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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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7話 ダリス城

「起きろ」


 その言葉を合図に、ハッと目を覚ましたマナ。ここはどこなのか。ソファーから体を起こし辺りを見渡すと、そこには司がいた。


「ここは?」


「ダリス城にある俺の部屋だ」


「ダリス城!?」


 窓から外を眺めると、見たことのない景色が広がっている。高台にある様子だが、広場が二つ。そのうちの一つには龍が一体いて、肉が抉られている。そして巨大な二本の管に繋がれ、一本は赤い色をしていた。――血だ。


「!!」


 マナはその残酷な姿を見て腰を抜かし、ぺたんとその場に座り込んだ。


「この国では、龍族は生かさず殺さずだ。龍の鱗はこの国じゃ高値で売れる。それにあれはレアな毒龍でな、奴から毒と血を吸い取ってんだ。緋倉はそいつの毒をくらったんだよ。あれの毒は()()()()()でないと完全に抜けねぇ」


「あなたは、それを知っているのに緋倉を見捨てるのですか? 何故お父様であるあなたがご子息の緋倉を救おうとしないのです」


「……そりゃ簡単な話さ。俺がダリス六華天の長だからだ。息子だろうがアレは敵。息子でもイゼルでも……嫁だろうと見捨てるさ」


 毒龍を見ながら話す司の表情は冷たい。しかしマナには、それが彼の本心ではないような気がした。彼の瞳の奥に悲しいものがあるように見えたから。


「俺の事はどうでもいい。それよりお前、緋倉に暗示掛けられてるな?」


 江月へ行く時にあった記憶を封じられているマナは、緋倉に解いてもらう約束をしていた。しかし彼は寝込んでいるため、マナから言い出す事は出来ない。それがどのような記憶か分からないが、いいものではない事は確かだろう。


「解いてやろうか。まあ、記憶が戻ったら緋倉と緋媛を嫌っちまうかもしんねーな」


「……結構です。記憶はこのままで構いません。きっと私の為を思って封じたのでしょう。緋倉の想いを無下にできません」


 本当は何があったのか知りたいが、今思えば緋倉の優しさだったのだと悟った。毅然とした態度でじっと司の目を見るマナの心臓の鼓動が高鳴る。


「へぇ、ただの甘っちょろい姫かと思っていたら、そんな顔もできんだな。面白おもしれえ。緋媛とフォルトアが来たら、あんたを使って挑発してやろうか。緋媛も本能に従えばいいのに、いつまでも抗いやがって」


「本能?」


「俺達の発情期の事は、イゼルから聞いてんだろ? 初めて発情する雄は自分が変わる事に恐怖心を抱く奴らが多くてな、緋媛もその傾向にあるみてーなんだ。俺も緋倉もそんな事なかったのによ、そういう所は緋紙に良く似てやがる」


「緋紙様って、緋媛のお母様ですよね。女性の発情はどのようなものなのですか?」


 マナはイゼルから雄の発情の事しか聞いていなかった。自分の身を護れる為に、雄の事だけは教えていたのだが、雌の事は一切話していない。興味が湧いたマナの心が躍る。


「……あんた、自分が捕らわれの身だって自覚あんのかよ。どんだけ好奇心強いんだ。普通はもっと警戒するもんだぜ? レイトーマの王族の脳内は花畑かよ」


 司と江月で言葉を交わしていた事、緋媛の父親だという事から、警戒心が薄れているマナ。何故彼がダリス側に付いているか分からないが、何か目的があるとしか思えなかったのだ。


「さてと、余計な事をべらべら喋られても困るし……」


 司はマナに近づくと、彼女の頭を片手で掴んだ。彼の瞳が赤くなり、頭の中に直接命令が流れてくる。

 ――俺の事は一切他言するな。俺の命令従え――


「は、離して下さい……っ!」


 司の耳に、コツコツという足音が聞こえてくる。人間のマナは気づいていない。彼女が起きていると面倒だ。瞳の色が元に戻った司は、ある命令を言葉にした。


「――眠れ」


 司の命令に従う暗示にかかったマナは、糸が切れるように意識を失う。倒れる彼女を支え、抱き上げてソファーにその体を降ろす。するとその時、扉からノック音が聞こえた。


「失礼します、ボス」


 足音の主で入ってきたのは森内キルク。彼はソファーで眠っているマナに視線を当てた。


「それがマナ・フール・レイトーマですか」


「ああ。さっき起きたんだけどよ、外での家畜解体を見たら気絶しちまったよ。箱の中のお姫様には刺激が強すぎたらしい」


 面白そうに話す司を、不審な目で見るキルク。


「まさか、味見してませんよね」


「何の事だ」


「あなたは初対面の女の首の匂いを嗅いで舐める癖や、いきなりキスする癖がありますからね。レーラもそうですが、それであっさり落ちる娘が多く、よく勘違いされる。対処する拙者らの身にもなって下さい」


 言えば司はただの変態なのだ。見た目がいいので、寄ってくる人間も少なくない。彼の女癖の悪さは昔から何一つ変わっていないのだ。


「お前は真面目だな、キルク。美味そうな女を見かけたら喰わねぇと、男じゃねぇぜ?」


 マナの頭を撫でながら、しょうもない事を言う司。そこへ、どこから湧いたのか、目をハートにしたアレクが飛んできた。


「きゃあああ! アタシも食べてえええ、ボスううううん!」


 司に抱きつこうとバッタのように飛ぶアレクは、頭を押さえられて部屋の外へ投げ飛ばされてしまった。また拒絶されたと、しくしく涙を流すアレク。当然、司達はこのアレクを無視する。


「あの方への帰還報告がまだでしょう。予定より大幅に延びたんですから。拙者がマナの監視をしているので、ご挨拶に行っては?」


「……マナが起きたら行くとしよう。せっかく江月で顔見知りになったんだ、起きて知らない人間がいては驚くだろ。気になるならお前から伝えておけ。破王はおうにな」


「まったく……」


 破王は何故こんな変態を六華天のボスに引き入れたのか、キルクは今でも理解できない。たまにふらっと帰る江月と呼ばれる龍の里。司に下された命令がようやく遂行されたのだ。

 それがあまりにも長期間であった事、龍族だという事で、破王はキルクにこう命令している。片桐司を監視しろ、と。




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