敵だらけ
牙を剥き、唸りながら虎を睨みつけるアサ。しかし、失敗したな、と思っていた。やれるタイミングはあったのに、どこかで躊躇してしまった。強がりでは無く、情報を聞き出そうだなんてくだらない理由の為に、決められるところをあえて外してしまった。
例え有益な情報を持っていたとしても、人間を大量に焼き殺す様な奴に容赦などする必要など無かったと言うのに。そんな奴が、元気な状態で、ペラペラ素性を話すなんて事あるはずないのに。躊躇せず痛めつけて、無理矢理吐かせるべきだったのに。
その結果がコレ、この状況だ。結局お互いの間合いに入ったまま膠着状態、ならいいのだが、実際に動けないでいるのはアサの方だった。
敵の能力が分かっている。分かっているからこそ動けない。
(ネズミにしろ牛にしろ、異質な能力ではあったけど、なんやかんや物理的で戦いやすかったからなぁ……今回のはそうはいかんわね)
今までの怪異の能力は、言ってしまえば身体強化に過ぎなかった。棘が生えて飛ばせたり、武器に取り憑いてどんなものでも扱えたり、それこそアサ自身の能力でさえ変身による全体的なステータスアップだ。八夜と意識を交代できて、攻撃力に振るか防御力に振るかというバリエーションはあれど、結局はその程度である。
しかし、今回の虎は少し違う。電気というエネルギーを操るというまるで魔法のような能力を持っている。怪異の中でもかなり珍しいタイプだ。どれほど扱えるのかまでは現時点で不明だが、自身の体に纏うぐらいは出来るらしい。その電撃の威力は、足元に転がる犠牲者が証明している。
(つまりうっかり触れない、さっき頭殴れたのは奇跡に近いな……どうしよっかなーこれ……超能力者め、私の天敵じゃんよ)
『なにやら考えているな、俺は考えるのは苦手だが、ほんの少しなら分かるぞ、お前は、俺のビリビリが嫌いらしい、近付けないということか』
『は? 別に? 珍しい能力だなーって思っただけだけど? ビビってないし別にそんなん……それよりさ、アンタのソレ、適合者なわけ?』
話を逸らすようにアサは虎を指差して言う。
『ああ、そうらしいな、運が良かった』
『見つけた事もそうだけど、よく取れたね。知ってる? 私達みたいなのをぶっ殺す組織があるんだよ、通報されてたら、馴染む前に殺されてたかもよ?』
『そんな奴らがいるのか、だが、俺はちゃんと貰ったんだ。くれと言ったらくれた、良い奴だぞ』
『へぇー、でもまだ本人の意識はあるみたいじゃん? さっさと奪わないのはなんで』
『約束があるからな、それに、俺は物事をよく知らないから、教えてもらっている』
『随分と仲良くするんだ、どうせそのうち奪い殺すのに?』
『俺にとって得になる、良いことしかないぞ』
良い奴だ、と言う割には、虎本人に人間に対しての愛着は無いように見えた。あくまで利用出来る便利な奴、ぐらいの認識なのだろうか。
(いや、コイツは多分そんな深く考えてないな、律儀に約束守ろうとかしてるあたり、バカ素直ってだけなのかも……)
それなら、とアサはスッと両手を上げて言う。
『なんの真似だ?』
『いやぁ、勢いでバトる展開になっちゃったけどさ、私は別にここに転がってる奴らの仲間じゃないんだよね、殺されそうなら助けてあげようと思っただけで、手遅れだった今、アンタと戦う理由が無くなっちゃったんだ』
『急に襲われた俺の方には戦う理由があるぞ』
『それはごめん、ってか、アンタも私の事ぶん殴ったからそこは言いっこなしでしょ』
『それもそう……なのか……? ぐるぅ、ならおあいこになるのか』
虎は唸りながら首を傾げる。
『よーし、じゃあ仲直りの握手をしよう。なんてったって怪異同士なんだから、協力して生きていかなきゃね?』
