96.王立図書館にて②
ラピス公国はトワール大陸の北側に位置し、クルール王国の倍ほどある領土の広い国だ。
冬季には雪に閉ざされる部分もあるが、その土地が広大な針葉樹林なので、さほど困らないらしい。
木には、針葉樹と広葉樹があり、針葉樹は比較的涼しい気候を、広葉樹は温かい気候を好む。
繊維の短い広葉樹は紙を作るのに向かず、繊維の長い針葉樹からは、強度の強い紙が作れる。
ラピス公国は涼しい気候を好む針葉樹林がたくさんあり、その土地柄を生かして製紙産業が発達したらしい。
また、大陸の海を隔てた向かい側にはまだリリーが習っていない外国があり、そこからインクを交易で仕入れているから印刷や製本技術が進んでいるのだ。
木の繊維から紙を作るように、綿や麻などの植物から作る布の産業も発達している。
貴族が着るようなドレスだけでなく、いわゆる洋服みたいな、普段着に良い装いも、他国に先駆けて作られているようだ。
製紙にも製布にも綺麗な水が必要だが、ラピス公国にはたくさんの綺麗な川が流れていて、水には事欠かないらしい。
代表的な川はフルス川、リヴィエール川、ルードハーネ川、ポタモス川で、それらが都市を分けている。
観光としては船に乗っての川下りが知られていて、特に流れがゆるやかで景色が見やすいルードハーネ川が人気だ。
フルス川は山から平地に流れる途中が滝になっていて、晴れた日はそのしぶきから虹が浮かび上がるため、虹の名所になっている。
国の西側では酪農も盛んにされており、チーズやヨーグルトの種類が多く、美味しいそうだ。
植物から作る布は勿論、羊毛から作る織物も重宝されていて、寒い地域や季節は、もこもこした温かい服で暖をとっている。
そのため、羊飼いを生業にしている人も多い。
何てバランスの良い国なのかしら。
領土が広く、また国境付近に高い山があったりするためか、今まで他国から攻め込まれたことのない平和な国だ。
だからか、軍備に関する記述はどの本にも見当たらなかった。
これらがきっと、あの交響詩にはイメージとして織り込まれているはず。
リリーはホールで聴いたラピス公国の交響詩を思い出しながら、まだ見ぬ土地に思いを馳せた。




