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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
6章 危険な時代

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4話 US2051年

「なぁーだ、そうだったのー。あなた達、未来から来たのね。疑ってごめんなさい」


「いえ、私は気にしてません」


 誤解の解けた緋紙は、台所へ向かいながらマナに謝っていた。というのも、彼女はマナが司に口説かれて龍の里に来た人間だと勘違いしていたのだ。緋紙は約十年前に司と夫婦となったのだが、彼の女癖――龍族の雌を口説く癖はなかなか抜けない。本気ではないことなど分かっているが、見ていて気分を悪くしてしまう為、はっきりと言ってしまうのだという。龍族は普段人型をして生活している為に、たまに人間の国に行くと一人か二人はくっついてきてしまうので、マナもその一人かと思ったのだ。


「で、US2216年の司はどう? 少しはマシになった?」


「あまり長く話した事はありませんが、伺ったような事はしてませんでした。ただ、緋倉が……」


「えっ、まさか司の悪いとこ移っちゃったの!? お義父さんもそうだったけど、やっぱり血筋は争えないのね……」


 明るい性格をしているのだと思っていたマナだが、がっかりと暗くなる様子を見ると、明暗がはっきりした性格だと推測した。まるで大きくなったリーリだが、それに百面相がついている。そして立ち直りも早い。


「緋倉はまだ子供だし、これからそうならないように育てればいいわね! それより一つ聞きたいのだけど、いいかしら」


「はい」


「未来の私に会ったことある?」


 こんなに個性の強いならば一度会えば覚えているはずだが、思い出せない。少し考えたマナは申し訳なさそうに回答した。


「すみません、覚えていません。もしかするとすれ違った事はあるかもしれませんが……」


「……そう。それよりお料理作りましょう。普段、何を作るの?」


「じ、実は私、料理は一度もした事がないのです……」


 一瞬何かを悟ったようなから一転してころっと表情を明るくした緋紙を、マナは見落とさなかった。何か気に障ることを言ってしまったのだろうかと気にしていると、台所に到着。今は気にしても仕方がないので、今は料理の事を学ぼう。この時マナはレイトーマの姫だという事を緋紙に明かし、生まれて初めて包丁を握ったのだった。

 一方緋媛は、部屋の一室で緋刃と共に子供達のお守りを任されていたのだが――


「シャー!」


「俺のゼネリアちゃんに近寄るな!」


「近寄んねえから威嚇すんな!」


「なーんか変な感じ。子供の倉兄とゼネリア姉さんに嫌われてんの。フォルトア兄さん、早く戻ってきてくんねーかなー」


 マナ達が料理を始めて三十分後ではあるが、この通り、お守りにはなってない。対角する部屋の端と端で険悪になっているのだ。緋倉はゼネリアを必死に守ろうとし、緋媛は胡坐で座りながら両腕を組み、緋刃は寝転んでいる。フォルトアはイゼルと司と別室で話をしており、戻ってくる気配がまだない。


「ところでさー、媛兄。父さんに絡んでいたのが母さんだよね?」


「ああ。母親ぐらい分かんだろ、お前」


「だって、俺がガキの頃に死んだからあんまし覚えてねーんだもん。あんなに気の強い雌だったの?」


「まあ、なんかやらかしたら雷落ちてたな。……雷じゃねえ、土だ。土ん中に埋められんだよ。体をな」


「怖っ! ずっと寝込んでた覚えしかないんだけど、嘘でしょ!?」


「そりゃお前が生まれてからの話だ。俺がガキの頃なんてな、覚えたての術で柿木一本炭にしちまってよ、反省しろと丸一日埋められてたんだよ。木の気持ちになりなさいってな」


「ぶっ飛んでんね。狂ってるよ」


「頭おかしいとは思ってたけどな、あれでも優しいんだよ。布手に入れたら兄貴や俺に着物作ったり、誰が怪我したって話聞いたら世話しに行ったりしてな……」


 思えば誰かが怪我をした時に看病しに行く所はマナも同じなのだ。今は薬で発情を抑えている状態ではあるが、彼女に惹かれたのは母親に似ているところなのだろうか。そうでなければ城に引きこもって城下の事やカトレア王国、ダリス帝国の内情もまだよく知らない娘に発情するはずがない。それとも別の条件があるのだろうか。そんな事を考えていた時、襖を勢いよく開けてフォルトアが入ってきた。