そう言って、首を傾げたままの虎にアサは手を伸ばす。
『握手……おい、これは……どうすれば良い? 手を掴めば良いのか?』
『握手知らないのか……そうそう、私の右手と、アンタの右手、お互いが握り合うの』
『それになんの意味がある?』
『友好の証って感じだよ、今日から私達は友達って意味になる』
『ほう、仲間か、仲間が増えるのは良い事だ、是非とも』
ぐるる、と機嫌良さそうに唸りながら、虎はアサの大きな右手を握る。こうしてウサギと虎の怪異コンビが誕生する────はずがなかった。
虎の手を強く握り、ぐいっと引き寄せる。そのまま前のめりに体勢を崩した虎の顔面に勢いよく膝を打ち込んだ。
『ぐぅッ』
鼻から血を噴き出しながら仰反る、しかし、アサは虎がそのまま倒れる事を許さなかった。
『もういっぱぁっつ!』
掴んだ右手を再度引っ張り、もう一度引き寄せてから、今度は虎の顎を蹴り上げる。
攻撃は見事に全て直撃し、今度こそ虎はぐったりと仰向けに倒れた。
しかし、そこで攻撃を止めるほどアサも浅はかでは無い。もう躊躇はしない、確実に首を千切り落として息の根を────
────止めるはずだった。
『いっっったぁぁいっ!』
虎の首に手を伸ばした瞬間、バチッという音と共に弾き返された。まるで掌を叩かれたような衝撃、そして後に続くジンジンと響く痛み。見ると、掌から白い煙がぷすぷすと上がっている。元々ナイト・ウォーカーの体色は赤黒いので分かりにくいが、恐らく黒く焦げついているのだろう。
とてつもない電圧で弾き飛ばされた、変身してなければこの程度では済まなかっただろう。
『このやろぉ……』
『だんだんと、自分の能力というものが分かってきたぞ。このビリビリ、ちゃんと使えば俺に攻撃できる奴などいなくなるな……特にお前みたいな奴には有利なようだ』
虎はムクリと起き上がり、鼻を擦りながら言う。アレほど強く叩き込んだというのに、鼻血を垂らさせただけ、ダメージというものはほとんど与えられていないようだった。
なんか丈夫になってない? いや、今思えば、呻き声をあげてはいたものの、初撃から今まで外傷を与える事は出来ていない。この虎、想像の何倍も強いかもしれない。
『さて、この嘘つきウサギめ、お前俺を騙したな? 友好関係を結ぶなどとほざいたくせに、攻撃を仕掛けてきやがった』
鋭くアサを睨みながら虎が言う。
『人をいとも簡単に殺すような危ない奴と友達になんかなるか、ゆくゆくヨルやその友達を傷つけるかもしれないんだからさー』
『何の事だかさっぱり分からんが、そいつらが俺に何もしてこなければ俺だって何もしないぞ、さっきも言ったが、転がってる連中は俺に攻撃を仕掛けてきた、だから殺した』
『当然の事のように言われてもねぇ、やられたからやりかえす、までは分かるんだけども、なんで殺すまでいっちゃうかな』
『生き残る為には必要な事だろう? 俺達はいつだってそうやって……いつだって? いつ? 俺は……いつから』
虎は自分の言葉を繰り返し、首を傾げ、違和感の正体を探る。
『俺は……俺はいつからこうなった? ずっとこうだったわけじゃないのは分かる……しかし、それはつまり、こうなるより前の自分があったという事か? なんだ? なんなのだ? この訳のわからない感覚は……俺は、何を忘れている?』
突如自分の頭に浮かんできた謎。正体不明の何か、その不安で虎は苦しそうにぐるると唸って顔を歪ませる。
そんな虎を見て、アサは『……アンタもか』と呟いてからため息をこぼす。
『まぁそうだろうなとは思ったけど、でもコレで、ますます私が最初に攻撃の手ェ抜いたの意味無くなったじゃんよ』
がっくりと肩を落とすアサ、そんな彼女の様子を見て、虎は唸る。
