第43話 私、ヒカリちゃんともっと仲良くなりたくって!
ポカポカのお昼でもすっごい寒い12月。私、天道 聖夢はボ~っとしてホームルームで先生の話を聞き流してた。
「え~、では明日から冬休みだから、宿題は忘れず……」
「いえーっ!!」
「オシマイの概念……」
先生の話をフライングして喜ぶ男子と、いつものようにオシマイの概念って言ってるネガティブなタマキちゃんの差がヒドい。でもそんな事は別にいいわ!
明日から冬休み! 色んな子といっぱい遊ぼうって今から楽しみで胸がはち切れそう!
「誰にも誘われず……忘れられ……家で引きこもり……終わってからも……オシマイの概念……」
コッチはコッチで胸が張り裂けそうね。
帰りのあいさつも終わって、すみっこの席でしょんぼりしてるタマキちゃんに喋りかけに行く。
物憂げそうな顔、改めて思うけどやっぱりキレイな顔してて美人さんだなぁ。中身はオシマイで残念だけど。
「ねえタマキちゃん!」
「え、あっ、ハイ」
「そんなにオシマイの概念なら、放課後どっか行かない? みんなも誘ってさ!」
「神じゃったか……」
「お坊さん?」
おてて合わせて拝み始めちゃった……。
そういえばと思って、タマキちゃんのバッグに向かって話しかける。
「ねえ! ヒカリちゃんも一緒に遊び行かない?」
もぞもぞ。バッグのファスナーが開いて、中からヒカリちゃんが覗いてきた。
「あら、ステキなお誘いね。どこへ行くつもりなのかしら?」
「全然考えてないよ!」
「……あら、それは本当にステキなお誘いね」
「え、あっ、あの、ウィッシュリストとかは何かこう、無限に色々書いてあるんじゃ……」
「そうだった! じゃあどれにしよっかな〜」
「ええ〜行き当たりばったり……」
「行きましょ! みんなバイバーイ!」
「ヴェアアァァァ」
「あら〜」
タマキちゃんが悲鳴挙げて、ヒカリちゃんが気の抜けた声を出してるのも気にせず、私は引っ張って行くのでした。
*
昼下がりのレストラン『ムムス』。主婦達のランチタイムは終わり、それまでの賑わいがウソのように閑散とする。
出入口ドアに付けられた鈴の音が店内に木霊する。足早に客を迎えるのは、もかだ。
「いらっしゃ──あっ! ホントに来た!」
嬉々として迎えたのは──
「やあ。バイトしてるとは聞いたがまさかホントにこんな所とは」
黒いクセっ毛に整ったヒゲ、そしてモノクルの男性。そう、先日、タマキらを襲ったカイ・ヴァルターだった。後ろには丹羽 ネルもいる。
「ケッコー色んな情報集まってくるんですよ。それでちょうどよくって」
「そうかそうか。働き者で感心」
「あ、それとこないだはホントにすみません」
「いい、いい。君にとって必要な事であり私にとってバイクに轢かれたという貴重な体験だ。互いの利だよ」
もかはまるで尊敬する先生と話すかのような親しさで、ヴァルターと話していた。席へ案内し、3人で話を始める。
「んでぇ? ヴァルおじは今回なぁにしに来たの」
開口一番、ネルはタバコを吹かせながら退屈そうに喋り出す。もかはそれを怪訝な顔で見ていた。
「ちょっと、禁煙よ」
「い〜じゃん常連だぞ〜」
「大して来てないでしょーがっ」
「私からすればどっちもどうでもいい事だネルきみの質問に答えさせてもらおうか」
ため息混じりに早口で両者を遮るヴァルター。トントントン、とテーブルを指で7回ほど小突いてから、話し始める。
「カンタンに言えば面白い被験体の話を聞いたから飛んできたんだ、彼きっての頼みもあるしな」
『彼』。その単語に、もかがピクリと飛びつく。
「教祖様が!?」
「いや誰でもい〜けどさぁ? 被験体ってあんた、タマちゃんじゃないだろうねぇ?」
ケラケラ笑いながら適当に話を流すネル。対してヴァルターは、何故か呆れ気味に返事をするのだった。
「タマちゃん、とはまさか我妻 タマキのことか?」
「そだよー。アザラシじゃねぇかんねー」
「ナニソレ?」
「ガキは黙ってろって」
「ぁあによっ!」
静粛に。そう言いたげにヴァルターは手を挙げ、もかを静止する。
「安心したまえ。私が興味あるのはお人形ちゃんの方だ」
「オイ、オイ、オイオイ。タマちゃんのリンカーだぜ? ほぼ同意義じゃん」
「だからどうした? 能力者とリンカーは切り離して考えるべきだろう」
「そーゆー屁理屈通じるンなら警察いらねーっしょ〜?」
