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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
10章 変わりゆく歴史

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14話 誤解

 マナ達からは見えないが、里の入り口はダリス人と僅かなカトレア人の野党がエルフの里に入っている。

 刀と弓矢で僅かな異種族を襲い、男の命は奪い、女子供は連れて行けという声が響く。家に放たれる火は、あっという間に木造の家を炭にする。そんな混乱の中、先日マナに石をぶつけた少年の一家もいた。


「お前達は必ず守るから、納屋に隠れてなさい。決して音を立ててはいけないよ」


「嫌だ父さん! 一緒に逃げよう!」


「しーーっ! 静かにしなさい!」


 弓を構えて外へ出る父を、息子の口を押さえながら涙ながらに見送る母親。外から聞こえる悲鳴と父が納屋に寄せ付けまいと戦う声。

 何故こうなったのだろう。そんな時に子供の目に浮かんだのは人間のマナの顔だった。あの人間が招き入れたんだ、全部あの人間のせいだーーと。

 ぎゅっと目を瞑って母親に抱きつくと、急に外の悲鳴が静まり返った。何が起きたのか、父親はどうなったのか、母親と目を合わせると、納屋の扉が開く。


「お前達、モリー様の屋敷に向かうぞ」


 父親に怪我はない。扉の先にいる緋色の髪の青年ーー片桐緋媛が到着し、人間の脚を折ってから里の外に投げ飛ばしたのだという。

 母親は安堵したが、息子は不満気だった。


「この辺のエルフはまだいるか」


「向こうにいます。僕も手助けを」


「いらねえよ。自分の家族を守ってやれ」


 父親が指差した先は煙が立ち上っている。緋媛は迷う事なくその方角へ向かった。

 本当はマナの側にいて彼女を守りたい。だが成り行きで人間の襲撃からエルフの里を守る事になったからには早く片付けなくては。動けないようにして里の外へ放り投げれば、運良く生きていたとしても動けないだろう。そして一つ残る疑問。


(ゼネリアの側にいれば安全ってどういう事だ。そもそもあいつが寝てるのに離れるのが信じられねえ)


 くどいほどベタベタくっ付いている緋倉だけに、今回の行動は不可解であった。ーー考えるだけ時間の無駄だ。先に人間を片付けよう。

 道中の人間も少なくない。動けないように脚を折るか腱を切り、里の外へ投げ出す作業。繰り返していると、次の家を襲っているダリス人が命乞いをしてきた。


「いい情報をやるから! ついさっき、本国から連絡が入ってーー」


「うるせえよ」


 腱を切ろうと剣を振り下ろそうとした時だった。


「全軍、ミッテ大陸に向かっている!!」


 その言葉で、緋媛の手が止まった。息を荒くして汗を流すダリス人が続ける。


「こことドワーフを狩り尽くして、最後は龍族……。どうだ! これほどの情報はないだろ!」


「……だから何だ」


 生き残るための嘘八百だろう。信じる価値もなく、脚の腱を切ってから放り投げた。これを見ていた三人の人間は、怯えて逃げ出した。逃げる人間まで追うことはしない。

 家の中を確認しようと扉を開けると、足元にごつと何かが当たった。ーー血まみれのエルフの女性だ。

 背中から刺されて一足遅かったようだが、その下で何かが動いている。そっと退けると、生まれて数ヶ月のような小さな子供がいた。


(そうか、子供を守ったのか)


 むちむちの肌の赤子を抱き上げ、母親であったであろうエルフの瞳を閉じてやると、その家を後にした。


 ***


 その頃、マナは屋敷に来るエルフの怪我人の対応に追われていた。

 最初は人間であるマナの手当てを嫌がるエルフも少なくなかったが、徐々に心を開いていたようだ。

 不慣れな手つきで包帯を巻いていくが、緩いのでやり直したり、消毒液を多く付けすぎたりしている。だが、懸命さだけは伝わった。不器用なマナに痺れを切らしたのか、中には手当ての方法を教えるエルフの女性も出てきた。


「貸して。こう押さえながらゆっくり巻いて」


「ありがとうございます」


 出来ることを一つでも多く、エルフ族の民を安心させなくてはと必死だった。

 そこへやってきたのは、先日マナの額に石を投げた少年の家族。少年はマナを見るなり敵意剥き出しに叫んだ。


「あんただろ! あんたが人間を入れたんだろ!」


「あなたは先日の……」


 ピタリと手が止まるマナの前に、少年がずんずんと歩いてくる。怒りを向けて睨みつけられたマナは、固唾を飲む。周囲のどよめきと視線がマナに向けられた。


「怪我は、ありませんか?」


 恐る恐る聞いてみると、少年はマナの喉元を蹴った。苦しさで咳き込むマナを周囲のエルフが心配して駆け寄る。少年の両親も駆けつけた。


「何てことするの! 謝りなさい!」


「こいつが来てから里が襲われたんだ! こいつのせいで、みんなも家も失って……」


 不安になる程、負の連鎖が繋がっていく。一人、また一人と少年の言葉を飲み込んで、同調してゆく。

 確かに見慣れない人間が里に来た直後に人間が入ってきた。下見で里の中を回っていたのか。何故モリーはそんな人間を招き入れたのだろう。不安の声が次から次へと漏れ始める。


「私はそんなこと……!」


「だったら何で今人間が里を襲っているの?」


 背後から聞こえたその声に、マナは何も言い返せずに俯く。偶然といって信じてもらえるだろうか。疑心暗鬼となっては耳を傾けてもらえないかもしれない。だが事実を話すとゼネリアが悪者扱いされてしまう。