『お前……何か知ってるのか? いや、知っているというより……覚えているのか?』
こちらを睨みつける虎に、アサはニヤリと口元を歪ませて言う。
『アンタの事なんか知らないよ、私が知ってるのは私の事だけ、つっても完全にでは無いけどね』
丸一日、やむを得ず八夜との融合率を高め、彼女の記憶を頼りに自分の事を深く思い出してみた。その結果八夜に良くない影響、例えば意図して無いのに身体能力が異常に向上したりしたかもしれない。その所為でかなり迷惑をかけてしまったかもしれない。
マジでごめんヨル。
しかし、その分収穫はあった、というより、色々思い出した。思い出してしまった。
今までよくもまぁ、自分はこんな曖昧な状態でうまく立ち回れていたもんだ。無意識に嘘が吐けないという嘘まで吐いて、親友を守るという最初からあった強い感情、アレだけで。
全部では無いが思い出した事、でもはっきりと確信出来た事。
ヨルを守る。何が何でも、誰が相手でも。
その為に、敵の正体ぐらい掴んでおきたかったんだけど、全くもって何の手がかりも無い。厄介なのが、敵の正体をアサが忘れているのか、本当に知らないのか、そこが分からないと言うところだ。
(もうちょい時間がかかりそうだな……ただ何となく分かるのは……やっぱ守る為には関わらない事が一番だって事なんだよなぁ……)
『まぁとにかく、何にも知らないならアンタに用も価値も無いや、大人しくくたばってちょ』
そう言うと、アサは拳を虎に突き出す。
『お前……俺より馬鹿なんじゃないのか? 俺のビリビリがある限り、お前はまともに攻撃できなかっただろう』
『はんっ! そんなもん、天才の私はとっくの昔に攻略法を見つけてるんだ!』
『ほお、奇遇だな、俺もお前をあっという間に炭にする方法を思いついたところだ』
虎とウサギが睨み合い、徐々に距離を詰めていく。策がある者同士、自信たっぷりに、相手の領域に踏み込んでいく。攻撃が決まれば一撃で決着がつく、そんな戦いが、後一歩で始まる。
あと一歩。しかし、その歩みが、共に止まる。止まって、互いが視線を外し、一方向を凝視した。
その先に感じる、悍ましい殺気に、ウサギと虎の戦意の対象は一瞬で変更された。虎は全身の毛を逆立て、ウサギは睨みながら唸る。
『おい……なんだ、増援か?』
『バカ言わないでよねぇ……つか、この感覚って!』
公園を囲むフェンス、その向こうにある森の木が揺れた。同時に、何かが光ったような気がした。それが何かと考えるよりも先に、正体の方から現れた。
虎とウサギの首に、二本の刃が向かってきた。
『『────ッッッッ!!!!!!!!』』
咄嗟に、互いを蹴り合って、反発する磁石のように跳ね飛び斬撃を回避する。決して協力したわけではない、ただ、互いに丁度いい壁があった、その程度の認識だった。
共闘など頭に無い、そんなつもりは毛頭無いが、敵の認識が、不本意ながら共通になった。
ウサギと虎の間に現れた乱入者。両手に日本刀らしき武器を握る、白い制服に身を包んだ小柄な少女。その顔はまるで人形のように整っているが、その表情は人形のようにピクリとも動かない。
動かないが、こちらを交互に睨むその瞳からは、思わず身がすくんでしまいそうなほど強烈な殺意が満ちていた。
「……強そうなのが二匹もいる、しかも避けられた……」
少女は呟いて、刀を虎とウサギに向ける。
「ムカつく……めちゃくちゃムカつく……大人しく斬り殺されてば良いのにさ……」
『……昨日の』
ゴクリと唾を飲み込んで、アサは声を絞り出す。その声に、少女、深夜琴音はピクリと眉を動かした。
「……いたね、昨日……というか、ウサギか……そっか……どうしよ……班長とかみんなに言ったほうがいいのかな」
