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歴史の陰で生きる異種族  作者: 青枝沙苗
9章 襲撃

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15話 葛藤と焦り

 小さな子供の龍二人の手を引いて雪道をぎゅっぎゅっと踏みしめて歩く緋倉は、空をみてふぅと息を吐いた。ちらほら降る雪で白い吐息が目に入る。


(さっきより冷えているな。見えない程度に暖めているが……)


 両手の子供の龍は名前を繰り返し呟き、呼び合い続けていた。名前がなかったのだから随分と嬉しかったのだろう。


「ルティス、フォルトア」


「なに?」と声を揃え、瞳を輝かせて元気いっぱいに返事をした。フォルトアは死にかけていたとは思えない程の回復力だったため、緋倉は少々驚きながらも問う。


「寒くないか?」


「平気だよ。なっ、フォルトア」


「ルティスが平気だから僕も平気」


 ふっとほほ笑んだ緋倉は「そうか」と呟く。顔を上げると遠目にようやくゼネリアとの合流地点の洞穴が見えてきた。


「あの中でゼネたちを待とうな」


 元気いっぱいに頷くルティスに対し、フォルトアはぎゅっと緋倉の手を握った。表情が曇り、俯いている。

 しゃがんだ緋倉は「どうした」と尋ねた。


「お姉ちゃんとお兄ちゃん、大丈夫かな」


 顔を上げたフォルトアは今にも泣きそうな表情をしている。


「人間は残酷だから」


 つい数時間前に体の皮を剥がれ、奴隷扱いされていたのだからそう思うのも無理はない。

 ぎゅっとフォルトアを抱きしめた緋倉は「大丈夫」と呟いた。

 ――だが、何故か嫌な予感が頭を過った。つい数か月前に、彼女は人間に殺されかけたのだから。

 背をぽんぽんと宥めるように叩いた緋倉は、ルティスとフォルトアを連れて洞穴の中へ向かった。

 穴の中に入るなり散らばっている木々を集め、火をつける。子供たちに暖を取るように言うと、洞穴の入り口に寄りかかった。早く戻ってきて欲しいとただそれだけを願いながら。


 それから約二時間が経過しただろうか。腕組みをして人差し指を腕にとんとんと叩く緋倉は、苛立ちと不安で満ちていた。ふと、鼻腔を通過する臭い。


(血? これはゼネと緋刃)


「ゼネ!」


 青ざめて足を一歩踏み出したとき、ふと過る後ろの子供たちの声。

 今この場を離れ、人間が来たらこの子達は誰が守るのだろう。自分しかいない。故に離れられない。

 緋刃は軽傷のようだが血の臭いが強いゼネリアはまた重症のようだ。

 今すぐ駆けつけたい。子供たちを守らなくては。今すぐ駆けつけたい。子供たちを――。


「……んで、なんで俺が」


 ――傍にいないのだろう。緋刃じゃなくて自分が居れば、また怪我をさせなかったのに。

 唇を噛みしめていると、緋倉の服をくいくいと小さい力が引っ張った。


「どうしたの? どこか痛いの?」


 心配そうに見上げる子供たちの目線になるようしゃがんだ緋倉は言葉を出しそうになるが飲み込んだ。


(ダメだ言うな。ゼネの所に駆けつけたいって。近くに来るまでは、視界に入るまでは、絶対に言っちゃいけねえ。俺がこいつらを護らねえと)


 表情が曇っている緋倉を見るなり顔を見合わせるルティスとフォルトア。

 ルティスがひょいと顔を出して洞穴の外をじっと見ると、遠くに男女の姿が見えた。


「お兄ちゃん、あのお兄ちゃんが来たよ。だから元気出して」


 勢いよく振り返ると、確かに緋刃の姿がはっきり見える。だがその腕の中には彼女が抱かれていた。

 その緋刃が焦るように雪道を走っている。


「絶対にここから出るな。すぐ戻るから、いいな」


 ルティスとフォルトアに言い聞かせると、緋倉は彼女の元へ駆け出した。

 それに気づいた緋刃は「倉兄!」と叫ぶ。

 合流した緋倉は、彼女の青白い顔に自身も青ざめる。


「城で人間にやられて、傷は塞いだんだけど」


 緋刃の声に耳を傾けることなく、呼吸の弱いゼネリアを腕に中に収めると「何で」と呟いた。


「だから人間に」


「何でお前なんだ! お前じゃなくて俺が居ればこんな事には……!」


 失うのではないかという恐れる表情で緋刃を責めた緋倉。

 洞穴の中へ急ぎ、緋の前に座り込むと腕の中の彼女の頬と首筋に触れて体温と脈を確かめた。決して高くない体温と弱い脈と呼吸で冷や汗が流れる。

 服が血まみれになっていることに気づいた。破れた箇所が傷を負ったところだろう。ここで緋倉はやっと緋刃がゼネリアの傷をふさいだのだと理解した。

 少し頭が冷えたのか、ようやく周りの様子が見えるようになった。

 緋刃の後ろで、ルティスとフォルトアが隠れるようにこちらを見ている。


(怖がらせちまったか?)


 察した緋刃が声をかけた。


「ごめん、俺のせいだ」


「あ……いや、違う。そういうつもりじゃなかった。すまない」


 ルティスの瞳に移る、緋倉の震える肩。たっと駆けたルティスは、緋倉の背を擦った。

 追ってフォルトアも駆けつけると同じように擦る。


(俺を慰めてんのか。こいつらの方がずっと辛いはずだったのに)


 ゼネリアを抱きかかえながら立ち上がった緋倉は、足で火に土を駆けながら言う。


「里に戻ろう。こいつらの事、イゼル様に報告する。ゼネも薬華に診てもらわないと」


 火が消えて灰色の煙が立ち上がる。緋刃にルティスとフォルトアを任せると、緋倉達はホク大陸の大地から飛び立ったのだった。




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