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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
6章 危険な時代

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7話 狩り

グロイのが苦手な人はお控えください(´・ω・`)

 数日後、子守を頼まれたマナは、緋倉とゼネリアに本を読んであげようと書庫で絵本を探していた。

 だが、読めない。現代と違い、ここは龍の里だと世界で認識されているため、書物のほぼ全てが龍の言葉で書かている。困ったマナは、どういう遊びが龍族の子供に喜ばれるのかと緋紙に相談するため、彼女の部屋へ入ろうとした時――


「ゼネリアちゃん探してくる!」


「待ちなさい、緋倉!」


 マナの脚にぶつかった緋倉が勢いよく部屋を飛び出して行ったのだ。よろけて床に尻もちをつく。血相を変えた緋紙がマナに気づかず彼を追いかける。

 何かあったのだろうか。

 するとそこへやってきたイゼルが「大丈夫か」とマナに手を差し伸べた。


「ありがとうございます。あの、ゼネリアに何かあったのでしょうか」


「……いつもの事だ」


「それは、里の外に出るという……」


「ああ。だが緋倉のあの慌てようを見ると、嫌な予感がする」


 すっと目を細めたイゼルは、緋倉と緋紙の後を追うようにその場を立ち去った。

 ぽつんと一人残ったマナは、人間の言葉で書かれている書物を探して読むため、書庫へ戻ることにした。


 一方、緋刃はフォルトアと共に里の南側に来ていた。


「何だよー、俺やるって言ってないのに戦力にされちゃったよ」


「何だよー、あの中じゃお前が一番弱そうだから鍛えてやるっつってんだよ」


「マネすんなよ!」


 イゼルと司曰く、フォルトアも緋媛もそこそこ強そうだがこの時代では使いものにならない。特に緋刃は弱い、修行しろと言われ、最も経験の豊富な司が面倒を見る事になったのだ。面倒を見るとは言っても、それは実践形式である。人間を追い返すことはもちろん、油断していたところで司が刀を振り下ろしたり殴られたり術も使う。それに対して不満を持っていた。


「大体さ、卑怯なんだよ背後から襲ってくるとか! もう少しまともな鍛え方してよね!」


 緋刃が訴えていると、その背後に息を殺して草の中に身を隠した二人の人間がじりじりと近寄ってくる。


「まともにやってるぜ。冗談でもねえ。ダリスの人間共はこうして話したりして油断してるところを――」


 二人の人間が緋刃を捕らえようと飛びかかってきた。全く気付いていない緋刃に瞬間的に距離を詰め、彼の左頬を掠めるように拳を二発繰り出す。一発は鼻に、もう一発は額に拳が入り、二人の人間はうめき声を上げてゴロゴロと地面に転がる。


「――襲ってくる。お前、俺がいなきゃ今捕まってたぜ」


「……………」


「里を護るため、と言ったが、これはお前自身を護ることにも繋がる。随分と平和ボケしていたようだが、ここではそうはいかねえ」


 痛みを堪えながら立ち上がる人間達が、ナイフを取り出して司の背中を刺そうと向かう。ところが、急に人間達は青ざめて悲鳴を上げながら西の海へ向かって走りだした。熱い、助けてくれと言いながら、何かから逃げるように――。


「生きるために強くなれ」


 そう言った司の瞳が真っ赤になっている。手も出さずに何をしたのだろう。緋刃は訳が分からず、人間が去って行った方向と司を交互に見た。


「今、何かしたの?」


「……集中力のねえガキだな」


 この日、司が何をしたのか、緋刃に教えられる事はなかった。


 そして緋媛は里の西側、フォルトアは東側にいる。やる事は緋刃達と変わらず、人間を追い払う事。

 西側の海を渡ってその向こうにあるセイ大陸にレイトーマ王国がある。森の中にある木の上から辺りをゆっくりと見渡したのち、海のはるか遠くにある大陸を見つめた。

 マナが過去のレイトーマに興味を持たないはずがない。今頃書庫の本を読み漁っている頃だろう。それにしても俺もよく二十年も人間の世界にいたもんだ。……悪くなかったが、レイトーマ師団は今頃何をしているのだろう。