「緋媛、緋刃、と……姫様は?」


「晩飯作るって、母さんに連れていかれたよ」


「そうか。なら姫様には後で伝えないと」


 フォルトアは顎に手を当てて困った様子だ。


「どうしたんです?」


 緋媛が問うと、過去の時代が何年か分かったという。


「あの子供の緋倉様達から推測はしていたけど、ここはUS2051年。ナン大陸に江月が出来る年なんだ」


「待ってよフォルトア兄さん! 父さん達が行った年より十四年もずれてんじゃん! どうすんの!?」


「イゼル様の話では、過去や未来へ行くにはそれぞれの人柱が必要らしいんだ。この時代に来たのは流王が時空の扉を開けたから。未来へ行くのはその逆。破王に開けてもらう必要がある。でも知っての通り、ケリンがダリスにいるからそうはいかない」


「まさか十四年ここで過ごすの?」


「その必要はない。まだ四歳だけど、ゼネリア様がいるからね」


 フォルトアが視線をゼネリアに向けると、それだけでまた牙を剥きだして威嚇し始めた。まだまだ受け入れてくれないようだ。


 彼女がイゼルと緋倉を受け入れるようになったのは三ヵ月、話すようになったのは半年かかったという。しかしそれはゼネリアと対面した頃の話で、今は違うのだ。緋紙と薬華に会った時は、慣れるまで約三ヵ月を要した。それは大きな進歩であるため、今回も数カ月我慢すれば協力してくれるだろう。


「それに、それぐらいあればゼネリア様の力も安定してくる見込みはあるみたいなんだ。今はどの術も上手く扱えないらしい。ただ、緋倉様と一緒に遊びながら競うように術を使っていて筋はいいから、長くても半年で目的のUS2064年には行けるかもしれないって聞いたよ」


「半年か……」


 そんな長い間、マナを龍の里に居させる事に抵抗がある緋媛。人間というだけで避けられる状況で、箱入り娘の彼女が耐えられるかが心配だ。緋媛自身も人間は好きではないが、里の龍族がマナを見る目を見たとき、気の毒のようにも思えたでのある。半年間、どう過ごすか考えものだ。


「なっげーよ。それまで何してよー」


「里を守りながら修行しろ」


 緋刃がだるそうにゴロゴロ転がっていた時、司が現れて言った。


「俺が稽古をつけてやる」


 不敵な笑みを浮かべている司にイラッとする緋媛。

 こんな奴に稽古を付けられれなくても自分でやると言ってやりたいが、ぐっと抑えた。喧嘩を売らない自分、一歩成長したと思う。


「どうした? 俺なんかに稽古つけられたくねーって面してんな。あん? 何だよそんな睨んで。俺はお前に恨まれるような事してねえぜ。()()……な」


「てめえ、まさかこの時から――!」


「ちょっと媛兄!」


 緋媛が立ち上がって司に掴みろうとしたところを、緋刃が腕をつかんで止めた。その時だった。


「誰か! 誰か来て下さい! 早く!」


 台所からマナの声が聞こえてきたのだ。まるで血相を変えたような声色に、緋媛は司そっちのけで彼女の元へと向かう。緋紙が傍にいるとはいえ、マナの身に何かあったのかもしれない。もしかすると包丁で指を切ってしまったのだろうか。箱入り娘なのでその可能性はある。

 そんな事を思いながら走って台所に着くと、床に座ったマナが緋媛の方を向いて涙ながらに訴えた。


「緋紙様が……!」


「母さんっ」


「急に倒れて、呼吸が苦しそうなんです! お医者様を……薬華、薬華を呼んで下さい!」


 喉を抑えて浅く呼吸を繰り返す緋紙を見た緋媛の頭が真っ白になってしまう。焦るマナの叫び声も耳に入らない。

 彼は思い出したのだ。母親の最後の時の事を――。




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