第44話 私って、ダメな子
「お待たせ〜」
なに食わぬ顔でアーケード街で待つ2人のトコへ戻ってこれたと思う。だってそれぞれニヘラ笑いとクールな顔で迎えてくれたから。
「あっ、だ、大丈夫だよ」
「待ってないわ」
「えー、ヒドーい」
「ジョーダンよ」
「わーい」
「えっ、もう仲良くないですか」
「もっとだからもっとなの!」
「そうよ、もっとよ」
「もっ……とかぁ」
タマキちゃんのいつものオドオド調子見て、なんだか一安心。
友達の中で私は特別扱いされてない。それが何より安心した。
「あっ、調子どうですか?」
「えっ? 別に普通だよ、なんでもない!」
一瞬ドキッとしちゃった。タマキちゃんってすごく頭いいから、ヒカリちゃんもハッキリ言う子だから。私がトイレ行くって言ったとき、具合悪そうにしてたのがバレてたのかと思った。きっとそうじゃないよね、社交辞令ってヤツだ。
「ほら行こ! ね、ね!」
「何処へ……」
「強引な子ね」
気づいてほしくない、気を遣ってほしくない。そんな私のワガママ。そんなの全然対等な友達なんかじゃないから。友達に幻想抱いてる、最低な私──。
*
同時刻、別の場所で──
陽が落ち始める夕方ごろ、ザワつく電車の中。17時頃は帰宅ラッシュの初動だ。各駅に到着する度に人が寄せては返し、人のポジションがかき混ぜられる。人が密集し、誰がぶつかったか、ふれたか、判別つかない。かもしれない。
バレないと、そう考えてしまうのだろう。人が詰まったこの鉄の箱の中に押し込められ、普段の鬱憤を晴らしたくもなるのだろう。スーツを着たその男の手は、少女の元へ確かに、確実に伸びていた。助けを呼ぶ声すら上げられぬ恐怖に、それを察知して助けてくれる者のいない恐怖に、押し潰されそうな少女。
「おンやぁ? 痴漢なんてゴキゲンじゃ〜ん?」
女だった、男の手を掴み上げたのは。桃色のハーフアップヘアーに、糸目と左目尻の涙ボクロ、それから紫オーブのドロップピアスが特徴的な女性──丹羽 ネルだ。
大人の女の人に助けられた少女は「ありがとうございます」と言い残し、人混みをかき分け消えていった。それを見たネルは舌打ちをし「クソが」、そう漏らした。
そのネルを、男は憎々しげに睨む。逆恨みだ。
「クソっ……女がっ!! 男を誘惑するクセしてぶっちらぶっちら文句つけやがってっ!」
「わかるよ〜、仕事のストレスで弱いものイジメしたくなる気持ち。責任転嫁だってしたくもなる。だってみじめだもんね〜、自分」
「何が言いてぇんだよオメェはっ!!」
「怒鳴んなよ社会の底辺が……」
周囲の人間は──厳密には少女が被害に遭っているときからだが──目を逸らしていた。知らんぷりだ、見ないことで関わっていない、そうやって誤魔化していた。
ネルもそれに気づいていた、初めから。ずっと、イライラしていた。
だから次に取った行動は──『発散』。
男の手を掴んだまま、その手から『もう一つの手』が現れる。それから、人混みで狭いはずの空間で、男の体を引いて勢いよく電車の壁に押し付け、そうして、男は電車から『すり抜けて』追い出された。
ネルの『空間移動』の能力『ドグラマグラ』だ。
「……はえ?」
慣性の法則。カンタンに、今の状況で取り上げる事柄はただ一つ。それに則れば例えば、動いている電車の上でジャンプをしたら、体は電車に置いていかれず、電車のジャンプ地点で着地できる。
電車の移動速度のまま体も移動しているからだ。
ではもしも横へ、着地できない方向へジャンプしたら? もっと言えば、もしもこの男のように外へ投げ出され、電車の速度のまま柱にでも当たったら?