「ほら、やっぱりこいつが里の平和を乱したんだ。出て行けよ、出ていけ!」


 少年が声を張り上げた時、ドン、と床を叩く音が聞こえた。張り詰めた空気が支配し、その場が静寂となった。


「なんの騒ぎじゃ」


 ぱたぱたと少年の両親がモリー・モギーの元へ駆けつけ、床に膝と掌をつける。


「申し訳ございません。息子が騒ぎを起こしました」


「責任は我らにあります」


「父さん、母さん、何してんだよ。頭上げろよ。人間が来たからこんな事に」


「頭を下げなさい! モリー様の御前よ!」


 モリーは無理やり頭を下げさせられる少年と喉を抑えるマナを交互に見ると、大体の状況を察した。

 そして周りの不安な様子もぐるりと見渡すと、「小僧よ」と少年に声を掛ける。


「目先の憶測だけで物事を思い込むとは、まだまだ青いのう」


「だって、この人間が来た後に」


「その小娘が何かしたかえ」


 何もしていない。むしろマナを傷つけたのだ。ぐっと唇を噛みしめる少年。


「その小娘が他所者を手引きする瞬間を見たのかえ」


 首を横に振る少年を前にさらに続ける。


「自然と共に生きる我がエルフ一族にこのような愚か者がおろうとは、さて、どのような罰を与えようかのう」


 ドン、ドンと床を杖で叩く音が、屋敷中に緊張感を走らせる。

 少年の母親は少年を抱きしめ、罰、という言葉でマナの体が自然に動いた。少年とモリーの間に入ったのだ。


「モリー様、まだ子供です。間違いだってあります。罰はおやめください」


「それでよいのかえ、小娘。今は綺麗に治った頭の傷もその小僧じゃろう。一度ならず二度までも。この場に主の番がおったならば、小僧の命はなかったじゃろうに」


「緋媛はそんな方ではありません。それに、私が罰を望んでいないのです。お願いします、モリー様」


 両親は人間のマナの心に感謝しているものの、庇われたと、少年は不服そうにしている。

 依然と外から弓矢の飛び交う音も聞こえ、収まる様子もなくこの騒ぎ。モリーはふぅ、と息を吐くと「今回だけじゃ」と許しを出した。

 ほっとしたマナと両親は和解したものの、少年は「だったら俺が人間をやっつけてくる!」と母親の腕を振りきって抜け出した。外は危ない、中に出すまいと「待ちなさい!」と母親が声を掛けた時だった。


 外から塀の中へ降ってくる無数の矢。それも火が付けられている。何が起きたのか誰もが頭で理解することができず、静止していると、目の前が真っ暗になった。物理的に暗くなったのだ。

 その時マナを含め全員がようやく気付いた。矢が降った来たのだと。そして目の前の暗いものは――土。


「ほう、これはこれは」


「彼の能力のようだな」


 落ち着いているモリー・モギーと奥にいたモチが冷静に言う。この土は屋敷中を覆い、外敵を寄せ付けない。外は岩のように固くなっているようだ。矢をはじく音が聞こえる。

 場が混乱に陥った。土の壁に守られているとはいえ、人間が入ってきたらどうするのか。我々は助かるのか。モリーに縋り、問うエルフたち。

 母親に抱き止められた少年は、いつの間にか大人しくなったようだ。


「皆さん、落ち着いてください!」


 マナが声を張り上げた。

 自分の言葉を信じてくれるだろうか。分からないがやってみるしかない。


「怖いのは分かります。混乱しては今襲ってきている人たちの思う壺です。だからこそ今はお互いに励まし合いながら耐えるべきではありませんか」


 薄く差し込む灯りは、疑心暗鬼になるエルフたちの暗い表情を駆り立てる。

 やはり子供の言う通り人間が来たからではないか、どの口が言っているのか、しかしマナが人間を招き入れた証拠もない。ざわざわとしながらマナを見る表情は疑いの眼差し。


(私にはどうすることも出来ないの?)


 その時、焦げた臭いが鼻腔を通過した。放たれた炎の矢の臭いがする。

 屋敷に火が放たれたのだろうか。ならば逃げ場はない。再び混乱に陥った。


「モリー様! もう逃げ場がありません!」


「あの龍族は何をしているんだ!」


「まさか人間に殺されたんじゃ」


 その言葉にマナはハッとした。緋媛に限ってそんな事はない。いつだって駆けつけて守ってくれた緋媛が、死ぬわけがない。だが混乱する場の中で急な不安が押し寄せる。ーーしっかりしなくては。王女である自分が、落ち着かせなくては。声をかけ続けなくては。


「皆さん、大丈夫です。きっと助かります! まずは落ち着いて」


「どこが大丈夫なのよ!」


 ドンと胸元を押されて尻餅をついた時、誰かの脚に激突した。その足はマナと混乱するエルフたちの間をするりと横切る。ぽつぽつと火の玉の灯りを浮かせて。

 急な灯り暖かさに徐々に静まり返る頃には、土の壁の前に立っていた。


「緋倉か、この土。いいよ、あとは私が片付ける」


 土が地面に吸い込まれると同時に、陽の光が差し込む。火の玉の灯りも消えた。

 マナの視界に入るのは、髪の色が灰色から黒に近い灰色に染まる女性。いつの間に起きたのだろうーーゼネリアは。





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