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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
9章 襲撃

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16話 空き家掃除

 一方、ミッテ大陸にある龍の里では、戻ってくるという異種族十数名の受け入れについて話し合われた。

 ルティスの話では、異種族十数名と共にゼネリアの能力でミッテ大陸に移動したという。ナン大陸への移動と里の拡張は徐々に行われているため、空になっている家がある。当面はその家で戻ってきた異種族に住んでもらう事になった。

 埃が溜まっている空き部屋の掃除をしなくてらなず、マナ、ルティス、緋紙、ユキネがすることになった。イゼルはゼンと話をしているらしく、司と緋媛は森番をすることになったのだが、緋媛の脳裏に不安が過る。


(姫が掃除なんて出来るかよ。城ではメイドで里じゃリーリがやってたからな。母さんが教えるとは言ってたものの……)


 昔、食事の用意をしようとしたら皿を次々と割った出来事を思い出した。

 当時、食事の用意はおそらく緋紙が指示しながら簡単なものを依頼したのだろう。だがその簡単な皿でさえも割る以上、掃除が出来るとは思えない。


(怪我しねえよな。それより……)


 マナの心配は当然ながら、ルティスとフォルトアの重い過去話が耳に残る。その子供の彼らがこの後やってくるのだというが、その際ルティスは自身のことを『テス』と呼ぶように言っていたのだ。


(確か名前が出来たのが嬉しかったって話だったか。フォルトアさんとあいつ……)


 過去話が何とも言えない程重く、顔見れば互いに悪態ばかりついていたルティスにもどう接すればいいのか分からない。困った緋媛は頭を掻きながらまずは森番の仕事に徹することにした。


 同時刻、イゼルとゼンは屋敷で話をしているのだが、茶を飲みながらまずは当たり障りのない会話をしている。今の話題はナン大陸の事だ。


「へえ、ナン大陸の新しい里、緋紙さんが仕切っているんだ」


「ああ。張り切ってエルフとドワーフたちと里を拡張している。それで徐々にナン大陸へ移住をしているんだ。当初は反対も多かったが、今は早く移住をしたいと申し出るようになったよ」


 湯気の立ちこめる茶をイゼルが飲む。対してゼンは空になった湯飲みに茶を急須から注ぐ。


「それってやっぱり、ミッテ大陸が丸坊主になってきたから?」


「丸坊主……確かに焼け野原になっている箇所が増えてきているな。一番の理由はそれで間違いない。ダリス人に狩られるぐらいならは先に逃げたいと。だが一度に居なくなっては目につく」


「だから気づかれないように徐々にってことなんだね。それはそうと、父さんはどうするの? 父さんも俺も空と繋がっているから、天候が感情に左右されてしまうし」


 天候には影響はないが、ゼンの表情がやや曇りながらも誤魔化すように茶を飲んだ。イゼルのことが心配なのだろう。イゼルは落ち着いて回答した。


「俺は最後だ。皆の移住が終わって気持ちが落ち着いてからだな。ところで、紙音はどうしてる?」


 その問いが耳に入った瞬間、反射的に湯飲みを持つ手に力が入り、割ってしまった。

 熱い茶に顔を歪めたゼンは立ち上がり「拭くものを取ってくるよ」と言うと部屋を出て行く。

 ふと外の空を見たイゼルは、空が曇ってく様子を見ると「まさか」とぽつりと呟き、ゆっくりと深呼吸をしたのだった。


 そんな空を、マナは窓を拭きながら見ている。


(雨が降るのかしら。もし降ったら緋媛が濡れて風邪を引いて……)


 否。風邪の緋媛を見たことがない。レイトーマ城で護衛をしていた頃は一度も休んだことがなかったのだ。そもそも人間と龍族では体力が違うので、多少の雨では体調を崩すことがないのだろう。


「あらマナちゃん、綺麗に拭けたわね。次は隣とその隣の窓もお願い」


「はい」


 返事と共に後ろを向くと、ルティスが風を使って埃を集め、喚起の為に開けていた窓からその埃を出していた。ユキネは椅子を拭いており、緋紙はモップで床を拭いている。雑巾を手にしたルティスがマナに声を掛けながら窓を拭き始めた。


「しっかし姫様。レイトーマの王女が掃除なんてしなくてもいいでしょうに。現代じゃリーリがやってましたし、城はメイドでしょう。屋敷でのんびり緋媛のクソ野郎を待ってりゃいいんじゃないっすか」


「お気遣いありがとうございます。ですが今まで経験したことのないことをするのは楽しいのです。それにメイドの皆もリーリもこんなに大変な事を毎日しているのですから、改めて感謝しなくてはなりませんね」


 この会話を聞いたユキネは驚いて顔を上げると「レイトーマの姫様!?」と声を上げるが、ルティスは無視して黙々と窓を拭いている。マナと緋紙がユキネの方を向く。


「そういえばユキネ、知らなかったわね。マナちゃんは未来のレイトーマの王族なのよ」


「姫様をそんな呼び方していいの?」


 王族というだけで青ざめるユキネに、緋紙は涼しい顔をしている。


「だって、今のレイトーマの王族ってみんな男児でしょう? 実感がわかないのよねぇ。それにマナちゃんも満更じゃなさそうだし、娘みたいに可愛いし。ね、そうでしょ?」


「はい。マナちゃんって呼ばれるのが新鮮で好きです。お好きなように呼んで下さい」


 にっこり微笑むマナに不安を覚えたユキネ。未来とはいえ王族にそんな態度はできず、どうすればいいのか悩む。

 すると、窓を拭いていたルティスが、遠くで走っている数名の姿に気づいた。


「あれ、緋倉様」


「えっ、緋倉?」と、窓へ駆けつけたユキネだが、その人影が緋倉と判別ができない。姿形は似ているようだが遠すぎて見えないのだ。首をかしげている彼女に、ルティスは答えたのだが――


「ああ、俺、視力すげえいいんすよ。遠くまではっきり見えるんで、普通は分からなくても仕方ないっす。それより俺の記憶と違う……」


 彼の頭の中に浮かぶ光景は、多くの大人の異種族を率いている様子だった。ルティスとフォルトアは緋倉とゼネリアに手を引かれていたのだが、どういうことか緋倉がゼネリアを抱きかかえ、緋刃がルティスとフォルトアを抱えているのだ。


「ルティス?」


 そっと彼の顔を覗き込むマナに目を合わせることなく、ルティスは駆け出して部屋から出て行った。はっと気づいたマナは「待ってください、ルティス!」と後を追うように部屋から出ていく。

 残った緋紙とユキネは互いに顔を見合わせ、ユキネが気まずそうに呟いた。


「あたしも緋倉のところに……」


「だめよ。緋倉を諦められるように、離れなさい」


 丁度その時、ぽつりぽつりと雨が地面を濡らしていたのだった。




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