24話 平和な王女
「信じられないのも無理ありませんわ。未来は変わるものですから。ゼネリアは亡くなる随分前にこう言っていました。ケリンの見た未来はもう変わっている、と」
紅茶にシロップを大量に入れ、一口飲む流王。そんな彼女を見た緋媛達は、入れすぎだと思った。それを口にする事はないが、気持ち悪くならないだろうかと悪寒がする。横目で見ているマナも何も言わないが、胸焼けしそうだが本人が好きなのだろうと受け止めた。この光景に見慣れているイゼルは驚いて流王に聞いた。
「ゼネリアが? 俺は何も聞いていない……」
「言うつもりはないと言っていましたの。酷な事ですので」
「その程度は分らんが、多少の事は気にしない。差支えがなければ言ってほしいが……」
ちらりと龍神を見るイゼルに、こくりと頷く。本来未来の情報は教えてはならないのだが、神が許したのならば仕方がない、と流王は小さくため息をつき、口を開いた。
「――このままの状態でも世界は存続するのですが……あなた方龍族は、ダリス帝国と共に滅びます」
この一瞬、マナ達は騒めいた。江月は龍族の里だと隠し、他国との交流を断っているというのに、なぜ滅びなくてはならないのか。歴史上は抹消されたとはいえ、事実上生きている種族が滅ぶことはない。テーブルを叩いて感情的になった緋刃が、ガタンと立ち上がった。
「ちょっと待ってよ! ゼネリア姉さん、俺たちが消えてしまえばいいって思ってたってこと? 何でそんな大事な事言わないんだよ!」
「落ち着けよ、緋刃。あいつは世界の理となるべき存在でもあったろ。だから言えなかったんだよ。……本音はどうだったか知らねえけど」
冷静になっている緋媛に言われ、緋刃は椅子に腰を掛ける。
「納得できないよ、そんなの。だって姉さん、昔人間に酷いことされて、里の中はずっと独りぼっちで、倉兄がいたからそこまで独りじゃなかったけど、それでも俺達龍族も人間も恨んでてもおかしくないよ。どっちも滅んでしまえって思っていたかもしれない」
「それはないよ。あの方はそんな事思っていない。龍族も人間も嫌っていても、滅亡を望んでない。そうでなければ、ダリスに捕まった龍族を救――」
「フォルトア、今はその話をすべきではない。そうだろ?」
話が脱線する所をイゼルが制したのだが、言葉を飲み込んだフォルトアを見たマナは、何か隠していると察した。間違いなく龍族を救っていたと言おうとしただろう。イゼルの命令だろうが、フォルトアの口ぶりからはそうではないようだ。彼女の意志だったかもしれないと、マナは思った。
「……ゼネリアが言わなかったのは、緋媛の言う通りだろう。自然の流れで生きるのが俺達だからな。だが知ってしまった以上、俺達の種の存続も考えなくては。この五百年後なら俺はもう死んでるからな、お前たちに任せるしかない。それはそれとして、今の問題は現破王のケリンだ」
「そうですわね。彼が過去へ行ってしまった以上、こちらも手を打たなくてはなりません」
話を戻したところで、流王は龍神と相談した内容をマナ達に伝えた。緋媛達にも過去へ行ってもらう事、過去へ行ったケリンとその当時のケリンの抹殺を――。これに異を唱えたのは、マナだった。
「そんな! 私は反対です! 命を奪うなんて愚かな事をしなくても、話し合えばきっと解ってくださいます!」
「話し合っても解らず、そもそも話し合いにすら応じないものですから、あなたの弟様はお兄様の首を獲ったのではありませんか?」
下界を見続けてきた流王の言葉に、マナははっとした。
「カトレアでは三番目の王子……いえ、現国王が兄である二人の王子を王族の身分をはく奪しました。
今は一国民として片身狭く暮らしているのです。良いですか、貴女は今まで幸運にも護られてきただけなのです。司が貴女を攫ってダリスへ連れて行った事を含めてもそう。そこの緋倉の弟がいたからこそ、生きられたのです。ここ数百年、各国の王子達の多くは国王になる為に身内すらも殺していましたから。貴女のお父様は違いましたけど。とにかく、ケリンとの事は、話し合い程度では済まないのです」
これにマナは何も言い返せなかった。身内や他の王族が血の争いがあったというのに、彼女は自身が平和である事に少なからず罪悪感を抱いた。そして緋媛に護られていたとはいえ、何も出来ない自分自身に怒りすら覚える。
マナは自分が平和な王女だったと悟る。拳をぎゅっと握り、唇を噛み締めて俯いてしまった。





