第41話 戦争なんかじゃない
タマキらに襲いかかった謎の骸骨仮面の男は、もかが召喚したオンロードバイクに体当たりされ、その前面部──カウル部分──に乗せられる形で移送されていた。
無論、骸骨男もそのままとはいかない。『大地讃頌』のリンカー能力で胴体へのダメージは無効化、エネルギーとして蓄積されている。蓄積されたエネルギーを腕へ放出し、カウルを殴りつけバイクを破壊。その衝撃が伝わりエンジンも爆発した。
駅前のデッキで火の手があがる。火炎の中から、骸骨男は何事も無かったかのように出てきた。指でアゴを撫で、考えるような仕草をする。少しの間だけ思案して結論付いたのか、徐ろに先ほどまで戦闘していた場所へ向かおうとする。タマキらの追跡をしようというのだろうか。
しかし、その必要はなかった。
「……1、2、3人、だけ」
ぷらな、彼方、そしてヒカリ。3人だけが、骸骨男の前に再び姿を現した。
「お友達3人を置いていくなんて、あの指示出ししていた少女はどうした? 案外薄情な子だなぁ」
「アナタにタマキの何が分かるのかしら?」
うるさい、と手を挙げ制止。したかに見えたその動作。直後、男は嘲笑の混じった声色で話す。
「ああ、違うか。お友達2人と、お人形ちゃん、だったな」
「あら、私らもずいぶんと有名人になったものね」
ヒカリはまるで意に介さず、指先から詠唱した時と同様の強力な『ニンヒト』を男へ向けて放つ。
「サイエンティフィックスの再開だ」
男は嬉々とした調子でヒカリ達へ向かう。
*
ヒカリの『ニンヒト』が月下の街灯りを割って瞬く。戦闘再開の合図だ。僕の詠唱も間違いなく届いてるのを確認できた。中距離からスキを狙って腕や脚を撃っている。
ぷらなは『ラブずっきゅん』の腕をブンブン振り回して攻撃をヒットさせようとし、彼方は『ジョニー・B・グッディーズ』の3、4号を戦闘機型バックパックに、5、6号をレッグガードにしてヒットアンドアウェイの戦法を、2号を俯瞰視点から戦いの場に注視させ、1号は無線機に変形して僕の手元にいる。
「Purana leave」
「それで、これほどの厳戒態勢に君は意味を見出してると?」
「ええ」
『ホントカー? オ、離レタゾ!』
そのヒカリ達が戦ってる場所から50mほど離れた距離から、僕らは待機していた。
ティナに『Xファクター』の未来視をしてもらい、ルビィさんにはスコープのついたアサルトライフル──P90で狙いを定めてもらっていた。あの時と逆に、僕が狙う立場となる。
『グッディーズ』の1号を借りたのは、俯瞰視点から注視してもらってる2号、もとい彼方とタイミングを合わせるためだ。
「1号……って呼んでいいのかな? 彼方じゃなくて」
『オウヨ! ナンダァ?』
「じゃあ1号。再寧さんともかに避難誘導をしてもらってるのって、なんでだと思う?」
「結局便利だから、でしょ?」
もかだった。『ソドシラソ』は物体を出せれば、あとは中枢であるもかがコントロールすればいい、らしい。だから僕らの様子も見にきたのだ。
「いいかい、もか。いま君と再寧さんがやるべき事は、過去を悔やむ事じゃない。いま傷つけられようとしてる人達の安全を確保することだ」
「わぁってるわよっ! 何も知らないクセにお姉ちゃんをダシにしないでよねっ!」
「したら今度聞きたいな。僕もちゃんと知って、ちゃんと2人と、それから『ちのさん』の事も理解したい」
「……あぁー、もう。アンタもケッコー言うヤツよねっ」
もかは頭を掻きながらも、納得して避難誘導の様子を見に戻ってくれた。
「プリプリしてるね、キミの友達。あまり人の感情に土足で入るものじゃないよ」
「……すみません」
「『結構』、だっけ? 日本語でNo thank youは。キミが謝ることじゃない。キミが友達の事を思って言ってるのなら、適切な距離があるということだよ」
「じゃあ、ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ今の建設的な話をしようか。この作戦の概要を」
「これは戦争なんかじゃないですよ」
「──分かってるよ」
ホントに分かってるのか。いや、こんな作戦を考えた僕も悪いか……。