「うっ、うわあああぁぁぁぁっ!!」
電車の速度に連れていかれ、架線柱に叩き付けられた男は、上半身と下半身が真っ二つになり線路へ転がった。
少し遅れて、ベチャッ、という不審な音に気づいた乗客が窓の異変に気づいて、悲鳴が連鎖した。悲鳴の大元はさっき男に襲われていた少女だった。
車内の混乱も露知らず、電車はいつもと変わらぬ様子で停車する。車内の、そして外装の異常に気づいた駅のホームの人々も狼狽えどよめき始めた。
『枝葉街〜枝葉街~。ご乗車、ありがとうございました~』
「ありがとうじゃねぇよボゲ。お前も働けカス」
一見するといつもの糸目のニッコリしたような表情のなんでもない顔で、怨嗟を吐きながらネルは気にせず人混みをかき分け、改札へと消えていった。
*
軽くお店を見て回っただけなのにもう夕方だった。私に振り回されて、タマキちゃんはヘロヘロだった。
もしかして私より体力ない……? そんなハズはないと思いたいけど!
「タマキ、飲みものなんてどうかしら?」
ヒカリちゃんの提案に、タマキちゃんが「ウゥンッ!」ってデスボみたいな返事をする。
「私、水でいいよ!」
「あっ……ああ、まあ、そう、だよね」
一瞬「ん?」って思った。タマキちゃんが「水」になんでか反応してる。
なのでタマキちゃんの耳元に寄りつつ。
「水水水水水水水水水水」
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁ」
「なにをやってるのアナタ達……」
多分こういう事じゃないなぁ?
「水嫌いだった?」
「いやそういう事じゃなく……。あと耳元で水水言われるのは怖いと言いますか……」
「それは……そうだけど、うん。じゃあタマキちゃんも水でいい?」
「いぃ~え~? ほうじ茶……いや自分で選ぶので……」
「そっか、じゃあヒカリちゃんは?」
「あっ、スルー……」
「私はコーヒーよ。最近はカプチーノに凝ってるわ」
「チーノね! そういえば、もかちゃんのお姉さんも『ちの』って名前だったわね!」
「そうね、コーヒー姉妹だわ」
「ねー!」
「あっ、ですねー……」
そんなふうに3人で仲良くお話してるときだった。タマキちゃんの後ろから、謎のお姉さんが近づいてきていたのだ。
私はオロオロしたけど、ヒカリちゃんを見るとなんだか呆れてる? みたいな顔してて、知り合いさんってことかなって思ったから、目をパチパチさせてどうなるか見守ることにした。
ニコニコなそのお姉さんは、タマキちゃんの背後に近づいて、
「だーれだ?」
と言って目隠しをした。
……恋人さんかな?
「……あっ、あの、この類例、前にもやりましたよ」
「やだな~タマちゃん。あのときは犯人ごっこ、今回のは~アレだよ、友の証~」
「あっ、あの、手、どけてくれませんか……」
「あっ、ゴメンゴメ~ン」
離した。……あ。
「やあやあ親愛なる友……」
「えぇっと、タマキちゃん達の知り合いさんなんですね!」
「……よ~。アンタ誰」
「はじめまして、天道 聖夢でーす! 天の道に、聖なる夢で〜」
「あっ、そ。丹羽」
なんか冷めてる〜?
そう思ってたら丹羽さん、タマキちゃんにぐいぐい。
「ンねンねタマちゃん、こんなトコでなにしてんの。この子らと出かけてんの? タマちゃんってどんなトコ行くの?」
「えっ、あっ、えと、あの」
タマキちゃんが困ってる! えぇ〜っと、助けないと、かな?
「あの〜……」
「ちょっと」
そう思って声を出したのと同じタイミングで。ヒカリちゃんがひょいとタマキちゃんを引っ張って助けた。
「ンだよ」
「タマキはビビリなのよ」
「ビビリて……」
「知ってるよ、私もおんなじ陰キャだもんね〜」
「陰キャて……」
「あらそう。アナタも一緒に遊ぶ?」
「ヤだね。じゃねタマちゃ〜ん」
丹羽さん、急に、全く、全然予想できないタイミングで勝手に帰っちゃった。
仲間はずれだった私は2人にコソコソ話かける。
「なんか、丹羽さんって冷たい人なのねぇ」
「あっ、あの人もコミュ症なだけだよ。ネルお姉さんって……」
「そうなんだ。タマキちゃんと一緒なら、まあ納得かも?」
「えっ!? そ、それ、酷い事言ってるんじゃ……」
「あっ、でも『タマちゃん』って馴れ馴れしく呼んでるのはスゴいかも、タマキちゃんよりコミュ症じゃない」
「ひ、ひ、酷い……」
「ね、ね! 2人ともどこか行きたいトコないの?!」
話をムリヤリ切り替えて、2人に聞いてみたりする。
……さすがに、雑に扱いすぎちゃった気がする。私が仲間はずれになって、でもそれって丹羽さんが冷たくしてたからで、タマキちゃんは悪くなくって。
私って、ダメな子。
「ぷらな」
ぴくってした。ヒカリちゃんだった。心配そうに、私の顔を見てた。
「悩みとかあったら、遠慮なく言うのよ」
「え? 悩みだなんてそんなのナイナイ!」
咄嗟になに言ってるんだろ。見え透いた言い訳。……2人に、バレてるだろうな。
「同じね」
「へ?」
ヒカリちゃんが微笑んで言った。
「友達には心配してほしくない、だから強気になる。それがタマキと同じ」
「あっ、僕?」
「……私が、タマキちゃんと? ううん、そんな事ないよ。私、弱いもん。何も無いもん。タマキちゃんと大違い」
「何も無い……?」
タマキちゃんがピクリと反応する。それから、私の手を取った。ドキリとした。
タマキちゃんの黄色い眼が私を見つめた。ドキドキした。変なのって、自分でも思う。
そのタマキちゃんが、意を決して話し始める。
「そんな事ないよ! ぷらなは──」
ドギャアアアンッ!!
