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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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18話 流王

 いつの間にか庭に立っていた長い黒髪の女性は美しい人間だった。気配もなく屋敷内に侵入したとフォルトアは刀を抜きかけたが、それは緋倉によって止められる。


「何故、貴女からここに?」


「聞かずとも分かっていますわね、イゼル。その娘の暴走を止めに来ましたの」


 にっこりほほ笑むその女性は、まっすぐマナの方へ向かうのだが、途中、倒れている緋媛の腕に躓いて転んでしまった。


「いったぁーい! どなたですの、(わたくし)を虐めようとしている方は!」


「あんた、勝手に転んだんでしょうが」


 呆れた顔をしている緋倉を見た女性は、ぱっと明るくなって彼に駆けつけ、頬に触れた。


「ご無沙汰しておりますわ、緋倉。最近遊びに来なくなってしまって寂しい思いをしておりましたの。お体の調子は如何? ますます司に似たいい男になって、惚れてしまいそうです」


 ズキズキと痛む頭を手で抑えながら起き上る緋媛は、目の前に入った光景に眼を疑った。兄が雌に言い寄られていると。


「俺は惚れませんよ。あいつ一筋なんで。死んだらあいつのトコに行くんで」


「連れないですわね。それに冗談でも死んだら、などと言ってはいけませんよ」


「はいはい」


 しかも軽くあしらっている。明日、いや今すぐ雪が降るのではないだろうか。隕石が落ちて世界が消滅してもおかしくない。それ程異様な光景だったのだ。


「それより早く姫さんをどうにかしてやって下さいよ」


「分かってますわ」


 緋倉の言葉に、マナに何かあったのかと彼女の方を向く。苦しんでいるマナを見た緋媛は、近づく流王を押しのけて彼女に近づいた。


「姫! どうし――」


 指と指の間から微かに見える金の瞳に動揺し、少しだけ身を引いた。触れてもいないのに何故瞳の色が変わっているのか、過去を覗かれている訳でもないのに。これではどうする事も出来ないと、緋媛から汗が流れる。


「まったく、失礼な方ですわね。お退きなさい」


「……誰だよ、あんた。何で人間がここにいんだ」


 じろりと睨む緋媛に対し、流王は毅然とした態度でいる。するとフォルトアが説明をした。


「緋媛、その方は現流王だよ。姫様の力を抑えにいらしたんだ」


「流王!? 兄貴に言い寄る物好き女が!?」


「まあ、貴方は司の息子なのに何て酷い男でしょう。いいのは顔だけですわね」


 苛立つ流王はプンプン怒ってマナの傍に歩み寄り、彼女の手に触れた。緋媛にとっての流王の印象は、美人のくせに雄好きの性格はどうかといったものである。互いの印象は最悪だ。


「さあマナ。ゆっくり呼吸をして。呼吸が落ち着いたら、見えるものを全て流すのです。川に流すように……。そして受け入れなさい。それがこの世界の過去、世界の歩みなのです」


 すると、不思議とマナは落ち着いた。ぱたっと手が顔の横に落ち、すやすや眠っている。安堵した流王は彼女の頭を撫でた。


「可愛い子。マナはハンナに良く似ていますのね。ハンナも目がクリクリした可愛い子でした。この子のお相手はどなた?」


「フォルトアです。……今は」


 流王の問いなど耳に入らない緋媛は、マナの傍に寄ると彼女を抱きしめた。息をつきながら、よかったと小声で囁く。


「今はという事は、変えるつもりですか? もしやこの失礼な顔だけ男に?」


 白い目で緋媛を見る流王に、イゼルは苦笑いをしながら頷いた。嫌そうにぐちゃぐちゃな顔をする流王に、当のフォルトアは微笑みながら説明する。


「元々僕にその気はありませんでしたから。少しは努力しましたけど、やっぱりダメですね。本命の緋媛と相思相愛ですから、早く緋媛とくっついて欲しいんですが……」


 ちらりと緋媛を見ると、彼はマナをそっと布団に寝かせて離れた。フォルトアの本音を聞き、自分の恋心を言われて恥ずかしくなったのだ。ここでようやく緋刃が目を覚ます。


「あなたも女心を弄ぶ酷い男ですわね」


「いえいえ、姫様も大概でしょう。僕を緋媛の代わりにしようとしたのですから」


 思い返すとマナは緋媛と一緒にいたいと言っていた。だが緋媛は、人間との婚姻は考えられず、マナの想いを拒絶していたのだった。彼女の婚約者を決める時、フォルトアがいいと言ったのはやけだったのだろう。ようやく緋媛はその想いに気付いたのだ。


「……イゼル様、フォルトアさん。こんな時に言うのもアレですが、姫を俺に下さい」


「え!? 媛兄どうしちゃったの? リーリに甘いもん食わされた? 倉兄に暗示かけられたとか……。うわー! 明日槍降るわコレ!」


「うるせえ!」


 槍ではなく、緋媛の腰にあった刀が緋刃に飛んできた。ひょいと交わされ、その刀は庭の木に突き刺さる。


「俺は構わんが、フォルトアと姫次第だ。マトは最初から緋媛ならばと言っていたしな」


「緋媛にその意志があるなら、僕は身を引きますよ」


 すっきりしたような笑顔のフォルトアに、緋媛はほっとした。あとはマナがどういう反応をするかが気になるが、互いに惹かれ合っている事は確かだろう。いつか薬華がもっと素直になれと言っていたが、そうしたら確かに楽になったのだ。


「決まりだな。姫が起きたら俺から話そう。すまない流王、内輪の話になってしまった」


「構いませんわ。下種男から屑男に変わったのが気に入りませんけど。それよりイゼル。マナと破王達のいる過去へ行く方々を連れて神殿に参りましょう」


 流王の急な発言に目が点になった緋媛達だが、流王は元々そのつもりだったという。どうせ破王達のいる過去へ行きたいと言う事は予想できたので、マナの力の暴走を止めるついでに、それを伝えようとしたのだ。


「確かに頼むつもりだったが、何故姫まで?」


「そろそろ役目を交代したいのです。旦那様を見つけたいし」


 基本的に流王や破王となる者は、相手を決めてから役目の交代をするのだが、この流王は好みが我儘なため、相手を決めることなく流王となった。当時の緋媛は幼く、緋刃は生まれていないので、この話を知らない。


「さ、参りましょう」


 屋敷の庭に天へ続く階段が現れる。はるか上空、雲の上に神殿はあるのだ。緋媛はマナを抱き上げ、階段を登り始める。


「緋媛、緋刃」


 フォルトアが緋媛の刀を木から抜いた時、緋倉が弟達を呼び止めた。


「……死ぬなよ」


 その表情はやけに穏やかで、その一言に全てが込められていると察した。母親とゼネリアを亡くし、その上弟まで失いたくないという想いを。自分より先に死ぬな、とも言いたいのだろう。


「兄貴に言われたくねえよ」


「俺達の事より自分の体の事考えなって」


 弟達なりの優しさを受けた緋倉は、階段を登っていく彼らとイゼル、フォルトアを見送った。もう二度と、弟達とは会えないだろう。




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