ともかく、僕らは作戦の確認をする。
「シンプルに、『敵の攻撃のスキを見てライフルで狙撃、捕獲』するのが狙いです。ヤツのリンカー能力は『胴体へ受けたダメージをエネルギーとして蓄積、放出』です。ヘタな攻撃はイタズラに被害を広げることとなる」
「放出した瞬間はエネルギーが無く無防備、そこを狙って私の『アイアンメイデン』で狙撃した弾丸を発射、のちに網に変形させての捕獲。まるでクマだね。日本ではヒグマの捕獲をするというが、アレは麻酔銃を使ってると聞くけど?」
「麻酔銃なんてもの、効果が表れるのに10分はかかるし、そもそも薬剤を僕ら素人が扱う方が危険だ。それに複雑なものを精製するより、単純な網の方がやりやすいんじゃ?」
「うんうん、その通り」
再確認だけじゃない。ルビィさんは僕を試してるかのようだった。指示を出してる手前、それも当然だろうか。
僕は会話を続ける。
「あいつは『ドグラマグラ』の名前を出していました。その名前を出す事の意味を理解してる。もしかしたら『超克の教団』の幹部かもしれません。捕まえるのを優先してるのもそれが理由です」
それと、むざむざ人殺しをさせる訳にもいかないということも。
「ルビィさんも『教団』を追ってるんでしょう? 再寧さんから聞きましたよ。あっ、でもルビィさんは『ドグラマグラ』と手を組んでたけど、アレは……」
「ヤツからの依頼でね。けれど残念、ヤツの方から手を切られちゃってさ」
「あっ、内容はぷらなの誘拐ですよね。何をしようとしてたんですか」
「そこまでは知らないよ。ほら、雑談してる場合じゃないよ」
「Enemy energy charged」
ティナの予知を聞き、僕は即座に『ニンヒト』を唱える。
「キミの相棒を前線に立たせて、キミはこんな所で指示出し。心は痛まないのかい?」
「信頼してますから、ヒカリのこと。ほら、雑談してる場合じゃないんでしょ」
ヒカリが骸骨男の胴体と足元を狙って光線を放った。それに対し骸骨男は、胴体で受けつつ足元への攻撃は後退して避けた。今のダメージ変換が予知通りのエネルギーチャージとなったのだろう、攻撃態勢を取る!
「今っ! ぷらな達下がって、彼方が受け止めてっ!」
ぷらなは足元に手をつけ『ベクトル操作』を発動、二頭身に変身したヒカリをキャッチし、2人を彼方が受け止めた。
それと同タイミングで骸骨男は足を打ちつけエネルギー放出攻撃をし、そして──
黒く小さな鉄球のリンカー──アイアンメイデン──がルビィさんの周囲を舞う。
『Net! Shoot!』
──パァンッ!! ガバァッ!
『なっ!? これは……!』
無線機の1号越しに骸骨男の声が聞こえる。
放たれた弾丸はヒットする直前で、漁業で使われるタモのような大きい網状になり、骸骨男を押し倒して身動きを封じた!
直後、1号から彼方の声が聞こえる。
『聞こえるタマキ! オレだよ、彼方!』
『やったよタマキちゃん! 作戦大成功!』
『当然よ』
『なぁーんでヒカリが得意げなのさぁ。ははっ!』
「よぉーし、これで敵は無力化した! ありがとうみんな! あっ、ルビィさんと、ティナも、ありがとうございます」
「おや、私はみんなには含まれないのかい?」
「あっ、いや……」
「ジョークだよ」
「あっ……ハイ」
自分でも眉間にシワが寄ってるのが分かった。そしてよく分かる、スゴく微妙な気持ちであることが。
ルビィさんに仲間意識を感じていいのだろうか? 今回はたまたま共通の敵がいたから共同戦線を張っただけで……。
「ともかく向かいましょう。あっ、もしもし再寧さん。タマキです」
スマホで再寧さんに電話連絡を取りながら、ルビィさん達と共に捕らえた骸骨男の様子を見に近づく。
僕の50mの記録は10秒。無論、走ってようやくこの程度だ。小学生の平均程度だし、そこらの小学生と競走したら余裕で負けると思う。そのクセ体力は無いときた。カメのように遅く、チーターのようにスタミナが無い。
だからせめて早歩きで向かう。走って行っているルビィさん達の方が断然速い。
「タマキ……遅くないかしら?」
「遅いね〜」
「なんで早歩き?」
「うるさいやいっ……!」
めちゃめちゃツッコまれるし……!
