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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
11章 繰り返す歴史

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3話 片桐司の目的

 広大な海に漂う複数の戦艦。その先頭には黒を背景としたダリス帝国の国家が掲げられていた。

 片桐司はその艦内の一室の小窓から外を眺めている。太陽が間も無く沈み、真っ暗な時間がやってくる。今自分自身が過去の地に立っていることもあり、思い出してしまうのは最後に緋紙に会った日のこと。


「緋倉はあなたに似てしっかりしているのよ。里に対する想いも。緋媛にはあまり話していないでしょ? だから私たちを放置しているって不貞腐れているのよ。……この子はどんな風に育つのかしら」


 腹の大きい緋紙の中には緋刃がいた。母親によく似た活発な子に育ったようだ。

 生まれた後、彼女が最も懸念していた空気を毒として吸い込む体質を受け継がながなかった事が幸いである。

 本当は家族の側にいたかったのだが、誰かが敵の懐に潜り込まなくては情報を手に入れられない。だからこそイゼルと緋倉の反対を押し切って潜り込んだものの、簡単には抜けられず、逆に動けなくなってしまった。ならば裏切り者を演じた方がいい。それでもルフト草だけは薬華に届かなくてはならなかった。


「ルフト草の在庫と薬が尽きそうだ。これまでは何とか調達していたけど、ダリスの警戒も強くなって山に向かえない。緋紙になんて話したら……」


 薬華から聞いたこの話が、潜入を決めた理由だ。ダリスに潜り込んだ後は思うように進まなかった。

 既にケリンは龍の肉を定期的に食べる事で、その能力を得ると知った後だったからだ。何名かの側近にも食わせ力をつけていった。同族はその為に肉を削がれ、ただの食糧とされていた事に腹を立てるしかなかったが、見ているしかない。情報が洩れるとその後の活動がしにくくなるが故に、イゼルにも話せない。

 この時既に、ケリン・アグザートは個人の複数の未来を観ることが出来るようになっていたのだから。


「この世界は遠からず滅びの道を歩む。我々人間が繁栄すれば、その道は遠くなる。異種族の存在が火種を生み、争いが増え、滅びへの近道になる。だからこそ、異種族を排除する必要があるのだ」


 全く理解が出来なかった。複数の種族が同じ地上にいる事が問題に聞こえるが、だからと言って争いが消えるわけではない。種族として最も多い人間の中でも三つの国に分かれているのに、なぜ異種族に目をつけるのか。


「お前は何者だ? 人柱でもないのに未来が見えん。異種族の多くは見えるのに、お前も、イゼル・メガルタもエルフとドワーフの族長も、全く未来が見えないのだよ」


「そんな事言われたのは初めてだ。俺も知らねえよ」


「忠誠を示すというなら、何をしてくれる?」


 その時差し出したのが、毒の龍だ。昔馴染みで体内の毒が強すぎて自ら距離を取ろうとするあの雄の龍。

 あらかじめ暗示と司の考えは頭に入れておいたのだ。司を裏切り者として扱う事、これが本意ではなく裏切り者を演出する為に協力者が欲しかった事。


「こいつだ。こいつの血は強い毒が流れていてな、じっくり苦しめる事も、即死させることも出来る面白いやつなんだよ。取り扱いには注意しねえと、人間が先に死ぬ危険なやつだ」


「司、お前一族を裏切ったのか!」


 まるで演技とは思えないその瞳を見て安堵した。思い込ませるには十分だから。


「……ほう、そやつの未来からもお前が我らを裏切る様子はないようだな」


 事前にゼネリアから、誰かを経由して行動を見る事ができると聞いていたが、案の定だ。見えても数十年から数百年先まで。それから先は不安定要素しかない。

 つかみとしては上場だったが、そのの毒が緋倉に使われるとは想像すらしなかった。


「他には何をしてくれる?」


 求めているものは一つ。司は自らの腕に剣を立てて肉を削ぎ落とした。効果が分からないと、側近に一口食わせる。自分の肉を食われるのは気分が悪い。ところが食べた人間はまるで廃人のようになったのだ。

 記憶も言葉も忘れ、口から涎を垂らしていた。


(暗示と記憶操作が強くて、記憶を奪ったのか? いや、人間の脳を破壊しているのか)


「随分と物騒な能力のようだな。人間とは相性の悪い力のようだが、お前が使えばそうではないのだろう」


 それでも龍族の血肉は治癒の力がある。定期的に捧げること、監視を条件に潜り込む事に成功した。

 その監視が多くあるが為に、行動が筒抜けになる。ケリンの暗殺も表立った行動もできない。ルフト草を収穫し、薬華に届かなければ緋紙を救えない。そして決めたのは、手当たり次第人間の女に手を出す事。だらしないと思わせればいい。愛する緋紙を振り向かせる為に、嫉妬させる為にやっていた手口でもあるのだから。

 味見やマーキング、何でも手段を問わず手を出していると、徐々に監視がなくなった。流石にそういう行為は見るわけにいかないのだから。好都合と言わんばかりに時々都合の良さそうな女に暗示をかけ、ルフト草の収穫をさせた。あとは鷹に頼んで薬華に届けて貰えばいい。しばらくはそれで何とかなったのだが、事態が一転した。

 山火事が起きたのだ。ルフト草が多く咲く時期に、人間の子供が火遊びで入山して、全て焼けてしまった。

 これでは緋紙に飲ませる薬を作れない。ホク大陸の一箇所にしかないルフト草がない、それだけで絶望した。

 それから暫くし、監視の目を潜って龍の里に行くと、緋媛に殴られた。


「今更なんだ、なんで母さんが苦しんでいる時にいなかったんだ! 何やってんだよ!」


「やめろ緋媛。緋刃が寝てる」


 緋紙は亡くなっていた。胸にぽっかり穴が空いて身を引き裂かれた気分だった。末の息子の顔を見る事なく、ふらりとダリスへ戻った。


(その緋紙はこの時代で生きている。死なせてなるものか。この時代を変える為に、俺とゼネリアは代償を払って、払い続けてここまで来たんだ)


 振り返った頃、太陽が完全に落ちた。それと同時に戦艦から出た一隻の小型の船。その甲板には森内キリクがいる。操縦士と後方の見張りもいるようだ。


(ようやく俺から離れて一人になったか。あの速度ならミッテ大陸に着くのは三日後だな。それまではこの戦艦もこのあたりで停止しているはず。目的は容易に想像できる。イゼルと生きていればゼネリアの暗殺だろうが、イゼルは一筋縄じゃいかねえぞ)


 小舟が離れるまで見送った司は、ごろっとベッドに寝転んだ。体を横にしたり、仰向けにしたりと落ち着きがない。――嫌な予感がする。

 起き上がり窓の外に再び目をやると、雲が月明かりを隠すと同時に消えた。



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