拳。
「なっ……! アンタ何やってんのよっ!」
それは『ドグラマグラ』の右腕だった。ネルがヴァルターへ向けて攻撃したのだ。
対してヴァルターは、リンカーを発動し、その拳を赤い腕一本で受け流して防御する。冷静であった。
「タマちゃんに手ェ出したらブッ殺すよ?」
いつも閉じているネルの目が開いていた。口元は微笑みながら、紫の瞳孔が殺意を剥き出しにしていた。
「よほどお気に入りらしいな、良いじゃないか」
「言い訳しろよ」
「タマちゃんとお人形ちゃんはお人形ちゃんが等身大でなければ『繋がり』もロクにないと聞いたが?」
ネルは表情で、あれ、ああそっか、の仕草を一瞬で済ませて、ようやく矛を下げた。
「あ〜そゆことね! ヴァルおじマジでタマちゃんにゃ興味ねぇんだ!」
「まずヴァルターさんに謝んなさいよっ」
「わりぃ」
「私にとってはどうでもいい事だ」
「じゃナシで」
「アンタさぁ! 第一アンタ知ってたんでしょ、タマキがリンカー能力者だって! なんでアタシにゃ黙ってたワケ!?」
「それこそもかちゃんが大好きな教祖様にゃ報告しておいたけど?」
「はぁ!?」
「つーかフツーなんかの拍子に知らね? そんな感じかと思ってたんだけど」
「ウッザっ! アンタマジでテキトーすぎ! もっと」
「もか」
もういいと、ヴァルターはもかを咎める。それから立ち上がり、もかの耳元で、ささやくように言葉を告げる。
「今回の私のサイエンティフィックス──君には君の役割がある聞きたまえ 」
「えっ、アタシに?」
「聞きたまえ。うん、よし良いな? 今回のサイエンティフィックスは『抑圧』をテーマにしてるわかるな? 『テクノ』の開発及び検証まで至った私の研究を次のステージに進めたいのだ」
「ずっと色んな人に配ってきた『テクノ』をですか? どういう……」
「その為にも。あの再寧という刑事はよぉく育てておくといい。私のサイエンティフィックスの為にもね」
『再寧』。その名を聞いたもかの目が見開かれる。その表情は、それまで同じ名を聞いてタマキ達に見せた『嫌悪』ではなく『戦慄』であった。
その分かりやすい表情の変化に当然ヴァルターも気づく。
「イヤか?」
「イヤなワケないです!」
「安心したまえお人形ちゃんもお友達と聞いているその前の被験体としてちょうどいいからな」
ヴァルターは席へ座り直す。そして、先ほどまでの険悪なムードなど自分には関係ないとばかりに、メニューを取って開いた。
「まずはゆっくり情報交換をしようその為にレストランへ来たんだ。今度は、ルビィ・ニンフェアの捕獲任務対象になった天道 聖夢について詳しく聞かせてもらおうか。イカスミカレーパスタとドリンクバー」
「メンド〜。いつの話だよソレ〜」
『ぷらな』。その言葉に、もかの葛藤はさらに深まることとなった。
*
太陽が真上に来るピッタリ正午。私とタマキちゃん、それからヒカリちゃんも人ぐらいの大きさになるヤツになって、3人で一緒に歩いていた。枝葉街駅、周辺のアーケード街。いつものトコ。
「あーん! もかちゃんはバイトだって言うし、彼方ちゃんも今日は本当に行けないって言うし!」
「えっ、あっ、なんかすみません」
「いやいやいやっ! タマキちゃんが悪いってコトじゃなくってね! いや誰が悪いってコトでもなくって!」
なんてやり取りしてたら、ヒカリちゃんから説明が入るのでした。
「とにかく仕方ないって事よね。もかのバイトも断るワケにもいかないし、彼方はこないだの戦闘で骨折だし」
「足ね〜……。彼方ちゃんホントはムリしてたんだもんねぇ……」
「けどよく頑張ってくれたわ。それで積極的に前線に立ったり、私ら2人をキャッチしたり。今度プレゼントでもあげてやりましょ」
「いいねー! あ、それならプレゼント交換会とかどう?! クリスマスも近いから!」
「いいわね」
「あっ、あの〜……」
タマキちゃんが、手を小さく、ピン。
「今日のご用事ってなんでしょか……?」
「あ、そういえばそうだったわね」
「ゴメンねータマキちゃん! 忘れてたわけじゃないよ!」
「あっ、僕の方ですかハハっ……。いいですいいです慣れてますので……」
「違うのー! でも放置してたのはホントにゴメーン! あ、それで本日のメインイベントは」
「えっ、切り替え早っ」
とてとて走って2人の前に立って、じゃーんって腕を広げて見せたり!