 レイトーマ師団長としての思い出に耽っていると、あちこちから「龍族だ!」「捕らえろ!」という声が聞こえてくる。この時代に生まれていたら、間違いなく全ての人間が敵だと思っていただろう。なぜなら刀だけではなく、弓矢に網、銃などあらゆる手段を使って木の上にいる緋媛を狙っているのだから。


「……うじゃうじゃ群がりやがって」


 飛んでくる弓矢を軽く避け、木から木へと移ってゆく。

 捕らえるというより殺す気ではないか。

 緋媛の目に映る人間の表情は、狩りを楽しんでいるように見えた。その証拠に、競うようにその地で遊んでいる妖精やエルフと木の枝を拾っているドワーフを斬りつけたり射落としたりし、漁で使うような網に突っ込むように入れている。

 傷だらけだ。助けなくては。その前にこの人間達をどうにかしなければならない。


「撃て撃て! どうせ傷なんてすぐ治るんだ! 首が繋がってりゃ死にゃしねえ!」


「逃げんじゃねえよ!」


 傷を負わないように避けているだけで、逃げてはいない。

 ――人数が増えた。合わせてざっと十名ぐらいだろうか。術を使うにも得意とする炎の術では森を焼け野原にしてしまう。水や氷の術は苦手で、他も出来ない。やはり、剣や体術に頼るしかさそうだ。

 緋媛は剣を抜くとすかさず目の前の数名を斬りつけた。斬られた人間は悶絶しながら悲鳴を上げて転がっているが、威嚇にはなっていない。


「ちっ、面倒くせえな」


 まるで犠牲者が出る事が当たり前のように、転がる人間を無視して緋媛に向かってくる。

 異種族を助けなければならないのに、邪魔だ。ならば攻撃個所を一点に絞って、敵を捌くまで。動けないように、脚を狙えばいい。深く、骨に当たる手前まで――


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


いてえ、いてえよおお!! 死んじまう!」


 痛みで苦しむ人間一人の脚に剣を深く突き刺し、ぐりぐりと抉る。


「あ? 首が繋がってりゃ死にゃしねえんだろ? てめえらが異種族にやった事だ」


 人間は緋媛の冷徹な眼差しに恐怖を覚えた。

 この龍族は人間を何とも思っていない。目には目を、歯には歯を、やられた事をやり返す獣だ。逃げなくては――と。


「ひ、ひいいいい!」


「ま、待て! 置いていくなあああ!」


 立ち上がって走れず地面を這う者、恐怖で痛みを忘れて走り出す者。人間達が逃げる方向は同じで、海へ向かっている。その方向に船がある。捕らえられた異種族がいるのだ。

 惨めに地面を這っている人間はどうする。このまま放っておいてもいいだろう。優先すべきは異種族の救出。

 剣を振って血を払った緋媛は、捕らえられた異種族を解放するために海へと向かった。



 残された人間は悶え苦しみながらも憎悪が沸々と込み上げ、拳を地面に何度も打ち付けている。


「くそっ! あの龍族! ただ捕まえるだけじゃ気が済まねえ! 全身の鱗を剥いでから売ってやる!」


「人間様をなめやがって!!」


 ふーふーと、獣のように興奮している。これを見た一人の人間は、頭を冷やして冷静になろうと考えた。


「……おい、なんか寒くないか?」


「あ? 気のせい……じゃねえ」


「お、おい! 脚が、凍って……!!」


 見間違いなどではない。ただでさえ動けない脚に加え、腰から下が凍ってしまい動けない。それどころか上半身も凍ってきている。

 こんな事が出来るのは龍族だけ。先ほどの雄の龍族が戻ってきたのだろうか。――いや、違う。赤い着物を着た子供だ。人間達の目の前に急に現れたのだ。


「お母さんの仇!!」


 その言葉と共に、人間達は氷に覆われてしまった。



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