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救援に向かう燈たち

その日の深夜にケンジ達は街を出発した。


選抜パーティの第二の拠点から、ダイゴが予め用意していた回復薬等の装備品を服に詰め込んだ。瓶の中の液体は緑色で不気味さが漂っているが、<<アッシュ・ベヒモス>>と対峙した際に、既に何度か飲んだ経験がケンジにはあった。かなり貴重なものであることから「使い所に困りそう」と話すモモカは大量に服に詰め込んでミライに「欲張りません」と軽く頭を叩かれていた。


最終的にはケンジは大きなリュック背負うことになった。中にはポケットと同じように回復薬の瓶が大量に入っているのだが、これはあくまでエナキの為である。



コウガは最後の最後まで奥の部屋から出てこなかった。もしかしたらもうこの街から出ていってしまったのかもしれない。ダイゴとティア、ミライが何も言ってこないからケンジには分からない。


寝込むミキジロウを連れて行けるわけもなく、誰もこの場所に残らないので心配だったが、ここに置いていくしかなかった。容態は安定しており、ティア曰く、酷かった右腕もなんとかなりそう、とのことだった。その言葉を信じ、ケンジとモモカはお礼を言った。



結局のところ、5人のパーティ編成となった。残っても構わなかったモモカは、自分の兄だから、と同行することになるも、5人だ。数が多いのか分からないが、少し心許ない人数だなとケンジは思った。どうしてもあの怪物のような魔物が頭の中を通過し、戦闘になった時のことを思い描いてしまう。同時に、他の人に助けを求めることもできず、かなりに自分達が追い詰められている、ということをケンジは改めて実感していた。



町の門からではなく、壊れかけの外壁を抜けてケンジ達は森の中へと進んでいく。


「ケンジ君、大丈夫?」


「大丈夫だ」


「辛かったら荷物持ち変わるから言ってね」


荷物も持っている状態ではあるが、進みはやや早足だ。時間はあまり残されていない、というのは選抜パーティの拠点で既に話し合っていた。


急ぐ理由は主に2つある。


1つ目はケンジ達の命を狙ってくる者がいるからだ。タクマサは誰かに脅され、自分の仲間でもあった燈を殺めた。従って、まだ誰かがケンジ達を狙ってくるはずだ。ミキジロウも街に1人で残していく以上、またこの街をすぐに出ることも視野に入れている以上、長い時間を救助に使うのは得策でないというダイゴの考えだった。


2つ目は、若干だがモモカの髪留めに中にあるエナキの魔力が弱まっているのだ。赤色に輝くその光が僅かにだが失われている。つまり、その魔力の持ち主の生命力が弱まっている証拠であり、エナキは衰弱しているのである。一刻の猶予もない状況なのかもしれない。



再び戻った洞窟はやけに静かで、かつ不気味であった。



多くの者が行き来したのだろう、湿った地面は人間の足跡で沢山だった。ところどころで剣や、杖、国旗やらが泥に埋もれたり、岩の上で横たわったりとあちらこちらで散乱している。明らかに新品で使えそうな武器や防具もあったのだが、誰も目もくれず、ただ目指すは洞窟の奥地だった。


『既に作戦場所までは王族の兵士が救助している。おそらくエナキがいるとしたら奥地だろう』


ダイゴの推理に異論を唱えるものはいなかった。ケンジも賛成だった。最後にエナキと別れた場所を考えても、地上に上がる道を進むよりか、奥に行く道の方が近い。洞窟の奥地に行くには<<アッシュ・ベヒモス>>が現れたあの道の先を進まなければいけない。ティアが地図を広げて道を確認してくれていた。



遭遇する魔物はダイゴとケンジ、ティアが相手にした。モモカとミライはできる限り温存しておきたかった。体内の魔力は有限であることから、強力である魔法は強敵が現れた際に使いたいとのことでケンジ達が頑張るしかなかった。


アンデット系の魔物でさえダイゴは1人で片付けてしまう。斧を振り回し、聖水を手際よくかけ、浄化していく。ケンジ達は4人で仕留めたのだが、単騎で仕留める辺り流石選抜パーティの実力であった。おかげでケンジはほぼ出番がない。せいぜい魔物の攻撃を抑えて、その隙に後方のティアに処理してもらう。