俯いて、深夜はぶつぶつと呟く。その間も、刀の切先はしっかりと二匹の怪異に向けられたまま動かない。ウサギは経験から、虎は直観的に理解する。
隙だらけに見えるこの少女、しかし今襲い掛かろうものなら、次の瞬間には自分は地面に散らばっているのだろうと。
『おいウサギ、知り合いか? 何者だこの強人は』
『私が知りたいんだよそんな事……昨日見たけど、怪異を一方的に殺戮できるヤバい奴……それぐらいしか分からん』
『……あり得るのかそんな事が? しかし……うーむこの気配は……』
「うっさいなぁ……これからぶっ殺される奴らがペラペラとさぁ……立場とか、身の程? とかいうのを知りなよ」
『小娘、お前に命を狙われる筋合いはないぞ、俺はお前に危害を加えるつもりは無い』
虎が言うと、深夜は辺りを見渡し、小首を傾げた。
「……人死んでるけど」
『ああ、コイツらは俺に襲いかかって来たから』
「……だから?」
『だから、襲われたから抵抗した、その結果死んだ。何の問題がある?』
深夜は、虎を睨んだまま三歩ほど後ろに下がり、二匹の怪異の姿を正面に捉えられるようにした。そのままチラリと転がっている焼死体を見て、小さく頷く。
「この人達は人間で、私も人間。人間同士、みんな大切で大事な仲間、それをこんな風に殺されちゃあ……仇討だってしたくなる……でしょ? いやむしろ、仇討しなきゃいけない……でしょ?」
だから、と言って深夜は、無表情のまま、それでも殺意をたっぷり込めた眼差しを虎に向ける。
「私はお前の命を狙う筋合いがあって、お前は私にぶっ殺される義務がある、そういうこと……人類に仇なす害獣は、しっかり駆除しなきゃいけないんだよ。怪異は、殺さなきゃ、慈悲なく容赦無く徹底的に執拗に完膚なきまでに心ゆくまで殺し尽くす……ね」
ふらふらと刀身を揺らし、一見不安定な構えを見せる。ふらふらと言うか、ぐらぐら。ぐらぐらと言うか、ふにゃふにゃ。刀の揺れは、やがて深夜の全身にまで広がっていく。
まるで今ここで眠るのかと思うほど、深夜の身体からおおよそ力と呼べるものが抜けていくのを感じる。
深夜の瞼が閉じて、いよいよ本当に寝てしまったのかと思った時だった。
目の前から、深夜の姿が消えていた。
『あ』
虎が何か言おうとした。しかし、言葉よりも先に出たのは、噴き出たのは、鮮血だった。
『ぐぅうううううぅうぅっ!?』
首の左右から噴水のように血を撒き散らしながら、虎はよろよろと後退する。
彼女、深夜琴音は、いつの間にか虎の目の前にいた。虎の首を挟むように、刀を突き出している。
『いづ……のま、にっ!?』
「あぁー? また斬り損ねた……なんか弾かれた? 特殊能力持ってるのー? だるー」
怪異の目で捉えられないほどの瞬足。もはや瞬間移動の域に達していたと思う。
アサは、心底標的が自分じゃなくて良かったと内心ホッとしていた。だって見えなかったのだから、アレがあのままこちらに向かっていたら、間違いなく首は落とされてた。
関わっちゃいけない存在、まさにそのものだった。
「抵抗しないでよ……今度は落とすからさ、私も早く帰ってやりたい事色々あるんよ」
深夜が再びゆらりと構える。その姿を見て、虎は『ぐるぅっ』と焦ったような唸り声をあげ、アサに向いた。
『ウサギ! 一度共闘しろ! 俺が死ねば次の標的はお前だぞ!』
『はァ!? ふざけんな! 何で私が』
『協力すれば勝てる! 行くぞ!』
そう言って、虎はアサの元に飛び込んできた。
それを追うように、刀を構えた深夜の視線がこちらに移る。、
『クッソ! 勝手に! 一体どうすれば!』
『簡単だ!』
そう言って虎はアサの背後に立ち、深夜に向けて、思い切りその背中を蹴った。
『は?』