「私、ヒカリちゃんともっと仲良くなりたくって!」
──間。
「え、ヒカリぃ!? 僕じゃなくてヒカリなのぅ!?」
「だってヒカリちゃんだいたいタマキちゃんにくっついてて印象がタマキちゃん寄りなんだもん! 個性が立ってないよ!」
「え、私への煽りかしらソレ?」
「アオリってなに?」
「バカにしてんのかって意味よ」
「そんなことないよ! 事実だもん!」
「よーしバカにしてるわね許さん」
「うみゃー!」
ヒカリちゃんにほっぺ摘まれてびろびろされるー!
「にしてもホントに突然刺してきたわね……」
「ひぃん、今日は誤解される日だよぉ……」
「じゃ、じゃあお二人とも仲良くしたいという事で、僕はこの小説の主人公を降ります……」
「待ちなさいタマキ! なんなのその話!?」
うわ〜、ソッチに振り切ったネタ入ってきた。アタマ大丈夫なのかな?
「あ、そうじゃなかった! ダメだよタマキちゃんも一緒がいいの!」
「んわっ」
タマキちゃんの制服の襟首をリンカーで掴んで止める。タマキちゃんは心身共に意外と頑丈だからコレぐらいなら雑に扱っても平気。最近、平気ラインのギリギリ責めるのがちょっと楽しくなってる私がいる。
「ダメダメ、こういう時はタマキちゃんがヒカリちゃん立てて、ヒカリちゃんを印象づけてあげなきゃ」
「あの〜、僕寄りの印象ってのと僕がいて印象づけるって、こう、やる事が矛盾してるような……」
「まずはどこへ行こっかな〜」
「聞いて」
そんなときだ。
私の頭から胸にかけて、ぴりりっ、と衝撃が走ったのだ。
「ちょっとね」
「あっ、ハイ」
「お花摘みに行ってきま〜す」
「「ズコー」」
タマキちゃんとヒカリちゃんはノリよくコケてくれた。
むしろ──それが助かった。
私はゆっくり、ゆっくりと、呼吸を確かめながら、歩いていた。
やっとの思いでお手洗いに着いて、ちょっと脇へ寄ってしゃがみ込む。
「……ハァ、ハァ。フゥゥ……」
息が切れる、走ってもないのに。呼吸は短く、肺を動かす度に血の中に針が動いてるみたく全身に刺す痛みが走る。
落ち着いて、お薬を取り出す。震える指でそっと口へ運んで、ゆっくりペットボトルに口をつけて、少しずつ、少しずつだけ、水を口の中に流す。
それで気休めはオシマイ。深呼吸して、呼吸が楽になったのを確認して、足を震えさせながら、立ち上がる。立って、ぴりりと頭から心臓に電気みたいなのが流れて、ようやく調子が良くなってきた、ような気がする。ホントは、まだ気だるい。
「タマキちゃん達のトコへ戻るまでには……良くなってますように」
個室を出て、元来た道を戻る。ゆっくり歩いて、同じような動作を、繰り返す。
先天性心疾患。産まれたときから私を蝕む、心臓の病気。
最近になって私は友達が出来て、よく遊びに行く。その度に、こうしてコッソリお薬飲んで、発作を抑えてる。
まだまだこの心臓病と付き合っていかなきゃいけない。慣れなきゃ、いけないんだから──。
読んでいただきありがとうございました!
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感想が恥ずかしかったら「^^」とか絵文字でも構いませんよ~




