告白を受けて
「幅木さん……」
「私、気づいたんです。風原先輩のことが好きなんだって」
幅木さんは声も体も震わせている。私の心拍数はきっとアレグロよりも早くなっている。
私も幅木さんのことが好きだ。ただ、likeなのかloveなのかはっきりしなかった。周りからは何度か幅木さんとの仲について何回か聞かれたことがあるが、loveではないと否定していた。
だけど私の生理的な反応を見る限り、loveの方じゃないかという気がしてきた。幅木さんはおとなしいけれど本のことになるとイキイキとしている。本のことなら何でも知っている。バイオリンの演奏も素敵だ。
周りのカップルの噂話を聞いていると、好きだなと感じたらとりあえず付き合ってみるという感じでカップルが成立したケースが結構ある。それならば私の答えは……ああ、自分も体が震えてきた。
私は手を差し出してハチマキを受け取ろうとしたが、ふと、私の中に残っていた冷静な部分が引き止めた。
恋人を作るのは互いの人生を変えるということだと、誰かが言っていた。とりあえず、という理由ではないにしろ、いきなり返事をするのはあまりにも軽すぎはしないだろうか。
つき合っているうちにきっと幅木さんの嫌なところが見えてきて、私の嫌なところも幅木さんに見られてしまうのだろう。それでも嫌いにならず、つき合っていける覚悟は私にはあるのだろうか。例え幅木さんにはあるとしても、私には……。
傍から見て情けないと思われる選択を、私はした。
「少しだけ、考えさせてくれないかな……」
目を逸らして答えた。
「そうですか……では、いったんお返しします。こういうのは、お互いじっくり考えた方がいいですよね」
幅木さんは伏し目がちにか細い声で言うと、ハチマキを返してきた。
「それでは、失礼します」
「あっ、うん、お疲れ様……」
幅木さんは中等部桜花寮の方へトボトボと戻っていった。もしかしたら失望させてしまったんじゃないだろうか。にわかに胸が苦しくなりだした。
結局、私は逃げているだけじゃないのか。
「あああ、もうっ!!」
私は自分の頬を思いっきりひっぱたいた。
「痛ったあ!」
自分で叩いておいてあまりの痛さに涙がにじみ出てくる。ますます情けない気持ちになった。
とりあえず部屋に戻った私は大浴場ではなく、部屋のシャワーで体を洗った。菊花寮ともなるとシャワーがついているのがありがたいが、少しはすっきりしたもののどんよりした心を晴らすまでには至らなかった。
そのせいで思考回路までが故障したのだろうか、私は何を血迷ったのか、シャワーから出ても服を着ないまま室内をウロウロとしはじめた。
姿見に自分の姿を映してみる。あばら骨がうっすらと浮き出ているが、これでも昔よりは肉がついた方だ。星花に転校した直後はもっとガリガリだった。それだけ精神的に参っていたのだ。
肉に見合う分だけ、心も成長できていたらと思うとため息が出てしまう。こんな感じでネガティブな感情が破裂した下水管の汚水みたいにどんどん漏れ出てくる。何か別のことで気を紛らわせないとダメだ。
そこで本を読むことにした。漫画でなく小説を。活字を読むのに人一倍頭を使うから、その分ネガティブな気持ちも薄らぐだろう。
しかし生憎、今の手持ちの小説が文芸部の冊子しかない。去年の星花祭で頒布されていたものだ。
ベッドに仰向けになってページをめくると、ゲスト投稿者コーナーの「プリンス」の書いた『小説 日本昔ばなし』が目に入る。何度も読んだ、皮肉がこもった寓話めいた物語。前から作者が誰なのか気になっていたが、最近は体育祭やら部活やらで気にする余裕がなかった。
「プリンス、君はいったい誰なんだ?」
冒頭に書かれている作者名を指でなぞる。するとどういうわけか、唇に何か触れた感覚が走った。
「うわっ!」
びっくりしてつい、飛び上がった。あまりにも生々しい感触は言葉では上手く言い表せないが、ほんのり熱くてジンジンとしたものだ。
「疲れてるんだな……」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。体育祭での肉体的な疲労に加えて、古屋さん京橋さん、幅木さんのことがある。明日古屋さんが部活に来れるかどうかより、私が部活に行けるかどうか心配だ。