突然の事に対応できず、されるがままに、自分の意思とは関係なく、アサは深夜に突っ込んでいく。
本人も予期せぬまさかの突進。しかし、それでも深夜は驚く事も焦る事もせず、ただやるべき事をやるだけ、当たり前の事をするだけだと言わんばかりの、流れるような動きで、向かってくるアサに刀を振った。
二本の刃が咄嗟に堅めたアサの両腕を撫でる。緩やかに、撫でられただけのように見えた。しかし、アサの巨体は右方向に流れるように倒れ、その直後、両腕がパックリと割れて、血がボタボタと流れ出した。
『〜〜〜〜〜〜っ! お前なんのつもり────ああっ!?』
睨んだ先に、既に虎の姿は無かった。
あろう事は、囮に使われたのだ。勝てないと分かるや即退散、しかも手段は問わないと来た。
油断した、あくまであの虎も敵だった。ここに味方なんて一人もいない、敵だらけの状況で、虎の接近を許してしまった。
その結果がこれか。
『くっそ! これどうすれば』
「どうもしなくて良いよ、じっとしてれば首が落っこちて終わりだから」
気づいた時には、既に深夜が刀を振り上げていた。
────死ぬ。
覚悟なんてしていない。事実を受け入れる暇もない。ただ、突きつけられた現実を認識するしかない、目に見える死を、確認する事しか出来ない、次の瞬間には頭が地面を転がって
「きゃああああああああっ!」
耳をつんざくようなそんな声が響いて、深夜の攻撃が止まる。ハッと我に帰ったアサは、地面を思い切り蹴り上げて、砂埃を巻き上げた。
砂の煙幕が効果を発揮しているのか、そんな確認をする事もなく、再度地面を蹴り上げて、アサもその場から飛び去った。
後に残ったのは、黒焦げの死体と血塗れの刀を持った少女、そして、そんな現場を目撃し、悲鳴を上げた哀れな少女だけだった。
「……逃げられた」
「えっ!? えぇっ!? ちょっと……深夜ちゃん!? なにこれ……どうなってんの!?」
公園の入り口でパニックになっている彼女に、深夜はぷくっと頬を膨らませる。
「……大橋先輩、急に大声出すからびっくりした、びっくりしました。敵まで取り逃しちゃったし……逃がしちゃいましたし……」
「て、敵って……どういう事なの……なんで、深夜ちゃんが、というか……この周りに転がってる黒いのって……」
そう言いながら、ぶるぶると震える静に、深夜はため息をひとつこぼす。
「ここには危険な怪物がいるから、近いちゃダメ、ダメです。管理局が後は何とかするから……しますから、帰ってください」
「でも深夜ちゃんは」
「いいから、いいですから、言う通りにしてください」
深夜の目と語気に若干の怒りを感じた静は、震える両膝を摩って、何度も頷いた。
「わ、分かった……帰る、帰るよ……あ、でも、ねぇ深夜ちゃん」
「はい?」
「八夜……朝私と一緒にいた子見なかった?」
「見てないけど、ですけど」
「わ、分かった……ありがと……その、なんていうか、き、気をつけてね」
それが正しい言葉かどうか分からなかったけど、静はそう言って、震える足を必死に動かしながら、公園に背を向ける。
「あの」
しかし、帰ろうとしたその歩みは、背後からの声に止められた。振り向くと、いつの間にやら深夜がこちらに近付いていた。
「……あ、なに」
「わざと?」
「え?」
こちらを覗き込む深夜の目、睨まれているような気がして、なのに不思議と逸らす事が出来なかった。
「……どういうこと?」
「…………」
絞り出した答えに、深夜は反応しない。しかし、やがて背を向けて「なんでもないです」と言って、再び公園の中央へ向かって行った。
「…………」
固唾を飲み込み、逃げるようにその場から静かは去る。
「……嘘吐き」
深夜は静の背中を横目で見ながらそう言った。




