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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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6話 戦力分担

 緋媛が薬華の診療所で彼女に殴られていた頃、イゼルの屋敷では緋倉、ルティス、フォルトアの三人がイゼルの前に揃っていた。

 事の次第を聞いたルティスは目を丸くしている。


「マジで司さんが姫様攫ったんすか!? しかもダリス六華天のボスって……。嘘言ってねぇよな、フォルトア!」


「そんな冗談、僕が言うと思うかい?」


「しかものこのこ屋敷に戻って来やがって。姫様の重要性ぐらいお前も分かってんだろーが! それにお前、建前でも婚約者だろ!?」


 床をバンバンと叩きながらフォルトアに噛みつくように吠えるルティス。フォルトアは刀の手入れをしながら答えた。


「建前って失礼だね。僕はこれでも姫様に惚れる努力をしてるつもりだよ? でも、緋媛がやっと素直になりそうだから、その必要もなくなるかな。そんな事より、緋媛から血の匂いがしたんだ。僕まで倒されたら困るでしょ? 大丈夫。姫様は必ず救うよ。ゼネリア様亡き今、緋倉様はこんなんだし、動けるのは僕達だけだしね」


 にっこり笑うフォルトアからは何の緊迫感もなく、マナとの婚約の事は気にも止めていない。元々緋媛がマナを選ぶ事を前提とした話だったため、イゼルたち里の幹部としては、緋媛が嫉妬して奪ってくれればいいと考えていたのだ。

 この様子にルティスは、レイトーマの姫が裏切り者の身内に攫われたと理解していないのではと思う。


「少しは焦ったらどうだ! いつもおっとりしやがって!」


「ルティスこそ少しは冷静になったらどうかな。いつも頭に血を昇らせてたら見えるものも見えなくなるよ。いつもゼネリア様や緋倉様に言われていたじゃないか」


 これを言われるとぐぅの音も出ない。この場に緋媛がいると言い合いになってしまうが、フォルトアの場合は調子が崩れてしまう。


「で、考えたんだけど、僕は司さんが考えもなくダリスの六華天になったとは思えないんだ。あの方は本来争い事は好まない方だし、緋媛への攻撃も急所を外していた。その辺如何ですか? イゼル様」


 手入れを終えた刀を鞘に戻したフォルトア。やっと本題に入るのかと、部屋の襖に寄りかかている緋倉が小さくため息をついた。


「まさか司がな……。俺も予想外だった。すまん」


「マジでイゼル様もご存じなかったんすか?」


 これにイゼルは答える事は出来なかった。マナが攫われたという事実は変わらない。一族の長が内通者がいると気づかなかった事は問題だが、そうは言っていられない。


「……まあ、いいっすけど。とにかく今は、姫さんを救う方法を考えねーと。うかうかしてっと、ダリスの連中が過去へ行っちまう」


 過去へ行かれると、まずやる事は龍族を一体残らず捉える事だろう。最悪、今こうして存在している事すらなくなる。


「その前に食い止めるしかありませんね」


「ダリスへ乗り込むしかないっすよね。その前に報復されそうな気もしますけど」


 ゼネリアが死に際にダリス六華天の四番目であるジョーを噛み殺した事は、もう間もなく司の口からダリスの王に伝わるだろう。ダリスにとっては、龍族を狩る口実となってしまったのだ。


「おそらく船での移動になるから、今すぐここへ来る事はないだろう。だが、手元に誰か二体は残していたいが……」


 困った事に緋倉を使う事は出来ない。おそらく次に戦いに出ると、毒があっという間に体を蝕んでしまうだろう。


「イゼル様、俺の事は気にしないで下さい。どうせ死ぬなら、最後まで一族を護らせて下さい」


「しかし……」


 なかなか首を縦に振らないイゼル。気持ちは嬉しいが、ここで戦力が減るのは痛いはずだ。


「よし、ダリスに向かうのは緋媛とフォルトア、それとカトレアから連れ戻した緋刃。俺とルティスで里を護る。これで行きましょう」


 さくっと決めた緋倉。ルティスとフォルトアが考えても同じ振り分けになっていた。

 ルティスには護りたい家族がいて、緋倉は体調の事もあり遠出はできない。

 緋媛とフォルトアだけでも良い気がするが、緋倉としては緋刃をまだ会った事のない父親に会わせたかったのだ。


「いいですか、イゼル様。あなたは我ら一族の長なんです。俺の代わりに戦場に立とうとか思ったんでしょうが、それは困ります。神殿と繋がりがあるのも、今となってはイゼル様だけなんですからね」


 言われた事は分かっているイゼルだが、同胞に声をかけた所で戦える者は少ない。戦ったところで無駄死にしてしまう。同胞が減るのは見たくない。


「……すまない、緋倉。お前たちも頼むぞ」


 頷く緋倉達だが、フォルトアには違和感があった。司と付き合いが長く、戻る度によく彼と話をしていたイゼルが、ダリス側に付いたことすら知らないとは考えられない。何か隠している、そんな予感がしていた。



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