107:繋がり届く想い
という訳で今回はちょっと長めです。お付き合いくださいな。
あまりのことに呆然としてしまったが、山の中にしかも朝の山に山なんか詳しくない先輩が入っていってしまった。
ヤヴァくね?
ドライアドで追いかけようと思ったけどドライアドだと位置が分からないと移動のしようがなかった。
気配を辿るとか無理だし。
「僕は乙女さんを探しに行く、君たちは戻りなさい」
豊さんが言う。
「えっ、でも……」
苺ちゃんが言いよどむ。
「これは僕が追いかけなきゃ行けないんだ。ここからなら安全に戻れると思う。気をつけて戻ってくれ」
そう言うと豊さんは林の中に駆け込んで行った。
「豊さん……」
後に残された苺ちゃんはきびすを返してペンションへと戻って行った。
…………はっ、このままだと豊さんも見失っちゃう!
とりあえず追い掛けないと。
なにか手は……
「ひとみさん、居ますか?」
「楓ちゃん!」
鉢植え抱えて楓ちゃんが登場した。
「いやー、朝起きて話しかけたら無反応だったからお兄と一緒に走りに行ったのかなって。何かあったんですか?」
その場の緑から楓ちゃんの鉢植えに意識を移動する。
「先輩が混乱して豊さんが林に入って追いかけたの。楓ちゃん、二人を追い掛けてくれない?」
「よく分からないけどお兄のピンチっていうのが分かりました。じゃあ走りますね」
小脇に私を挟んで楓ちゃんは走り出した。
……ハリがあって形がいいなあ。
楓ちゃんは割とシャレにならないスピードで走っていく。
崖の辺りで話し声が聞こえた。
楓ちゃんと話してゆっくりとそっちに向かった。
「来ないで、来ないでよ!」
「落ち着いてください、乙女さん」
豊さんと先輩が大声で話している。
誰も居ないからいいものの構図は完全に火サス。
「いいじゃない、若くて、可愛くて、ピチピチの女子高生に好かれるなんて。あなたにはお似合いよ!」
「話を聞いてください。僕は……」
「やだ、聞きたくない!」
だめだ、はなしにならない。せんぱいはやるきだ!
フルムーンかな?
……月のものの周期は違ったはずだけど。
豊さんが踏み出して先輩の肩を掴んだ。
「聞くんだ!」
「やだ……」
とその時、崖が崩れた。先輩と豊さんの重さに耐えられなかったのだろう。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
楓ちゃんの表情が恐怖に染まる。
ええい、間に合え!
「エアクッション!」
ドライアド越しに魔法を一か八かで行使する。
どうやら上手く発動してくれた様で、二人とも落ちずに空中で止まっていた。
「これは……?」
「乙女さん!」
豊さんは空中できつく先輩を抱き締めた。
「あっ」
「聞いてください、乙女さん」
「放して……」
弱々しく乙女さんがもがくが力が全然入っていない。
逆に抱き締められやすくなった感じがする。密着度アップ!
「どうして逃げたんですか?」
「だって、私は相応しくないもの……」
「相応しくない?」
「あの子みたいに若くもないし、ピチピチでもないし、素直でもないし、可愛くもない。甲斐甲斐しく世話をする事もないし、わがままばかりであなたを困らせているし……」
「乙女さん……」
「それに、何より、あの日以来、好きって一回も言われてないし……きっと嫌いになったでしょ?」
「えっ?」
「分かってる。あの時のは吊り橋効果?とかで本当に私のことを好きになったわけじゃないって。それでも豊さんは優しいから私の事も断りきれずにズルズルと付き合ってくれてる。私が振り回してるだけだって」
「……」
「ずっと不安だった、怖かったの、いつ別れようって言われるか。それでも少しでも私と一緒に居てくれるならって思ってたけど、あんなに若くていい子が居るんなら私は……んっ?!」
そこから先の言葉はキスで途切れさせられていた。
「僕はあなたが好きです」
豊さんはハッキリと言った。
「あなたはとても魅力的で躍動感に溢れていていつまで僕と一緒に居てくれるかビクビクしてました。なんの取り柄もない僕だから……」
「豊さん……」
「乙女さんがそんな事を考えていたなんて気づくことさえ出来なかった朴念仁です。相応しくないのは僕の方です」
豊さんはポケットをまさぐっていた。
取り出したのは小さな指輪。
「それでも、まだ僕を見捨てないでくれると言うなら……ずっとそばに居てくれませんか?」
「あ……」
先輩の目に涙が浮かぶ。
「好きです、乙女さん。愛しています。僕と結婚してくれませんか?」
「……はい、はい、はいっ!」
先輩はそのまま豊さんに抱き締められていた。
私はゆっくりと二人を地面に降ろした。
気づかないで二人とも抱き締めあったままだけどね。
ほら、楓ちゃん、涙を拭いて。
帰るよ、ペンションに。




