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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
5章 過去への扉

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2話 解毒の糸口

 二日後、ようやく目を覚ました緋倉は、薬華の診療所のベッドでゆっくり起き上がった。どれだけ眠ってたのか、自分では分からない。体のだるさよりも、心が傷む。


(俺の代わりに誰かが死ねばいいって、あいつ、始めからそのつもりだったのかよ)


 毒にあてられてから、ゼネリアは毎日こっそり様子を見に来ていたのだが、緋倉は気づかない振りをしていた。起きていたら彼女から来ない、途中で目を覚ましたら赤くなって逃げていく。気づかない振りをするのが、彼女と共に長く居られる時間だったのだ。


「おはよう、緋倉くん」


 ひょっこり顔を出したのは薬華の旦那コーリ。愛しい彼女ではない為、緋媛にとっては嬉しくない。むしろ姿を消してほしいぐらいだ。今は誰にも会いたくない。


「うーん、顔色悪いね。さ、これ飲んでみて。それから採血させてくれよ~」


 新たな薬の効果を見るのが楽しそうなコーリが用意した粉の薬をチラリと見る緋倉は、薬に手を付けずにすぐベッドに横になる。


「……いらねぇよ」


「え?」


「いらねぇっつてんだよ。あいつがいないのに、もう生きてる意味ねぇし……」


 気になった緋倉は、ゼネリアと過ごした日々の事を思い返していた。幼い頃など覚えていないが、彼女と初めて会った時の事は昨日の事のように覚えている。

 緋倉をも警戒し、幼いながらも威嚇をしていた。心を開いてもらうまでに時間がかかり、共に暮らすようになってからは、いつも一緒で離れることはない。いつしか離れるようになってきたが、それでも彼女の存在は増していった。その彼女はもういない。どうせ朽ちる身ならば、いっそこのまま彼女の元へ逝ってしまい。


「緋倉ぁ……」


 そこへ戻ってきた薬華が、寝ている緋倉の胸倉を掴んで起こすと、殴り飛ばした。壁に思いっきり激突すると、壁が壊れて外まで飛んでいく。


「何しやがんだ、クソアマ!」


 飛んで行った緋倉に近づくと、また胸倉を掴んだ。


「誰がクソアマだってぇ? あー?」


「やややヤッカちゃん、駄目だよ、病人? 病気の龍? 病気の緋倉くんにそんな乱暴しちゃあ~」


「あんたは黙ってな!」


 慌てるコーリだが、遠くから覗くよう隠れて声をかけている。怒ってる薬華が怖くて怯えているのだ。


「いいかい! ゼネが最後に何ていったか思い出しな! あの子は自分の血に抗いながら、生きろって言ったんじゃないか! あんたが諦めてちゃ、あの子の意志はどうなるんだい!」


 ポツポツと雨が降ってくる。緋倉の胸倉を掴んだまま、元いたベッドまで投げ飛ばした薬華は、自身も診療所内に入った。


「あたしらは諦めないよ。あんたの体内の毒を抜く方法を必ず見つける! 例え延命措置だろうと、あんたの血で実験しようと、絶対に諦めない! それがアタシに出来る償いでもあるからね……」


 その表情は哀しみに満ちていた。想いを汲み取った緋倉は、コーリの作った薬を手に取り、飲み込む。ほっとしたコーリだが……


「ね、ねぇヤッカちゃん。この壁……」


「ドワーフに言えばすぐ治してくれるさ。雨が止んだら頼みに行く」


 壊れた壁は緋倉のいるベッドの真横にある。それまでシーツか何かでしのぎつつ、緋倉は頭を冷やせという事らしい。


「ああ、そうだ。緋倉、アンタは戦線から外すってさ。イゼル様のご命令だ」


「はぁ!? 何で! 俺はまだ戦える!」


 予想通り反発すると思っていた薬華は、ため息をつく。この伝言は、屋敷を出る前にイゼルから頼まれたものだった。


「戦線に立って、ゼネリアを失ったんだろ? あんたの体の事は、イゼル様もご存じだ。あの方は、あんたがレイトーマから戻った時から戦場に立ってほしくなかったんだよ。どうしてもって言うなら、イゼル様に直談判するんだね。自殺行為だって付き返されるだろうけど」


 それでも緋倉は、この里を護る使命がある。例え命が尽きようと、同胞が穏やかに暮らせるならばと。

 採血を終えたとした緋倉は屋敷へ向かった。


「あぁっ! 緋倉くーん! 大人しくしてなきゃ駄目だよ~!」


「ったく、しょうがない子だねぇ」


 コーリが採った血を見た薬華は、何かに気づいた。


「あんた、今日の薬に何の薬草使ったんだい?」


「よく聞いてくれたね! ホク大陸に咲く白く瑞々しい薬草、ルフト草だよ! 試験的に少しだけ混ぜてみたんだ! フフフフフフフフフフフフフ」


 ルフト草の効能をベラベラ話す豹変したコーリを置いて、数滴ずつ分けた前日の血と見比べてみた。


「これで効果が出ていたら、配合率を上げて毎日摂取していけば――」


「でかした!」


 笑顔の薬華に抱きつかれたコーリだが――


「ヤッ、ガぢゃ……」


「まさかルフト草を他の薬草と掛け合わせる事で空気以外の毒を浄化する作用があるなんて、お手柄だよ!」


 龍の力で抱きしめられているため、息が出来ない。


「ぐ、る、し~」


「これで緋倉を救える! あ、でもルフト草の数が少ないんだっけ。困ったねぇ」


 パッと薬華が手を離すと、コーリはピクピクと泡を吹いて倒れた。


「あ、あんた! どうしたんだい! 誰にやられたんだい!?」


 倒れた旦那を見て慌てている薬華。絞殺されそうになったコーリだが、彼はこんな事を思っていた。


(ヤッカちゃんに絞め殺されるなら本望だぁ)




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