「「ええぇぇっ!?」」
突然の爆発音! 駅の方からだった!
「タマキ」
「うん!」
「えっ! 待って置いてかないで~!」
なんでもう慣れてる感じなの〜!? タマキちゃんも一緒にびっくりしてたのに〜!
とかなんとか思いながら、枝葉街駅前のデッキに来た。街の人たちの悲鳴が聞こえる。そこで暴れていたのはガイコツの悪役。こないだのと同じ人だった。
その人を見るなりタマキちゃんはバッグを投げ捨ててバトルモード。私も慌ててリュックをその辺に置いた。
「カイ・ヴァルター!? 今度はこんな帰宅ラッシュの時間に……!」
「芸もなくまた、ね。今度はとっ捕まえる? それとも倒す?」
「倒そう。すぐに暴れてるのを止めるんだ。僕らだけじゃ手加減しきれないけど……」
そこで私はピンときた。前みたく、私がリンカーで殴るんじゃないのかなって。
「わかった! 行ってきます!」
「待ったぷらな! 近づいちゃダメだ、僕らで様子を見る! ニンヒト!」
「えぇっ!?」
色々びっくりしたけど、ヒカリちゃんが指鉄砲でビームを撃った。それが『ニンヒト』。タマキちゃん達の必殺技だ。
真っ直ぐにニンヒトがガイコツマンを狙う。全然私たちに気づいてなかったガイコツマンは、ニンヒトに気づかず頭にゴンっ! って当たった!
「あ、当たった! 見て2人とも、痛そうにしてる!」
「うん。なんというか、以前と違って抜けてる。というか動きが違う。あれはカイ・ヴァルターじゃない、別人だ」
「別人?」
私は声が裏返っちゃった。どうゆうことって思ったから。
確かリンカー能力って人の心から出てきたやつだって、再寧さん言ってなかったっけ? だから同じ能力は無いぞ~みたいな。いやでも「空飛べますように」とかシンプルなお願い事だったらそういうのあるような? 私も「強くな~れ」で『ラブずっきゅん』が出てきてるような。そういえばこないだのカイなんとかもリンカー能力2つ使ってて変なんだっけ?
うう~……考えすぎて頭痛くなってきたかも~……。
「ぷらなっ!」
「え? わっ!」
ぼーっとしてたら悪役の謎のガイコツマンが襲いかかってきてた! ぼがって鳴って何かと思ったら、ガイコツマンがまたタマキちゃんたちの『ニンヒト』を喰らってた!
びっくりしながら私もリンカー能力の『ラブずっきゅん』を発動しながら、どんってガイコツマンを両手で押す。ガイコツマンは『体は無敵になる能力』だから気をつけて、右肩と左腕に触ったら能力が発動。『触ったらベクトルっていうので飛ばせる』能力だ。それでぱっと見で十歩ぐらい、けっこう飛んでいった。
「わぁ、ホントになんか弱い……。タマキちゃん、全然倒せそうだよ!」
タマキちゃんはどうしても納得いかないみたいで、う〜んと難しい顔をしてた。それからスマホを取り出す。
「再寧さんに通報しておく。来る頃には戦闘も終わってると思うけど……」
「う〜ん……? でもそっかぁ」
タマキちゃんってバトルになると真面目モード入るわよねぇ。いや、私もホントはもっと真剣になるべきなのに。けど……。
「い……痛ぇ……! なんだお前らぁ……!」
「喋った!」
タマキちゃんが「再寧さんまたあとでお願いします」って言って通話切って、ガイコツマンに話しかける。
「貴方は何者です? 『超克の教団』……には違いないかと思いますが」
「超なんだって!? あぁぁぁっもううるせぇっ!!」
びっくり! だだっ子みたいに大声出して、手から衝撃波出すやつでちょっと遠くから攻撃してきた!
