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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
4章 歴史の真実

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5話 帰省③~後任の師団長~

 結局、会合はいつでもいいとマトから了解を得たマナと緋媛。目的を果たせたことに安堵し、江月へ戻ろうとしたところ、別の目的を果たそうとした男が現れる。城の中で、拳を握って背後から緋媛に殴りかかったのだ。それをあっさり受け止める緋媛。


「ユウ!」


「会いたかった~、緋媛」


 何があったのかと一瞬分からなかったマナだが、彼らの声に振り返る。するとユウは、緋媛の顔に向かって蹴りを入れるが、それも腕で止められてしまう。


「いきなり何をするのです! 今すぐ止めなさい!」


 マナが叱責すると、舌打ちをしたユウは攻撃を止めた。


「ご無沙汰してますよっと、姫様」


 盛大にため息をつきながらマナに挨拶をするユウは、いい所を止められて機嫌が良くない。しかしここは城の中。こう暴れられては周りに迷惑が掛かってしまう。マナの声に駆けつけた兵士が何事かと問うが、ユウは持ち場に戻るように伝えた。


「どうして緋媛を襲うようなマネをしたのです。同じ師団長ではありませんか。」


「緋媛はもう師団長じゃね~ですよ。それにレイトーマから出て行く前に、俺と約束したんです。俺と本気の()り合いしようって」


 そんな約束をしたのかと見上げるように緋媛をマナが見ると、頬をポリポリとかく。


「あー、そういやそんな事言ってたな。約束してねえけど」


「ひっで~や。俺とあんたの仲なのに」


「そんなに仲良くねえよ」


 襲われた緋媛が哀れなのか、意地悪な事を言われているユウが可哀そうなのか分からなくなってきたマナ。とにかく争うのは止めるよう言いかけたその時だった。


「何の騒ぎなのネ!」


「ちょっとユウ! またあんたなの!?」


「待ってください、お二人とも」


「そんな弱気に言うな。第二師団長ではないか」


 師団長達がぞろぞろとやってくる。新顔二人もいるようだ。マナと緋媛の姿を見て懐かしく思いつつ感激するのは、もちろんアックスとカレン。


「姫様なのネ! ついでに緋媛もいるのネ」


「姫様~! まさかお会いできるなんてー! ついでに緋媛も久しぶり☆」


「俺はオマケか何かかよ」


 師団長達はマナの安否が気になっていたという。緋媛は強いからどこでもやっていけるだろうと考えていたのだ。そもそも彼らは緋媛が江月の民だと知らない。


「邪魔すんじゃね~よ。せっかく緋媛と戦えるのに」


「ほう、彼が私の前任か。四六時中女とベタベタ……いや姫様の護衛をしていたという」


「ちょっと……」


 その発言に苛立ちを隠せない緋媛は、後任の男の前に立つ。見た目は五十代ぐらいだろうか。ツヅガの話では息子を後任にすると言っていたので、おそらくツヅガの息子だろう。対面するのは初めてだが、互いにガンを飛ばしあっている。


「そこの姫とベタベタだ? 聞き捨てならねえな」


「こんな若造が師団長だったとはな。道理で雑務師団と呼ばれるわけだ。特別師団は本来、他の師団には出来ぬ事案を対処する役目。強さも信頼も、他の師団より優れた人間の集団なのだ。それさえも放棄し、師団長でありながら姫様といちゃいちゃしていたではないか」


「強さと信頼か。ならてめえは俺以下だな。さっさと特別師団長辞めちまえ」


 何故帰省してこんな事になるのか。マナは止めようにも止められない空気に困る。アックスとカレンはまたかとため息をつき、ユウは面白そうに事を見ている。もう一人は――


「どどどど、どうしよう。あ、姫様、僕、キリリ・クリリと言います。どうしたらいいんでしょう、こういう時……」


「私に聞かれても……」


 緋媛とルティスと喧嘩を始めると、だいたい刀を抜く辺りでユズが止める。目の悪い彼女が微笑むだけで彼らは口を閉ざしてしまうのだ。決して仲直りはしないが。しかしこの場合は違う。親しいルティスではなく、初対面なのだから。


「師団長が集まって何を騒いでおるのじゃ」


 丁度いいところにやってきたツヅガは先ほどまで居眠りしていた顔とは違い、総師団長としての威厳ある顔つきになっている。すぐに状況を察し、ある提案をしようとしたところ、やはり息子が口を出す。


「父上! こんな若造が私の前任だったとは! レックスは女々しくぬいぐるみ好き、コリータは媚びを売り、レンダラーはサボりの常習犯、クリリは軍人としての心構えがなっていない! このレイトーマ師団をこんな奴らに任せていいのでしょうか!」


「いい加減にするのネ!」


「誰が媚を売ってるですって!?」


 これに激怒するのはやはりアックスとカレン。キリリは彼の言うとおりだと落ち込み、ユウは見る目のない男に怒るのも馬鹿らしく思っている。だが、その矛先は師団長の彼らだけではない。


「そこの姫様もです! だらだら十一年もの間部屋に引きこもり、公務をしようとしない! 国民が何と言っているかお分かりか! 貴族が何と言ってるかお分かりか! ()()()()()()()()()()()()()()です!!」


 その言葉が深く心に突き刺さる。マナから涙が零れ落ちようとしたとき、緋媛が男の胸倉を掴み、殴りかかろうとしていた。しかしその拳は、横から入ったユウに止められる。


「……こんな屑、殴る価値もね~よ。こんな、姫様の苦労も知らないクソ親父なんか」


 大人しく拳を下げた緋媛だが、怒りは収まらない。


「おい、てめえ。俺らを何と言おうと構わねえ。だがな、姫を悪く言う野郎だけは許せねえんだよ! 姫がこの十一年間、軟禁されてどんな想いをしていたから考えもしねえ野郎に、特別師団長をやる資格はねえ! ……面貸しな。下の鍛錬場でその腐った性根ぶっ潰してやる。てめえの言う優れた強さでな」


 ここまで怒った緋媛は初めて見るマナ達。マナのために怒ったのは、緋媛自身も無意識のうちである。彼女はその喜びより、国民に税金泥棒だと言われていた事に悲しむ。


(わしが言おうと思った事を先に言うとは、さすが緋媛じゃの。……ふむ。手の空いている他の兵士達にも見えるかのう。いい刺激になりそうじゃ。しかし気になるのは傷ついた姫様のお心とオルトの失言……。特に()()()は姫様の前では禁句じゃというのに)


 ぼろぼろと涙を流す彼女をカレンが支え、ずっと軟禁されていた私室で体を休めることにした。





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