骸骨男は思いの外、大人しく捕まっていた。手足は網の隙間に入り込み、リンカーの装甲が返しになって引っかかっているようだった。それでも能力は解除しないのも妙な感じだけど……。
その骸骨男に僕は質問を投げかける。近づきすぎず、警戒を崩さず。それはルビィさんも同じだった。
「先に、聞く。貴方は何者です? 突然襲いかかってきたのは、やっぱり……」
「驚いたな。まさかこんなつまらないコトをするとは思わなかった」
話の中断。男は網に捕まったままで、呆気なく言うと──
バギッ。
「──え? いっ……!」
「タマキ!?」
リンカーをけしかけ、腕が不自然に延長して攻撃してきたのだ。腕が延びたのだ。男が身にまとってる骸骨の鎧じゃない、全く別の赤い腕だった。
どういう事だ……!? 咄嗟に防御できたけど、2体目のリンカー!? 能力が2つ……!?
「「だったらリンカーを狙うに……」」
「決まってるだろ!」「決まってるでしょ」
考えてる間にも、僕らの考えは揃っていた。『ニンヒト』を唱えてヒカリに攻撃をさせる。僕らとは、僕とヒカリだけじゃない。それと同時に、大きな銃声が鳴り響き僕の心臓が跳ね上がる。ルビィさんだ。3人の思考が揃っていた。
「ルビィさんっ!!」
──何を、僕は怒ってるんだろうか。
「選べ」
淡々とした、重くて、想いの乗ったルビィさんの声だった。
「一の生命を取るか、多くの生命を取るか」
骸骨男から現れたリンカーが『ニンヒト』と銃弾を弾いた。近距離専門のリンカーという事。男はその鎧ごと体を溶けてるみたく柔らかくし、ヌルリ、と網のスキマから這い出た。ゾワリとする光景だ。けど能力は大体予想ついた。『体を柔らかくする』能力だろう。
距離感から見て僕とルビィさんが共に一番近い。ここで敵に先制攻撃できるのはルビィさんだ。頼らなきゃいけない。だから──
「だから言ったでしょ……! これは戦争なんかじゃないっ!!」
瞬間──構えていた骸骨男の両足がデッキに沈む。
「なっ……!?」
『『『Mud!!』』』
見るとルビィさんの黒い鉄球リンカー『アイアンメイデン』が足元にいた。『物質を作る』能力でデッキのブロックを泥に変えた上で戻したのだ!
怯んだその時をルビィさんが見逃す訳がなかった。男の両ヒザ狙ってキック、柔らかくされて防がれたかに見えたが、足をつけたまま男の右手を取り引っ張った。その反動で姿勢を前方に崩された男はよろけ、さらにルビィさんに背中を抑えつけられ完全に前へ倒れた。地につけた両腕も沈められる。
結果、男は四つん這いの態勢で身動きを封じられたのだ!
ルビィさんが、一息ついて、僕の方を見る。
「その通り。これは戦争なんかじゃない」
にこ、と微笑みかける。
「ありがとう」
「……感謝なんか、されるような事じゃないですよ」
ルビィさんは男の方へ視線を戻した。ただ、それだけ。
「最後まで抵抗するとは見事。けど、私相手にそれは悪手だったね」
「まあまあか」
また、男は呆気なくそう言った。けど今度は両手両足共に拘束され、2つはあるリンカーも能力を使えないでいる。余裕でいられる意味が分からなかった。
だが、ルビィさんは少しずつ後退し、僕を、それと後ろにいるティナも庇うようにして、その手を後ろへ向ける。
男は気にせず勝手に話を進める。
「試運転にはちょうど良かったよ。だがここまでやって及第点は我妻 タマキただ一人だ非常に、」
早口でまくしたて、一呼吸。
「残念だ」
今さら僕の名前を知ってても驚かない。ヒカリを人形呼ばわりした会話から身元が割れてるのが分かってるからだ。
僕はもう一度、質問を試みる。
「……貴方は、何者だ?」
男はしょうがない、そう言いたげにため息をつくと、両手足を固められたコンクリートからあっさりと引き出したのだ。まるで泥濘から出るみたいに。
それすらリンカー能力でいつでも抜け出せたんだ、だから余裕だったんだ。
それから、鎧のリンカーを解除して名乗るのだった。
「私の名前だけでも覚えて帰るがいい。カイ・ヴァルター。ご存知『超克の教団』の、幹部だよ」
カイ・ヴァルター。その男性の容姿は先ほど見えたのと同様、右目片方のモノクルをかけ、肩まで伸びた黒いクセ毛。整えられた口元とアゴのヒゲ、それに加え西洋由来の顔立ちの為にどこか品性を感じさせるものだった。
しかし大きく見開いた目から覗く紅く濁った瞳、何よりさっきからの余裕を醸し出す不気味な笑みが異質さを感じさせた。
ルビィさんが、ヴァルターに質問をする。
「では、今度は私の質問に答えてもらおうかな。複数のリンカー能力を行使してるようだけど、それはそういう能力なのかい? そうでないとすれば──」
どこか、覚悟の決まった様子だったのが分かった。いつもの軽快な口調でありながら、透き通るようなルビーの紅い瞳と表情が冷たく、虚空を見つめていた。
「誰かから能力を持ってきた」
ルビィさんの問いかけに、ヴァルターは退屈そうにしていた。
「で? その質問を答えるのに私にメリットがあるのか?」
「じゃあ直接的に聞こうか。『時を戻すリンカー能力』を知ってるか」
その問いかけには、納得したのか僅かに笑みを向けた。嘲笑かもしれない。
「『教団』を追っていれば辿り着けるかもなぁ?」
バンッ!!