「教団ですらないのか!? 『ニンヒト』!」
タマキちゃんも負けじと避けながらニンヒト! ヒカリちゃんがビーム撃ちまくって、ガイコツマンはそれを2個ぐらい体で受ける。
あのガイコツマンのリンカー能力は『体で受けたダメージを吸収して手とか足から出すヤツ』。まさに地面をドンって蹴ってた。ニンヒト2個分の衝撃波が、来る!
「タマキちゃん! 『ラブずっきゅん』!」
そこで私はタマキちゃんたちの前に出てリンカーを出す。腕に矢印のついた、魔法少女みたいなかわいいリンカー『ラブずっきゅん』! しゃがんで地面にえいってパンチして、こっちに来る衝撃波を『ベクトル操作』で跳ね返す!
まさかの反撃にガイコツマンもびっくりしたのか、自分で出した衝撃波を食らってグル〜ンと一回転しちゃってた!
「コンビネーションだ! ヒカリ、ぷらな、前方へ出て一気に畳みかける!」
「了解。ぷらな、行くわよ」
「えっ!? あ、りょうかーい!」
トトト、って行っちゃうヒカリちゃんにがんばって走って追いつく。
ヒカリちゃんはニンヒトしながらガイコツマンに近づいて、それからパンチしまくって攻撃してた。
私もとりあえず周りで様子見て、行けそうな、やっぱダメなような、そしたらヒカリちゃんがクルンと側転してかわしながらキックしてて、今だ、って思って私もパンチ!
「……鈍臭いな、お前」
パンチを、避けられて。腕をちょん、って押しのけられて、それで、私の体が浮いてて──。
「え? あっ、え? 浮いてる……私!?」
びたん! って地面に落ちる。
「「ぷらな!」」
タマキちゃんとヒカリちゃんの声が重なる。ヒカリが回し蹴りして、ガイコツマンはぴょん、って後ろへ飛んで避けた。
いま、私、空中に浮いてた!? 私のリンカーでやるにしても、ふわぁ、って浮かぶなんてやったワケじゃないし、今の、この人のリンカー能力!? ホントに別の能力が……!?
「タマキちゃん!」
「わかってる! アイツ、やっぱ別のリンカー能力を持ってる! 『大地讃頌』は使いまわしてて、カイ・ヴァルターがじゃあ何かしたには違いないと思うけど……!」
「タマキ、ぷらな! 来るわ!」
ヒカリちゃんの呼びかけで振り返る。タマキちゃんの方を見てよそ見してたから。
襲いかかってきてたガイコツマンをえいえいって叩こうとするけど、胴体で受け止められて攻撃を吸収されちゃう。
そのガイコツマンがスッと私に向けて手のひらをかざす。衝撃波だ。それが放たれて、私はお腹にモロに喰らう。
「痛っ……!」
「「ぷらなぁ!!」」
コンクリートに転がって、手の甲や頬を擦りむいた。叫んだタマキちゃんとヒカリちゃん。
それを邪魔するみたいにガイコツマンがドンって足で地面を蹴って、剥がれたコンクリートをドンって押したら、それがそのまま発射されてヒカリちゃんにぶつけられる。
不自然な浮き方、コレ、『浮かばせる能力』ってコト……?
そんな風に考えてる間に、私の体に異変が起きる。
「……はっ、はっ、はっ、はぁっ……!」
呼吸が細かく途切れる。息を吸う度に血がチクチクして、吐く度に心臓がギュウっと圧迫される。
こんなタイミングで……先天性心疾患の、発作……! 当たり前だ、戦いなんて激しい運動のスゴい版なんてやってたら、いずれこうなるってわかってたハズなのに……!
「なんだァ? この女、ビクビク震えてやがる」
ガイコツマンの声が遠くから聞こえるように感じられた。目から頭の奥にかけてズキズキする。
昨日と大違いで大ピンチになってる。私のせいで。ホントに私ってダメな子。どこまでも自分のせいで、色んな人に迷惑をかけてる。やっぱり、こんな事なら──
「──死に」
ガイコツマンのキックが、目の前に迫っていた。




