボロと音もなく崩れていく。やがて、完全に身体は崩れ落ち、残骸だけが残った。
まあ、あれだ。ごちゃごちゃうるさいのを力技で黙らせたみたいな。
とりあえず魔法を解くとポーンたちが大興奮していた。
「ジャバウォック倒した!」
「ジャバウォックもう居ない!」
「俺たち安心!」
「でも仕事ないよ」
「大丈夫、もうすぐ女王様が戦争をするぞ」
ワイワイ騒ぐポーンたちに付き合いきれず、楓ちゃんを連れて抜け出した。手がかりないけど昔読んだ時の内容がうっすら残ってるからなんとかなるかな。