ティアの戦い方は弓であり、矢を外すことなく、的確に魔物を仕留めていった。ケンジの体をすり抜けるようにして魔物に矢が刺さっていくわけだが、その攻撃はあと一歩違えばケンジにあたりそうで何度もヒヤヒヤさせられた。


「エナキに不可解な点はいくつもある」


あらかた進んだところで、ダイゴが突然口を開いた。以前戦闘は続いているのだが、お構なしだ。今もケンジの目の前に槍が飛んできたが、刀で応戦する。修羅場を潜り抜けてきたということもあって、ケンジは息苦しさを感じることはなかった、思い向くままに刀が触れているような気がする。


「アイツがパーティにこだわっているのはわかった。だが、手配書や色々勘づくのはやはりできすぎている気がする」


ケンジは後ろに合図を送った。ティアに後ろから援護射撃をしてもらうのだ。


「でも、ダイゴさん達も選抜パーティで―――」


「ドーバンには訓練時後にも手紙が送られてきてな」


被せるようにダイゴが話してくる。斧でアンデットは真っ二つに切り裂かれた。


「手紙?」


「そうだ。手配書の方が稼ぎの効率がいい。燈の差別があるから店を選べ、とかな。とにかくそういった指南があったからこそ俺たちは資金に困ることはなかった」


飛んできた矢が頭蓋骨に命中した。すかさずケンジはスキルを使って追い討ちをかける。


「エナキにも、そう言った助言をくれるような人がいたってことですか?」


「そう考えているが…。もしかしたらコウガに教えてもらっていたのかもしれないがな」


なるほど、という気持ちがケンジには強かった。少なくともケンジには今までなかった考えであった。エナキが手配書、討伐ギルドといったケンジの知らないことを知っているのは言うまでもない。ただ、その理由までを深く探ろうとしたことはない。せいぜい、精一杯生きるためにエナキ自身が情報収集を頑張っているのでは、というのがケンジの考えていることだった。


目の前に倒れたアンデット系に聖水をかけて、次に控えている魔物の相手に向かう。


「でも、そんな奴見かけたことないですけど…」


「俺はドーバンかもしれないと思っている!はぁ!」


斧が振り下ろされた。


「ドーバンさんが?」


「元々エナキを選抜パーティに誘ったのは、コウガではなくドーバンが最初だったからな。気に掛けられていたとしてもおかしくない!ふんっ!」


ケンジも同じようにして刀を振り下ろす。再び槍を受け止め、ティアに合図を送る。気が付けば、ひと足さきにダイゴは戦闘を終えている。


「腑に落ちないところがあるにせよ、仮にエナキに助言する者がいて、それが王族や貴族と密接であれば望ましい。逃げる先となれば、西側は未開拓の地だ。だが、リスクがありすぎる。となると残るのは王都側がある東側だ。だが、貴族と王族が多くなる。どこにも逃げ場はない。そう言った意味でもエナキの存在は俺たちに、燈にとって重要だ」


「....それをコウガに伝えない辺り、まだ歪みあっているのね。あなた達」


後方からティアの声が聞こえた。矢がケンジのすぐ真横を通り抜けて、再び頭蓋骨に命中する。

ダイゴは答えなかった。代わりにケンジの対応していた魔物を切りつけた。


「ケンジ、心当たりあるか?」


「いや、全く。そもそもアイツは元々何かを話したりする性格じゃないんで…」


後ろにいるモモカにも目線を送ると、首を横に降っている。心当たりはないそうだ。


「特に最後のスキル…あれはエナキ君のスキルだよね?ケンジ君は知ってたの?」


一通りの戦闘が終わりに近づいてきたミライがケンジに聞いてきた。ケンジは首を振った。確かにそうだ。


<<風神・ユナイトテンペスト>>。あれはかなり強力なスキルだった気がする。しかし、そんなスキルを持ち合わせていたことすら、いつ入手したことすら、ケンジは知らなかった。


そう伝えると、ダイゴの表情が険しくなった。

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