集う獣
「つぐみんちゅきちゅき」
焼肉チェーン店。その個室で七輪を囲む2人。つぐみと、その向かいに九尾狐。猿回村消滅、もとい焼滅から3日後の事である。
「いっぱい食べろな。今日は俺が奢っから」
九尾狐はニコニコしながらそう言って、つぐみの更に焼けた肉を次々と放り込んでいく。
「いや自分で育てるからいいっす。てかさっきから狐さんのくれる肉ちょっと焼き過ぎて硬いし……なんでこんな牛タンをカピカピに出来るかな……」
上機嫌な九尾狐とは反対に、つぐみは焦げ気味の肉を不機嫌そうにつついている。出された食事を残す事はしたく無い故、仕方なく食べているが、本来焼肉は自分のペースで進めていきたい。
「僕の事より、狐さんは何がどうなって、味方にする予定だったお爺さんを燃やすなんて事になったんです?」
「いや、違うんだよ。なんていうかさ、その、ついカッとなって……」
「組織のボス向いてないって……全く、僕はちゃんと仕事したっていうのに」
つぐみは九尾狐に渡された肉を一気に口に放り込んで、3回ほど咀嚼して飲み込む。そして改めて、自分用にカルビや赤海老を七輪の上に乗せた。
「いやマジでお手柄だわ。ぶっちゃけ予想外の仕事っぷりに俺感動したもん。だからご褒美の焼肉」
「運動部みてぇなご褒美。僕運動部だったわ」
「何を1人で言ってんの……お、石焼ビビンバ! 俺が混ぜる! 俺が混ぜる!」
嬉しそうにビビンバを混ぜ、ガツガツとかき込む九尾狐に呆れた視線を送りながら、つぐみは肉をひっくり返しつつ話を進める。
「とはいえ、なんかいける気がするってだけだから、実際どうなるか分かんないっすよ? なんとなく『あの2人』なら上手く適合してくれるんじゃないかなって」
「ほれならもうかいへつひは」
「あん?」
大量のビビンバを口の中に入れ、リスみたいに頬を膨らませながら喋るので、内容は意味不明。にも関わらず、自信満々にドヤりながら親指を立ててくるので普通にムカつく。
苛立ちで目を細めるつぐみに「ちょとまへ」と急いで咀嚼し、飲み込んでから、九尾狐は改めてドヤ顔で言う。
「それなら、もう解決した」
「あっそ、それは良か……マジで?」
危うく流しそうになったが、どうやらつぐみが適合者候補として連れてきた2人は、既に九尾狐の手によって同族へと昇格しているらしい。まだ一週間ほどしか経ってないのに。
「いや、アレか、適合者だったってだけでしょ? 僕みたいな『完全体』にはまだまだ」
「『完全体』にもなった。特に志音の方は強力だぞ」
「……なんだ、これがビギナーズラックて奴か。やった事も無いソシャゲの初回10連とか、やたら良いキャラ出るもんな……それと同じか」
1人でうんうんと頷きながら勝手に納得するつぐみに、九尾狐はニコニコと笑顔を向ける。
「いやー、ほんっとに良い働きしてくれた! 俺が2人殺しちゃったのに対して、2人増やしてくれたんだから! プライマイゼロ! 寧ろこれからの活躍によってはプラスになるかも!」
「2人殺した? お爺さん以外にも誰かいたの?」
「気にすんな、やむを得なかったんだ。そんな事よりさ、そんな優秀なつぐみに新しい仕事をお任せしたいなー!」
「えー! 今終わったばっかじゃん! まだ働けって?」
「社会ってそういうもんよ」
「社会を語るなら自分のミスを誤魔化さずちゃんと報告してください。ポジション的には僕の上司みたいなモンでしょ? 部下に対してそんなんでいいの?」
「社会ってそういうもんよ」
「なんだコイツ」
「いや、言うて急を要するものじゃないから。今回つぐみが連れてきてくれた2人の事」
ジョッキのビールを一気に飲み干して、九尾狐は続ける。
「2人とも完全体にはなった。ただ、意思として残ってんのはヒト側なんだよね」
「……ヒト側、僕と同じで現代人が完全体として覚醒したって事か……それが何か?」
「面倒みてやってくんない? 歳も近いから話もしやすいだろ?」
「……なるほど、最初からその目的で今日呼んだわけね」
その言葉に九尾狐は眉を顰めて抗議する。
「ちゃんとご褒美の意味もありますー。つかちゃんと金銭的な報酬も用意してんだよ。とっとと口座番号教えろ虎ぴっぴ野郎」
「え、意外とちゃんとしてる。つか、こんな上位存在みたいに変貌しちゃっても金ってその力を発揮するんだ、すげ」
「金は偉大な発明だぜ。感謝しろよ」
「アンタが作ったんか、金という概念を」
「いや、知らん人が作った……」
「なんだコイツ」
「とにかく教育よろしくね。先輩として、新たな力に戸惑う後輩をちゃんと導いてあげるんだよ」
「それは全然良いっすよ。むしろ、僕も是非友達になりたいと思ってたし」
そこで初めて、つぐみは楽しげな、でもどこか怪しげな笑みを浮かべた。何か企んでいるというよりは、これから起こるかもしれない数多の『楽しい事』に心を躍らせているような。
彼のそんな表情を見て、九尾狐もニヤリと笑う。己の悲願達成のピースが、着々と揃ってきている確かな手応えを感じるのだ。
狐の元に獣達が集う。人である事を捨て、化けの皮が剥がれた獣達が。
「楽しみだねぇ」
「楽しみだなぁ」
狐と虎の声が揃う。それは、新たな脅威が誕生する予兆、合図なのかもしれなかった。
「聞かせてくれよ、どうやってあの2人見つけたんだ」
「いいよ。ゲーセンで別れてからすぐの事だったな、僕はそのまま学校に向かってさ……」
「おお、なんか面白そうな話が聞けそうな予感」
九尾狐が、不敵な笑みのままカルビを一枚摘んで食べる。
「あっ! ねぇええ! 人の育ててた肉取らないで!? マジでそれはやめよ!」
「何これ、ちょっと生っぽいんだけど。火力低いとこに放置してるからよく焼けてねぇんだよ。ちゃんとボウボウと火が燃え盛ってるところに置かねぇと」
「何でもかんでも強火で燃やせば良いってもんじゃないの! カルビは脂肪が多くてやわらい食感を楽しみたいからあえて弱火でゆっくりしてたのに!」
「肉はよく焼いた方がいいだろ、完全体のお前には食中毒とか関係ねぇけど、なんか気持ち悪りぃ」
「そんなのモノによるでしょ! ホルモンはよく焼いて欲しいし、タンやツラミは数十秒で良い」
「はえー、詳しいのね。これさ、タンひっくり返したら上のネギ塩が全部七輪の中に飛び降りしていくんだけど、どうやって焼けばええの」
「ひっくり返すんじゃねぇわよ! 片面焼いたら折り畳んでちょっと蒸し焼きみたいにすんの! あーあー勿体無い! もう貸せ! 僕が焼く!」
「やめろ! 焼肉は自分のペースで焼いてこそ楽しいんだろうが!」
「なんだコイツ!!!!!!!」
九尾狐の中に、消滅した村や、焼き殺した老人への後悔や罪悪感など、微塵も残ってなかった。
こうして、存在しないはずの都市伝説の村は、突如として再び存在しない村へとなってしまった。
その村がもう一度現れる事は、多分二度と無い。