ルビィさんがヴァルターへ銃口を向けていた。白い煙を吹くそれは、男を撃つこともなく弾かれた。
「近道を探してるんだ」
冷たい怒りだった。
「い〜い顔するじゃないか」
対して、なんて不気味な笑みだろうか。
撃たれたにもかかわらず、ヴァルターは気にせず僕らを横切る。集まりの解散みたいに、なんでもない様子だった。
「次のサイエンティフィックスを楽しみにしてるぞ。お人形ちゃん」
ヒカリの前を通るときに、そう言い残して。
目まぐるしい戦闘は、アッサリと終わったのだ。
「みんな、無事か!」
再寧さんだった。もかも一緒だ。ヴァルターとは逆方向からやって来た。
「あっ、ハイ。僕らも、民間人も無事でした」
「ああ、良かった。銃声が聞こえてきたが……ルビィ、お前か?」
「悪い悪い、能力ならとっくに解除したよ!」
ルビィさんが両手を上げて武装解除を示した。いつも通りの、軽い調子に戻ってた。
ようやく緊張が解けたのか、僕もくたぁ〜と座り込んでしまった。ぷらな達もだった。
その中で、もかだけはムスっとして再寧さんに向かう。缶コーヒーを、差し出して。
「はいコレっ」
「……え?」
「『え』じゃないわよ、お疲れ様でしたっ!」
もかは再寧さんの手を乱暴に取って、ムリヤリ持たせた。
「……アンタのこと、ちょっとは頑張ってるって、まあ今日ぐらいは認めてあげなきゃって、そう思っただけっ」
口をとんがらせてるのに柔らかい口調のもかに、罪悪感を宿していた再寧さんの表情も緩んだ。
「……ありがとうございます。帰ったらミルクブレンドにして頂きます」
「割るのっ!? お子様舌ねこのチビィ〜!」
「チビっ……!? ムムムムゥ……!」
再寧さんが怒ろうか怒らまいか曖昧な顔になってるぅ……!
そんな2人の間に割って入る彼方。もかに呆れた様子で肩に手をポンと置いたりなんかして。
「大体さ、何でもかんでも突っかかりすぎなんだよ。突進イノシシ女」
「はぁっ!? 何よ突進イノシシ女ってカンペキ悪口じゃない!!」
「猪突猛進女じゃ堅っ苦しくてカワイくないじゃん? イノシシってしとけばカワイイからさ〜」
「カワイくないっ! ふざけんなロックバカ!」
「あっ、ああああのその辺にしときましょうよお二人とも……!」
なんで新しい火種を撒くんだ……! 止まらないし、誰も止めないから僕がストッパー役になるんだろうな、今後も……!
「再寧、それからタマキさん達も。ついでだから私の目的も、ちょっとだけ言っておこう」
ルビィさんが改まって話し始める。
「もし『時を戻すリンカー能力者』と出会ったら、私へ連絡してくれ。彼の大ファンでね、歓迎してやりたいんだ」
ジョークがいつもより余計に多かった。けれどさっきと同じ、作り笑いに冷たい瞳を宿していた。よほどの事なんだ、これは。
「……わかった、くれぐれも無茶はするなよ」
「当然だよ、おまわりさん」
ルビィさんに、ティナもそれに着いていって去る。
再寧さんも、もかも、ルビィさんも。みんな『過去』に因縁を抱えている。戦場帰りだというルビィさんは尚更だろう。
昼に見た銀色の手──義手、だろうか? 今日初めて知った。それも『過去』と関係があるのだろうか?
そのルビィさんが話した目的。『時を戻すリンカー能力者』。そして今日現れた『カイ・ヴァルター』。『超克の教団』の幹部を名乗る男。
みんなが抱える『過去』は全て『超克の教団』に繋がってるのだろうか──。




